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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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別章 詩夕たちの鍛錬

ここから5話分、親友サイドです。

 時は遡り、舞台はビットル王国へ――。


 詩夕たちの成長速度は、シャインたちが来た事によって飛躍的に上昇していた。

 世界最強の一角からの手解きに、それだけの効果があるのかは疑問である。

 何しろ、シャインがまともにアレコレ言えるのは、自分と同系統のスキルを持つ、樹と天乃だけ。

 グロリアは、咲穂に。


 その他、詩夕、常水、刀璃、水連となると、シャインとグロリアは、積極的に何かを教えたりはしない。


「下手に教えて変な癖が付くと面倒だからな。同系統のヤツが見つかって来るまでは、身体能力をもっと向上させておけ。大抵の場合、強いヤツがモノを教える時ってのは、無茶な事を言いがちだからな。まぁ、私は優しいが」

「……」

「「「「………………」」」」


 四人が、それで? と視線を向けたのは、シャインの足元でピクリとも動かない、ボロボロの樹。


「「「「わかりました!」」」」


 四人は学習した。

 なので、詩夕、常水、刀璃、水連の四人に関しては、現在身体強化に重点を置いて鍛錬を行っている。


 それでも、詩夕たちは強くなっていっていた。

 世界最強クラスの強者が組手を行っているからか、異世界転移補正か、元々の才能故にか、またはその全てが影響しているかはわからないが。

 ただ、己の成長を実感出来れば、それはやる気にも繋がり、モチベーションの高さも維持しやすい。

 好循環が生まれていると解釈出来るだろう。


 そんなある日の、鍛錬終わり。


『………………』


 既に日常と化している、シャインだけが立ち、詩夕たちは死んだように倒れている鍛錬場。

 死んだように、というのが重要である。

 実際は死んでいないのだ。


「……よし、まだ限界ではないようだし、もっと追いつめられるな!」


 嬉しそうに言うシャイン。


「……い……きょ……む……お……」


 絞り出したような声で、途切れ途切れ答えたのは、樹。

 恐らくだが、「いや、今日はもう無理だと思います」と言ったのだろうが、聞き取るのは難しかった。


 だが、そんなのは関係ないと言わんばかりに、シャインの笑みは崩れない。


「お前らは日々強くなっている。それはつまり、それだけ限界も日々伸びていっている訳だ。それをきちんと把握しておくためにも、昨日よりも今日が厳しくなっていくのは当然だろ」


