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第8話

動きは、表には出さない。


それが歳三の方針だった。


武具の調達は、細かく分けられた。


刀は一本ずつ。槍も農具に紛れさせる。


「一度に集めるな」


歳三は言う。


「目をつけられる」


鍛冶屋や商人も分けて使い、足跡を残さない。


「時間はかかるが、それでいい」


焦る必要はない。戦は、準備で決まる。


一方、道場の門人たちが集められ、その前に近藤が立つ。


そして静かに門人たちに問いかける。


「これから先のことだ」


門人たちの騒めきが止まり、近藤は言葉続け


「今から命のやり取りになる。それでも、ついてくる者はいるか」


近藤が言い終えると、道場内は沈黙する。


だが、それは一瞬だった。


「やります」


一人が言う。


「俺もやります」


続いて、また一人。


「どうせこのままじゃ、畑で終わりだ」


「だったら、先生たちにこの命賭けます」


門人たちの声が重なる。


多くが、農家の次男・三男、継ぐものを持たない者たち。


この時代において、運命を賭ける事はそれは、そのまま“野心”だった。


近藤は、静かに頷いた。


「いいだろう。お前たちの命、預かる」


近藤達の目に、迷いは無かった


そして夜、三人が集まる。


「思った以上に集まりましたね」


沖田が言う。


「ああ」


歳三も頷く。


「使える」


近藤が腕を組む。


「だが、元はただの百姓だ」


「その通りだ」


歳三は即答する。


「だから作る。兵に、な」


方針は、すでに決まっていた。


「大石の後ろにいる北条とはやらねぇ」


歳三が言う。


「相手は大石だけだ」


「だが、正面からやれば北条が出てきて潰される」


沖田が続ける。


「だから、三田ですか」


「そうだ」


歳三の目が細くなる。


「大石との仲裁役として使う」


「反北条の気があるなら、なおさら動きやすい」


近藤が頷く。


「三田を間に立たせることで、戦を小さくするか」


「そうだ。大きくすれば、北条が出てくる」


それだけは避ける。あくまで“局地戦”。


だが――絶対に勝つ。


そして訓練では土方が持ち込んだのは、これまでとは違うものだった。


「構えろ」


歳三は号令をかけ、門人たちが並ぶ。


だがその並びは、今までの剣術のものではない。


「列を揃えろ」


「間を保て」


「勝手に動くな」


門人たちに戸惑いが広がる。


「これが戦だ」


歳三はが言う。


「一人で戦うな」


「全員で動け」


剣術ではなく、戦術だった。


まずは、近藤と沖田。


「……なるほどな」


近藤が頷く。


「理にかなっている」


沖田も、木刀を肩に担ぐ。


「一人が強くても意味ない、ですか」


「数で押す」


土方は言う。


「だが、ただの数じゃねぇ」


「動く数だ」


連携、統制。そして崩れない隊。


それは――かつての新選組が持っていたもの。


だが、それをさらに研ぎ澄ませた形だった。


やがて、それは門人たちに教えられる。


最初は、ぎこちない。お互いにぶつかり、乱れる。


だが――


「止まるな!」


「前を見ろ!」


声が飛び、何度も繰り返す。


やがて、動きが揃い、足音が重なる。


一つの塊として動き始める。


「‥‥形になってきましたね」


沖田が呟く。


近藤も頷く。


「ああ」


二人の視線の先には、歳三が立っている。


腕を組み、黙って見ている。


(間に合う)


歳三は確信していた。


静かに、だが確実に準備は整いつつあった。


武具・人・戦術。


そして意思。


あとは、火をつけるだけだ。

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