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1、終末の一人ラジオ

こちら、ポストアポカリプス的な世界を旅するお話です。

地上48階、生きた音のひとつもしない高層タワービルの最上階から、遥か下に広がる風景を見下ろす。塵やスモッグで上書きされた地上は灰色と茶色の混合色。この世にある鮮やかな色全てがすっかり失われてしまったようだ。


『F48 展望台』と書かれたプレートはこの建物の本来あるべき姿を映す。四方がガラスで囲まれたフロアには塗装の剥げた双眼鏡が一定間隔で設置されている。コインを入れると使用出来るようだったが、あいにくそれに相当する物は持ち合わせていなかった。


僕はそんなフロアの片隅、街の中心の電波塔がよく見える位置に荷物を降ろす。今いる室内と外界を区切る窓ガラスは細かな砂が張り付き黄味がかっていて、よく見ると無数の小さな傷がついている。


冷たい床に腰を下ろして、顎の下ほどの高さもある大きなバックパックの中を両手で探る。食料やら衣服やらの様々な物が詰まっている上の層を過ぎて、底の方に馴染みのある冷たい感触が指先に触れると、それをがっしりと掴んでリュックサックの外に引きずり出した。毎度のことながらかなり重たい。指先にかなりの重量がかかる。


よいしょっと……


姿を表したそれは重厚感溢れる深緑色の塗装が施され、その表面にはいくつかの突起とメーター、そして側面には伸縮式の太いアンテナが一本付いている。

そのアンテナを先を指でつまんで、徐々に引っ張り出していく。一段階、二段階……と伸ばしていき、限界まで伸ばすと、それは最終的に子どもの背丈くらいの長さにまで伸びた。


僕はがっしりとしたフォルムのこいつが好きだった。揺らぐ世界でこいつだけが地に根をしっかりとはっている感じがするのだ。


次にカバンから一冊のノート──ネタ帳──を取り出す。所々ページが折れたりよれたりしていて、まっさらだったときよりも幾分か分厚くなっていた。そのノートの上部に付箋が貼ってあるページを開き、赤と青のインクでラインの引かれた箇所に目を通す。


お気に入りの大きめのヘッドフォンは、そのコードの先のプラグを機器に差し込んで、左手で片耳に当てる。


そして最後に、深緑色の機器の側面にあるスイッチを押し込んで電源を入れる。メーターの針が横に振れはじめて、ヘッドフォンに微小なノイズが走る。


さぁ、はじめようか。トランシーバー型の四角いマイクを口の前に持っていく。


すぅと小さく息を吸って、はき出す空気に声を乗せる。


──はい、こんにちは。時刻は午後三時頃。第十九回、終末のラジオのお時間でございます。えー、天気は曇り、気温は昨日と殆ど変わらず、ジャンパーの上からでも空気の冷たさを感じる程度です。さて今日のニュースですが──


今日はいつもより少し長く放送を流すことを予定している。


──えー、ここの配信場所にたどり着くまでにですね、古びたレコード店をたまたま見つけてですね、レコードって今の時代かなり珍しいでしょう。あいにく、ここら辺の地域に住んでいた人は皆もうどこかに行ってしまったみたいで、店主はいないようでした。かなり長いこと放置されていたのでしょう、ホコリもすごくて、そんな中でまだ状態の良さそうなもの数枚だけ貰ってきてしまいました。あ、勿論代金はお支払いしましたよ。値段が書いてなかったのでそれ相応かと判断した物をカウンターに置いてきただけですけど。では、少し流してみますね。幸いこちらにそれを流せる機器があるのでね──


円盤に丁寧に針を下ろすと、ゆったりとしたメロディが流れはじめ、その少し後にそのメロディに乗せて主旋律が聞こえはじめた。いつ頃の曲だろうか。所々音とびが酷い箇所がある。やはり保存状態はあまり良くなかったようだ。しかし、曲自体はそれほど悪くなさそうだ。ノイズ混じりのサウンドが逆に味になっていて、落ち着きを与えてくれる。

レコードには一枚につき二曲づつ収録されていて、二枚分を聞いたところで一旦一区切りをした。


──さて、それでは今回はここら辺で閉じたいと思います。今回の放送範囲は結構狭くなってしまったので、次回はもう少し多くの人に届けたいと思います。それでは、また──


元はこのラジオ放送は父親の仕事だった。映像が発展を続けていった中で、音声という媒体のみで情報を発信するラジオはもちろん肩身の狭い存在ではあったが、一方でその情報の確実性の高さと巧みな話術である程度の人気を保っていた。今では再生することが難しいとされるレコードを再生できるのも父の拘りによるものだ。

現在は訳あって僕がその仕事内容を引き継いでいるわけなのだが。しっかりと受け継げているのだろうかとかそんなことを思ってしまう。皆を魅了する話術はないし、父ほど美しい文の構成を作り上げる力もない。

そんなこと考えても仕方がないのだが……


何となく機材の片付けがめんどくさくなって、地べたに腰を下ろしてガラス越しに外の景色を眺めていた。あ(・)の(・)事(・)件(・)が起こって以降、ここら辺の街も他と同じく廃れてしまった。昔は観光名所として毎夜のごとく光っていたあのビルもタワーもすっかり色あせて今では灰色の街と化していた。


懐古とも悲壮とも言えない微妙な気持ちが胸を揺する。


────何はともあれ、いま現在で確かなのは、この床に置きっぱなしになっている機器を片付けないといけないということだ。

重い腰をなんとか持ち上げて、その重厚感溢れるボディに手をかける。



エレベーターの到着チャイムが聞こえたのはその時だった。

読んでいただきありがとうございます。

不定期で更新していきますので、宜しければ次のお話も覗いていってください。

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