 なるほど。だから自分たちは、毎日のようにこうして鍛錬終わりは倒れていて、限界まで追いつめられるのか、と納得――する訳もなく。


「……」


 声も出さず、音も立てず、詩夕は動く。

 武器を構え、一直線にシャインの下へ。

 シャインを挟んで詩夕の反対側では、常水が同じように動いていた。

 詩夕は剣、常水は槍のため、リーチの長さで先に到達するのは、常水の槍。


 樹は笑みを浮かべる。

 自分にシャインの注意を引き付けるために、あえて声を絞り出して発したのだ。


 シャインが言わなくても、日々の成長は詩夕たちも実感出来ていた。

 それでも、正攻法ではシャインに未だ傷一つ傷付けられていないのが現状である。


 だからこその奇襲。

 念入りに計画し、詩夕たちに協力を申し出て実現した、シャインに一泡吹かせたい、と願う樹が主動の奇襲だった。

 スキルだけではなく、グロリアの事もあってか、普段から念入りの徹底的に鍛えられている樹の、ほんの些細なやり返し……ではない、はずである。


 詩夕と常水が樹に協力したのは、その辺りを踏まえて……かどうか、察しているかもしれないが、今回は共に戦う仲間だから、という思いの方が強い。

 男同士だからこそ、わかり合える部分がある、という事もあるかもしれない。


 だが、未だに詩夕たちとシャインの間には、圧倒的な戦力差があるのは事実。


 常水が構えた槍を突き出した瞬間、シャインの笑みはより深くなる。

 一瞬で常水の槍の穂先部分を指で挟んでとめ、ワンテンポ遅れてくる反対側の詩夕の剣も同じようにしてとめた。


 だが、これは布石。


 両手が塞がったシャインに対して、即座に動く者が居た。

 跳ね起き、前に飛び出した樹が攻撃を放つ。


 ……ドロップキックを選択した辺り、まだ余裕があるのではないかと窺える。


「死ねやぁー!」


 恐らく、本気ではありません。

 多分、本心でもありません。

 後先は、考えていません。

 きっと、勢いです。


 全力ドロップキックがシャインに迫る。

 シャインは瞬間的に上体を逸らす事で回避した。

 その際、剣と槍を指で挟んだままだったため、逸らす上体合わせて手も下げられ、詩夕と常水は武器を手放す間もなく倒れる。


 そして、樹は見た。

 ドロップキックの体勢のままシャインの上空を通過する際、シャインが嗜虐的な笑みを浮かべて自分を見ているのを。

 もちろん、目もバッチリ合う。


 この世界で更に鍛えられた身体能力を発揮して、樹はドロップキックの体勢から難なく綺麗に着地。

 点数を付けるなら、十点満点。


 樹が即座に振り返る。

 視界に映ったのは、シャドーボクシングのように左右の拳をリズミカルに繰り出すシャインの姿だった。

 詩夕と常水は、既に頭部に大きなたんこぶが出来て倒れている。


「……なんてね!」


 樹は、まるで無垢な少年のような笑みを浮かべた。

 それでも、これから行われる事の結果は変わらないが。


 ちなみにだが、女性陣は、まぁこうなるだろうな、と早々に理解していたため、最初から不参加だった。


     ◇


 ある日の鍛錬終わり。


「……そろそろ、一度確認してみるか」


 シャインがそう呟く。

 もちろん、詩夕たちは死んだように倒れている。

 だが、ここでその呟きの内容が気になったとしても、反応するような失態は誰も起こさなかった。


 もし反応しようものなら、鍛錬追加である。

 強くなるためには望むところなのだが、いかんせん体は、本能は正直だ。

 無理して壊れたら元も子もないよ。時には体を休ませる事も大事だよ。と、天使の甘い誘惑が……。


「……その前に、今日はまだいけそうな気がするな」


 ピクリとも反応してはいけない。

 それでも、シャインが出来ると言えば出来てしまうのだ。

 限界の見極めは、シャインの方が確かなのだから。


「………………」


 シャインが目を光らせながら、その見極めが行われる。

 と、そこに、一人の兵士が駆けて来た。


「シャイン様に伝令です!」


 何事かと伺うシャイン。

 詩夕たちは聞き耳を立てよ……今はまだ反応してはいけない。

 聞き終えたシャインは、楽しそうに笑みを浮かべる。

 兵士が去ったあと、シャインは詩夕たちに声をかけた。


「よかったな、お前ら。まだ余力が少しは残っていそうだったが、今日はもう終わりだ」


 その言葉には、さすがに反応してしまう。

 詩夕たち全員が、え? 終わったの? と顔を上げて、シャインに視線を向ける。

 笑みを浮かべるシャインを見て、しまった! 謀られた! と己の迂闊さを悔いるが――。


「終わりと言ったら終わりだ! さっさと飯食って風呂入って寝ろ! それと、明日の朝、飯食ったら城門前に集合しとけ!」


 それだけ言い残して、シャインはこの場からさっさと去って行く。

 詩夕たちは、あれ? と首を傾げたあと、言われた通りにするのであった。




 翌日の朝食後。

 詩夕たちが城門前に向かうと、既にシャインとグロリアが待っていた。


「来たな。話はつけておいた。では、行くぞ!」


 どこに? と疑問に思う詩夕たちを連れて、シャインとグロリアが向かった先は、以前激戦を繰り広げた平原。

 未だ戦闘跡がそこかしこに点在している。


「……えぇと、それで……僕たちはここで何を?」


 詩夕がシャインに尋ねる。

 シャインは、嗜虐的な笑みを詩夕たちに向けた。


「なぁに、昨日報告があってな。これからここに大魔王軍の偵察部隊がやって来る。それを撃退して貰うだけだ」


 昨日の兵士の報告はこれだな、と詩夕たちは察する。

 同時に、ここには自分たちしか居ない事が気になった。


「えぇと、他の人たちが見当たりませんが、どこかに姿を隠しているのですか? それともまさか……」

「安心しろ。撃退するのは、ここに居る全員でじゃない」


 恐らく、シャインとグロリアがここに居る以上、メインは力づくで譲って貰い、他は別動隊が動いているのだろう、と詩夕たちは推測を立てる。

 が、そうではなかった。


「イツキ、アマノ、サキホだけでだ。他のは、その三人が取りこぼしたのを掃討。以上!」


 また無茶な事を言い出した……と、詩夕たちは思った。

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