冬の魔女
魔女
魔女は腹が減っていた。
魔女はだらしがない。魔女はこぎたないばーさんだ。
魔女は就職していない。住所もない。それでもなんだかんだと千年以上生きている。死なないから焦って就職しないってのもある。
だが腹は減り、空腹感が脳を責める。
雪が降ってきた。
魔女は風邪をひかない。だが寒さが魔女を苦しめる。
寒さから逃れるために空き家、いや、廃墟に入る魔女。鍵などない。というか玄関は既に壊れていた。家の中は汚くて何か敷かないと汚くて座れない。まあ、魔女は平気で座るのだが。
魔女は一息ついて右を見る。
そこには無気力に座る男がいた。先客だ。
その男の存在を魔女は知っていた。そしてその男がもう何もする気力がないことも知っていた。魔法で男の記憶を読んだから。
こんなのは千年の間に何度も見ている。
魔女にとってはこの男の味わった地獄も苦しみも興味ない。興味があるのは側に置いてあるチーズケーキだけ。
せっかくのケーキを食べないのは勿体無い。男が食べるのであれば手出しはしない。しかし食べる気はないらしい。
魔女は全てを読んでいる。知っている。
だが言うのが礼儀。
「それくれないか?食べたい」
男は気付いていても興味を示さなかった老婆にようやく顔を向けた。男は暫く考えた後自分の横にあったチーズケーキを魔女の方に差し出した。
「ああやるよ、でも一つだけだ」
ここにケーキは2個ある。
ひとつは男の横にあったやつ。もう一つは敷かれた布団の横に。
「一つは美咲のものだ。僕のをやるよ」
「ありがたい。その人の魂に安らぎが訪れますように」
美咲と呼ばれた物体は布団の中。既に息はない。運命に恵まれなかった女。息を引き取ったのはまだ数時間前のはず。多分最後の晩餐としてケーキを用意したが間に合わなかったか食べることができない状態だったかだ。男の最近の記憶はごちゃついてて読むのが面倒臭い。それに魔女にはどうでもいいことだ。
魔女はチーズケーキの美味さに感動した。
別に初めて食ったわけじゃない。
1000年以上も生きてるし。
だが、空腹時にこんな美味いものを食べると理性がどうにかなってしまう。
そしてそこにもうひとつある。もうひとつ食いたい。
食べれない人用のチーズケーキ。
そこにある。
「なあ」
魔女は交渉を開始した。
「それくれたらいいことしてやるぞ」




