再会
「さあ! 出発しよう!」
ルービスは胸に出来たての地図を、背中に機械を背負って手を振り上げた。機械はルービスが背負うと随分小さく感じる。
「おいケディ、あのルービスが背負っているがらくた、あれなんだ?」
レジアンがケディに耳打ちすると、皆集まってきた。
「ばかやろう! あれはがらくたなんかじゃねえ。イッサクだ!」
ケディは中指を立てた。
「はあ?」
みな、眉を八の字にさせて首を傾げた。
「つまり、聞けばぶっ殺すってことだよ!」
ケディはそういいながら、もうレジアンの顔に特大パンチを食らわせていた。
「何やってんの? 早く行こうよ!」
ルービスはもうずいぶん先に進んでいる。
「今行くよ!」
ケディは3人をひと睨みしてから駆け出した。後に残った3人はお互いに顔を見合わせ首を傾げるしかない。
しばらく歩いていると、突然ルービスの手首にはまっていたリストバンドが外れ、鈍い音を立てて下に落ちた。
「ありゃ」
「いいよ、オレが拾う」
ルービスの後ろを歩いていたケディはそれを拾って腑抜けた声を出した。
「なんだこりゃあ! なんでこんな重いの付けてるんだよ」
ケディは皆にそれを回して相槌を求めた。
「すげえ! 重い! なんだこりゃあ」
みな驚嘆する。
「プレゼントだよ」
ルービスはほのかに顔を赤らめた。
「プレゼント? ほんとにおたくには毎度驚かされるけど・・・」
ケディはルービスの顔をまじまじと見つめた。
「・・・そんなんじゃあ、恋人もできないぜ」
「失礼なことを言う」
ルービスは口をとがらせ、リストバンドを受け取った。
「私はもう人妻だよ」
「はああ???」
全員が一斉に口をかくんと開けた。ルービスは少し膨れてその反応を見る。
「心外だな、そんなにおかしい?」
「オイオイオイ!」
ケディは目を白黒させている。
「じゃあ・・・、夫さんはどこにいるんだよ! おいてきぼりか?」
「家族はいないって言ってたんじゃあ…」
レイもじとっとルービスに擦り寄る。
「エエ?? う~ん・・・」
ルービスは首を傾げた。
「ちょっとわからないけど・・・、どこにいるのかなあ」
「夫さんも旅してんの?」
「う~ん・・・、旅なのかなあ。旅なんだろうなあ」
ルービスは腕を組んで考え込んだ。
「オ! やばい、チュチタの行進だ。宿が埋まるぞ」
ケディが長身を生かし、遠くの集団を発見した。「チュチタ」という言葉にルービスが反応をする。
「え? 新兵の行進?」
「そう、チュチタの行進。兵隊だよ」
レイが指を指してその方向を示す。
ルービスは息を止めて大通りを埋め尽くす群衆を見た。男ばかりの雑踏。
確かに新兵の行進だ。
(もうここにいるなんて!)
ルービスは一目散に駆け出した。
「ルービス! どこに行くんだよ!」
ケディ達は突然走り出したルービスを追いかけた。が、ルービスのように小柄ではないので群衆の中を上手くすり抜けられない。ケディ達はすぐにルービスを見失った。
(このどこかにDがいるはずだ!)
ルービスは人ごみの中を走り抜けた。ディーブを乗せた馬車はかなり後ろにあるはずだった。ジャンプをして遠くを確認すると、見覚えのある馬車の屋根が見える。
(もうすぐだ!)
ルービスは人を押しのけるのも構わず走り続けた。
やがて人ごみが晴れて、遠くを見渡せるようになる。馬車はもう近い。ルービスは辺りを見渡し、店に入りかけているディーブの姿を発見した。
「D!」
ルービスは張り裂けんばかりの声を出した。
ディーブはすぐに気が付き辺りを見回し始めた。ルービスは嬉しくなって、だが驚かせたくて、わざとフードも布も巻き付けたまま走り寄った。
近くまで行くと、ディーブもルービスを認めてこぼれるような笑顔を見せる。
「D! D!」
ルービスは力いっぱい走った。ディーブは両手を大きく広げて待ち、ルービスが飛び込んでくると強く抱きしめた。
「ずいぶん早く会えてしまったな」
ディーブはルービスの腕をつかんで笑った。
「もう塔には行ったか?」
「ううん」
ルービスはディーブの胸に顔を埋めたまま軽く首を振った。
「もう父親と会えたか?」
「ううん」
ようやく顔を上げ、ルービスは微笑んだ。
「マラハラ国を通って、サーブ王国にいくの。塔はサーブ王国のものだった」
「サーブ王国?」
ディーブは途端に顔を曇らせた。
「どうしたの?」
ルービスが心配そうに言うと、ディーブは微笑んだ。
「いや・・・、なんでもない。それよりお腹空いていないか? 今から食事なんだ。一緒に食べよう」
ディーブが店のドアを開けようとすると、ルービスの名を連呼するケディ達の声が聞こえてきた。
「あ! いけない」
ルービスは肩をすくめた。
「友だちを置いてきちゃった」
「友だち?」
ルービスは頷いて人ごみを見つめた。
「みんな! こっちだよ!」
大きく手を振りながら叫ぶと、ケディ達が人ごみの中から躍り出た。
「ルービス! もう少し落ち着いて行動とれないのか!」
ケディは青筋を立ててルービスを睨んだ。
「ごめんごめん。ついつい。・・・D、この人たちが私の友だち。一緒に塔まで付いてきてくれるんだ」
ケディ達はルービスの横に立つディーブに気づいて弾かれたようにフードを取り、気を付けの姿勢をとった。
「ケディ・・・? なにやってんの? ・・・この人は・・・」
「ディーブです」
ディーブはルービスが言うより早く名乗り出た。
「ルービスに付いて行ってくれるのですか」
ディーブは手袋を取ってケディ達に歩み寄った。ケディ達は体をカチコチにさせて敬礼する。
そのぎこちなさと、ひどい緊張した様子にルービスは思わず吹き出してしまう。
「そう畏まる必要はないですよ。ルービスの友だちは私の友だちです」
「そうだよ、がらにもない」
ケディ達はからかうルービスには目もくれず、相変わらず緊張を解かない。
「あの・・・でも・・・王族・・・の方なのでは・・・」
ケディは汗を吹き出しながら、ディーブを畏れ多くも眺めた。ケディ達でもディーブが王子であることは一目でわかるらしかった。
「・・・その通りですが、そんなに畏まれることはありません。どうですか? 一緒に食事を・・・」
「とんでもない!!」
ケディは電気ショックでも受けたかのように体を一直線にさせた。
「オ・・オレ達は! 私たちは向かいの店にいますから!」
ケディがそう言って深く頭を下げ、身を翻して向かいの店に駆けて行くと、他の全3人も弾かれたように敬礼をし、転がるようにケディに続いて行った。
「・・・」
「嫌われてしまったかな」
「まさか」
残されたルービスとディーブは互いに顔を見合わせて苦笑した。




