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水火も辞せず

 辺り一帯が見渡せる高台から自分の小隊がほぼ壊滅しているところを目の当たりにし、ユリは自分の目算を誤ったと同時に、相手の手ごわさに心を躍らせた。

 思った通り、兵士の生き残りと戦っているのはディーブである。

 予想外なのは見える範囲に自分の兵士の生き残りが3人、そして敵はディーブ1人であることだ。ディーブの近くにいつもいるトーマンはおろか、味方の兵を全く従えている様子がない。

(まさか王子一人で戦っているわけでもあるまい)

 ユリは用心深く周りを観察したが、やはり人影はない。

(すでにここまで到達しているということは、国境は全滅か・・・)

 現在はネハ国のほぼ真ん中の土地だ。思ったよりディーブの対応が早いことにユリは舌なめずりした。

(つまり、それだけルービスが大事ということか・・。自分の後ろに味方が付いてきていないことにも気づかないほど気が急いているのか・・・? それとも俺を待っているのか・・・)

 ユリは兵士が全員殺されてしまったのを見て、高台から駆け下りて行った。

 ディーブの背後から迫る格好になったが、馬の接近に気づかないわけがない。それにしてもディーブは間際まで振り返らなかった。

「ユリか」

 返り血で全面血だらけだ。ディーブはさすがにいつもとは違う、鬼気とした顔で振り向いた。

「ずいぶん僕の兵をいじめてくれているな。・・・D,一人か?」

「きみと戦うのは避けたかった・・・。勝てる気がしない」

 ディーブは剣を振って刀に付いた血を落とした。

「その割には戦う気満々だな。あいにく、僕も負ける気がしない。やめておいた方がいいぞ」

 ユリも剣を抜いて馬からひらりと飛び降りる。だらりと剣を下ろし、悠然としているがまるで隙がない。

「・・・率直に聞こう。ルービスは無事なのか?」

「直球だな。もちろんD次第だよ」

 ユリは胸元からルービスの短剣を出してディーブの足元に投げた。

 ディーブはそれをちらりと見て剣を構えた。

「あんな美人、紹介してくれないなんて。僕とDの仲なのに。つれないな」

「・・・条件は?」

「降伏だ」

「無理だ」

「だろうね」

 ユリはディーブの間を詰め始めた。ディーブは後退しながら緊張を保つ。

 ユリの表情、手足の動きを慎重に見ていたはずなのに、次の瞬間間合いは詰められていた。

「!」

 とっさに構えた剣に、ユリの剣が重なってくる。一瞬遅ければ一太刀されていただろう。ディーブはバランスを失って、よろけながら大きく後ろに下がった。かろうじて転倒は免れたが左手を地面についてなんとか体勢を整えた。

 ユリはそれをその場に立ったままただ見ていた。ぶらりと剣を再び下げ、見た感じではまったく戦う気はなさそうだ。

「条件は降伏だ。どうせ勝てっこないんだ。呑めよ」

 ユリはディーブが立ち上がるのを見届けて言った。

「できない」

「戦争は嫌いだって言ってたじゃないか」

 今度はディーブから向かっていった。すばやくユリの懐に飛び込んだ。

 しかし、見切られていたようだ。ユリはタイミングよく横に移動しディーブの剣を逃れ、逆にディーブの後ろを取り、剣の背を使ってディーブの背中に叩きつけた。ディーブは前のめりに地面に転がってしまった。

「やっぱりいたか」

 ユリは顔をディーブに向けたまま、背後の気配に気づき言った。

 振り返ると息を乱したトーマンが立っていた。

「遅かったな。あぶなくDを殺しちゃうところだったよ」

 ユリは笑顔で振り返り「トーマン、久しぶり」と続けた。

 トーマンはユリには答えず、心配そうにディーブを見つめた。ディーブはすでに立ち上がってこちらを見ている。

「トーマンからも言ってくんない? 降参しろって」

 トーマンはディーブと目配せをし、共に剣を構えた。

「やれやれ、わかってくんないな~」

 ユリはかったるそうにため息をついた。

「じゃ、ちょっと暴れちゃおうか」



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