日常……夢です
………………。
………………。
えっと……どこ? ここ?
というか、俺、何をしていたんだっけ?
なんかこう……異世界で……激しい戦いの最中に覚醒した俺の必殺技が……。
うん。昨日、寝る前に読んだラノベの影響だな。
ベッドの上で寝ていた体を起こす。
周囲を確認して………………うぅん。間違いなく俺の部屋。
異世界なんてないない。
さて、今日も学校だ。
今日の支度は……あれ? ……済んでいる?
昨日の内にやったのかな? ……覚えがないけど。
それとも、刀璃がしてくれた? ……その可能性が一番高い。
でもまぁ、折角こうして起きたんだし、偶には起こしに来る前に準備を終えておくか。
そう考えて、パパッと制服に着替える。
着替え終わると同時に、ノック音が室内に響く。
「入るぞ。といっても、寝ているだ起きているだと! あの明道が! 馬鹿な! 今日は晴れだぞ!」
「……朝から失礼だな、刀璃。俺だって偶には早く起きるよ」
「今年に入って初だったと……」
「だから、偶に……の初回だよ」
「そういうのは、何度かしてから言ってくれ」
「鋭意努力します」
「そういう言い方の時は努力しないって最近知ったぞ」
要らぬ知恵を……。
与えたのは、天乃かな? 咲穂かな? 水連かな?
誰からもありそうだ。
そのまま刀璃から小言を受けつつ、一緒に朝食を食べて、共に学校に向かう。
登校途中で、天乃が合流。
「おはよう。明道、刀璃ちゃん」
「「おはよう、天乃」」
天乃が合流するのはいつもの事なのだが、何故か天乃と刀璃は俺を挟んで登校するのだ。
二人で並べば良いと思うのだが、いつの間にかこれが定位置になっている。
……まぁ、良いか。
この状態はそう長く続かない場合が多い。
何故なら、学校近くまで進むと大抵の場合、詩夕、常水、咲穂、水連の四人と合流するからだ。
それはもう高確率で。
今日も普通に合流。
そこからは、もうバラバラだ。
……まぁ、それでも、天乃と水連は俺の隣によく居るけど。
そして、今日は珍しく俺が一番前で進み、信号が赤になったので足をとめると、横から体当たりを食らう。
「いった! 何事?」
視線を横に向ければ、そこに居たのは、金色の長髪に、額を片手で押さえている、スーツを着た女性。
そこをぶつけたのかな?
その女性が額から片手を放すと、俺に視線を合わせてきた。
うわっ……目付きは鋭いけど、もの凄い美人。
外国人なのか、俗に言う、金髪碧眼ってヤツだ。
しかも、眼鏡がよく似合っていらっしゃる。
率直に言って、好みのタイプのひと――。
「……ちっ」
あれ? 今、俺……舌打ちされた?
すっごい睨まれているし……。
「急に立ち止まって、どういうつもり?」
あら? 流暢な日本語……じゃなくて。
「いやいや、こっちは信号が赤になったからとまっただけで、ぶつかってきたのはそっちでしょ?」
「はぁ? そっちがぶつかるようにとまるから……ははぁん」
金髪碧眼美人が、何かを理解したかのような笑みを浮かべる。
「私が美人だから、ぶつかってでも、どうにか関係を築きたかったのね?」
「………………はぁ? そんな訳ないだろ!」
「やれやれ、魅力的な大人の女性を前にして恥ずかしがるのは当然だけど、もう少し素直な方が可愛げがあるわよ」
「………………はぁ~?」
金髪碧眼美人と言い争いを始めた。
親友たちから呆れた視線を向けられている気がするが、そこに構っていられない。
すると、金髪碧眼美人が急に黙り、ジッとこちらを見始める。
正確には、俺が着ている制服に注目しているような……。
「……まさか。でも、こういうのは大体似通っているモノだし………………あっ! 急がないと初日から遅刻しちゃう!」
いつの間にか信号が青になっていたので、金髪碧眼美人が横断していった。
え? あれ? 急に俺の事、無視?
