第20話
木下藤吉郎秀吉が高幡城へやって来ると、近藤、土方、沖田をはじめ、門人や家臣たちは温かく迎えた。
「今日より木下藤吉郎秀吉殿には、城の内政を任せる」
近藤が正式に告げると、藤吉郎は深く頭を下げた。
「若輩者ではございますが、命を懸けてお仕えいたします」
歓迎の宴もそこそこに、藤吉郎は翌朝から城内を歩き回った。
蔵の中。石田散薬の作業場。城下町。田畑。市場。
一日中歩き回り、農民や商人、職人たちの話に耳を傾ける。
三日後、藤吉郎は近藤・土方・沖田を前に一枚の書付を差し出した。
「問題点が見えてまいりました」
土方が書付を見る。
「もう分かったのか」
藤吉郎は笑った。
「ええ、ここには、人も物も揃っておりますが、少々勿体ない」
近藤が尋ねる。
「勿体ないとは⋯どういうことだ」
藤吉郎は指を折りながら説明する。
「まず、石田散薬。作る者と売る者が別々に動いているため、無駄が多すぎます」
「まずは販売を専門にする者を決め、各地の商人との取引もまとめるべきです」
沖田は感心した。
「確かに、今までは私や土方さんが空いた時間に売っていましたね」
「次に市場です。毎日開く必要はありません」
「決まった日に大市を開けば、人も商人も集まり、さらに賑わいます」
近藤が腕を組む。
「なるほど」
藤吉郎はさらに続ける。
「そして農閑期。石田散薬の製造を本格的な副業にしましょう」
「男衆は薬草を刻み、粉にする。女衆は袋詰め。子どもたちは紙を折る手伝い。仕事を分ければ、もっと多く作れます」
土方は思わず笑った。
「やっぱり連れてきて正解だったな」
藤吉郎は照れくさそうに笑う。
「まだあります。商人は信用が命です。代金は必ず約束どおり払い、偽物を売る者は二度と商売できないようにする」
「そうすれば自然と『高幡城の商品なら安心』という評判になります。」
近藤は大きく頷いた。
「よし。その案、すべて採用する」
こうして藤吉郎の改革が始まった。
石田散薬は製造工程が整理され、生産量はこれまでの倍近くまで増えた。
販売は行商人ごとに担当区域を決めたことで効率が上がり、武蔵だけでなく相模や甲斐へも販路が広がっていく。
城下では定期市が開かれるようになり、商人が集まり始めた。
農民たちも副業による収入を得られるようになり、領内は活気に満ちていく。
その様子を見た沖田は思わず苦笑した。
「私たち三人で何日も悩んでいたことを、藤吉郎さんは数日で片付けてしまいましたね」
土方も笑う。
「あいつは剣はからっきしだが、金と人を動かすことに関しては天才だ」
近藤は満足そうに頷いた。
「適材適所とは、このことだな」
藤吉郎は頭をかきながら笑う。
「私は戦では役に立ちません。ですが、この国を豊かにすることなら、誰にも負けるつもりはありません」
その言葉どおり、高幡城の内政は飛躍的な発展を遂げていく。
後に人々は語る。
「高幡城が一国として大きく飛躍したのは、木下藤吉郎秀吉が奉行となってからだった」と。




