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僕、鏡見昇は勉強も運動も人並み以上にできた。僕にできない事は何ひとつなく、人に劣る部分は一切ない。というのは僕を知っている人なら全員が理解している事。
誰も知らないのは、僕はある子に好意を抱いていること。クラスメイトの堺夜流、彼の可愛さは異常である。人懐っこく誰にでも優しいところや、短所と思われがちな156cmの非常になでやすい身長、ころころと変わる表情、生え際だけが黒い金髪、ぱっちりした綺麗な瞳…と、夜流の魅力を挙げれば止まらないのだ。
彼への思いが抑えきれない僕は思い切った。夜流の制服にバレないよう盗聴器を付ける事で一日中彼の声を聞く事に成功した。彼のためであるなら盗聴器のひとつやふたつ、何も気にせず買う事ができる。家が裕福で良かったと思ったのはこの時が初めてだった。
ありがたいことに、僕の周りには人が寄ってこない。つまり、周りに配慮せず夜流をいつでもながめていられるということだ。そのおかげで今日も夜流を観察する事ができている。
「もうすぐテストだねー。俺さっぱりわかんなくてさ、誰か教えてくれないかなー。」
僕が教えてあげてもいいよ、なんてもちろん言えない。言えるわけがない。僕は遠くから見ているだけでいいのである。いや、見られるだけで嬉しいんだ。夜流に近づく、ましてや会話など遠慮すべきことなのに夜流の周りにいる奴らはいったい何を考えているんだ。別に羨ましいとかじゃない。
「あ、ねえねえ昇くん、数学教えてくんない?」
もう少し自分の立場をわきまえて夜流と接するべきだ。まあ僕はこうやって見ているのも嫌いではない。
「昇くーん。」
「なんだ。今は忙し…くないです。なんですか?」
こういうイレギュラーなことはやめてほしい。夜流であっても。僕にだって心の準備というものは必要なんだ。
「なんで敬語なん?このあと勉強教えてほしんだけどいい?」
「やらせてください。」
「サンキュー。どこまで教えてもらおっかな。あ、俺の家きてよ。外じゃ集中できなくて。それとせっかくだし一緒帰ろ?」
「堺くんの家行きます。一緒に帰ります。」
夜流に勉強を教える。夜流の家にあがる。僕が思い描いていた事がこんなにも簡単に起こっていいのだろうか。今日の帰り道は、とにかく心臓がうるさかった。
「堺くん…ご両親に挨拶したほうがいいですか?」
「別にいいよ。てかなんで?家あがるだけだよ?」
「あ、いや今後関係が変わるかもということでいい印象を残そうと…。」
「えー何それ。昇くん面白いね。」
「僕の前で笑わないでください。さすがにそれはキャパオーバーです。」
笑顔の夜流に、僕はかなり弱かった。
夜流に数学を教えながら駄弁ってどれくらい経っただろう。夜流は「わからない」と言いつつ僕が教えるとすらすら解けている。
「ちょっと休憩。疲れちゃった。トイレ…と下からお菓子取ってくるね。」
部屋から出て夜流が下の階に行ったのを確認してドアを閉めた。絶好のチャンスを僕は無駄にしない。いつも小型カメラと盗聴器を持ち歩いていてよかった。窓、カーテンの裏、ドア、天井の電気、勉強机、いろんなところに設置した。懸命に掃除でもしない限り見つからない。これで学校以外でも夜流を見る事ができる。
安堵していると階段を登る音が聞こえ、夜流が部屋に入ってきた。
「お待たせー。昇くん食べれるのある?」
こうやって丁寧に聞いてくれるところも夜流のいいところだ。可愛い。
「僕は大丈夫です。堺くんが食べてください。」
「もらってよー。教えてくれたお礼だから!」
夜流はチョコの包みを渡してくると満足そうにした。
「じゃあいただいておきます。」
「さっきから気になってるんだけどさー、タメでいいよ?年一緒だし。あ、でも無理にじゃなくて、昇くんの素でいてほしいなって。」
「…堺くん、問2が間違えてます。」
「えっあ、ほんとだ。どうやってやるんだっけ。」
危なかった。夜流への思いを全部伝えてしまうところだった。あんな目で見られたら僕だって取り乱す。堺夜流…罪な男である。