さっきまでの熱いディスカッションはどこにいったの?
……なんかやり切れない思いを抱きつつ、親友たちに慰められながら、学校に向かった。
もちろん、俺だけならまだしも、親友たちが一緒なのだから遅刻なんてしない。
普通に間に合い、朝のHRの時間。
担任の……担任の……土が付いていたような………………あっ、土門先生が、教室に入って来る。
「今、思い出すのにちょっと時間かかったでしょ?」
「うっ……」
「担任の名前くらいは、ちゃんと覚えておかないと」
「……善処します」
隣の席の咲穂に注意されてしまった。
その後ろの席の水連も、クスクス笑っている。
うぅ~ん、もう少し関わるようになれば、ちゃんと覚えるんだけどなぁ。
すると、教室内がざわついている事に気付く。
親友たちが、「あっ!」という表情で前を見ている。
不思議に思い、俺も視線を前に向ければ、土門先生には同行者が居た。
金髪碧眼の、眼鏡とスーツがよく似合う美人女性。
「静かにしろー。こちらは、今日から教育実習生として来た方だ。自己紹介をお願いします」
「はい。セミナス」
「あーーーーー!」
席を立ち、俺は金髪碧眼美人を指差す。
「……あーーーーー!」
金髪碧眼美人も、同じように俺を指差してきた。
「「あんたはっ!」」
俺と金髪碧眼美人の声が重なる。
これが、俺がセミナスさんと関わりを持つようになった、最初の日。
ここから始まるのは、俺とセミナスさんの――。
って、ちがぁーーーーーうっ!
◇
がばっ! と体を起こす。
………………。
………………。
ん? あれ? なんで俺はこんな起き方したの?
……わからん。
なんか夢を見ていたような気もするけど……どんな夢だったのかが思い出せない。
いや、思い出しちゃいけないと言われているような気もする。
本能から。
……ますます謎だ。
⦅何が、でしょうか?⦆
あっ、セミナスさん。
おはよう。
⦅おはようございます、マスター⦆
うんうん。セミナスさんとはこうだった。
……何が? ……わからん。
なんか変な感覚に左右されているな。
………………寝起きだからだな、きっと。
ところで、ここ……どこ?
周囲の様子を窺うと、なんかやたらと広くて、俺の倍くらいはありそうなでっかい窓に、高価そうな物がいくつも置かれている、そんな部屋。
ベッドもふっかふかだし、シーツには汚れ一つない。
……こんなところで寝入った記憶がないんだけど?
そもそも、俺はどうやって寝たんだっけ?
⦅マスターが起きる少し前に状況確認と情報収集は終えています。説明は必要ですか?⦆
うん。お願いします。
⦅では。まずこちらの部屋は、この国の王家が、マスターのために用意した部屋となります。そこらにあるのは好きに使って構いませんし、そこの棚の上に置かれているベルを鳴らせばメイドが入って来ます。そのメイドはイタズラし放題です))
オチが読めた。
メイドって、エイトでしょ?
⦅どうやら寝惚けてはいないようですね。正解です。「ご主人様の上から下の世話をするメイドはエイトだけですので、他のメイドが入り込む余地はありません」と主張し続け、他のメイドの介入を断ち切りました。正確には、微笑ましく見守られ、頑張ってと応援されていましたが⦆
両手で顔を覆う。
恥ずかしさで、もうこの部屋出たくない。
絶対からかわれるよね、これ。
⦅続いて――⦆
あれ? 俺の恥ずかしさは無視?
⦅マスターがどうやって寝入ったか、ですが、普段通りに寝入った訳ではありません。気絶したのです⦆
……気絶? 俺が?
⦅はい。武技を使用した事でなけなしのスタミナが一気になくなり、その反動で気絶しました⦆
へぇ~……え? 武技? 俺が?
………………。
………………。
あ、あぁ~! 思い出した! そうだそうだ! そうだった!
……という事は、あれからどうなったの?
⦅説明は必要ですか?⦆
お願いします。




