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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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別章 閑話のような間の話 水連編

 異世界に召喚された者たちの一人、杯水連さかずき すいれん

 咲穂が自分とは真逆と判断したように、水連の見た目は非常に大人びていた。

 その大人びた見た目は、小学生くらいの頃からだ。

 周囲の子と比べて成長が速かったと言っても良いだろう。


 けれどそれは、周囲の視線を集めやすく、好奇の視線に晒されやすいという事だ。

 現に、水連はそうだった。

 好奇の視線に晒され続けた結果、水連の性格は内向的になってしまう。

 水連が心を開くのは、家族だけになった。


 そんな水連が多少なりとも周囲に視線を向けるようになったのは、双子の兄である常水が自宅に連れて来た、明道と詩夕に出会ってからだ。

 常水の主導で水連は一応挨拶を行うが、内心ではまた好奇の視線に晒されるのかとげんなりしていた。


 しかし、水連の挨拶に対して普通に返す明道と詩夕。

 向けられる視線の中に、好奇な部分は一切なかった。

 ……何故? と、水連の内心に困惑が生まれる。

 その出会いから数日後、常水が再び明道と詩夕を連れて来た日の事。


 トイレにでも向かうつもりだったのか、明道が一人で居た時に、水連は思い切って尋ねた。


「……あの、お二人は普通なんですね」

「普通? 何が? いや、俺はいつも普通だけど?」

「……その、大抵の人は……私を見る目が……」

「……んん?」

「……えっと……皆と違って、成長が早くて……変な目で見られるというか……」


 明道が下から上に視線を向ける間、水連は我慢した。


「なるほど。よくわかった」

「……うぅ」

「確かに、俺と詩夕の背はどちらと言えば平均的!」

「……えっと」

「わかった。正直に言う。どちらかと言えば低い方だ! 確かに今は常水の妹の……えっと……」

「……水連です」

「そう、水連! ……の方がわずかに高い! しかぁし! それで安心するのはまだ早いぞ! 俺と詩夕はまだあと一回、成長期を残している! その時を楽しみにしているんだな!」


 言い切ると同時に明道は去って行ったが、水連は暫く呆けたのちに、耐え切れないように大笑いする。


 そして、この事がきっかけとなり、水連は色々と吹っ切れていく。

 最初は常水を通じてだが、明道、詩夕とも接するようになり、のちに刀璃、天乃、咲穂と順に知り合っていき、水連にとってかけがえのない親友となった。


 また、このきっかけによって、水連は明道に興味を抱き、のちに天乃と真剣な話し合いが行われる事になる。


 そんな水連は、成長と共にある技術を身に付けた。


     ◇


「……えっと、あれとそれ……これも使えそう」


 王城の直ぐ傍にある保管室。

 この保管室には様々な物が置かれているが、その大部分を占めるのは大小様々な魔物素材だ。

 大魔王軍、野良問わず、使える物はなんでも使うのが、今のこの世界であった。


 この中には、ビットル王国の騎士、兵士たちだけでなく、詩夕たちが仕留めた魔物の素材もある。

 最近では、そこに竜やエルフたちが狩ったのも含まれていた。


 そういう魔物素材を見た水連は、ビットル王家に懇願する。

 一部で良いので使わせて欲しい、と。

 もちろん、使った分の倍の魔物を狩って補充しますので、と。


 ビットル王家は、水連の勢いというか真剣な表情に負けて頷く。


 水連は詩夕たちにも許可を取り、一応自分たちが仕留めた魔物である事を優先しつつ、魔物素材を物色して吟味して手に取っていく。

 その目的は、あるモノの制作。


 それは水連にとって生き甲斐と言っても良いだろう。

 水連にとって、とても大事な事だった。

 その副産物として、刀璃用のコスプレ衣装制作も兼ねている。


 そうしてある程度満足出来る物を手にしたのか、魔物素材を抱えた水連は笑みを浮かべて用意された王城内の自室に戻る。


「……耐水性があるのを裏地に使って……スライムゼリーを……」


 持ってきた魔物素材をテーブルの上に並べて、一つ一つ吟味しつつ、どれをどう使っていこうかと呟いていく。

 水連が主目的にしている制作物。

 それは、ぬいぐるみである。


 ただし、形というかポージングは様々で、大小、リアルやデフォルメなどと様々だが、作るぬいぐるみの外見は一種類のみ。

 明道の姿を模したモノだった。


「……タオル地のも触り心地は良いんだけど、今度のはデフォルメにしてプニプニ? ポニポニ? 感を。……スライムゼリーの感触が一番近いから、きっと上手くいくはず」


 むん! と拳に握ってやる気を滾らせる水連。

 ちなみに、タオル地の制服バージョンだけでなく、布製の違うポーズ――挨拶バージョンと格好付けているバージョン――を取っている二体……つまり、計三体の明道ぬいぐるみが、ベッドの上に鎮座していた。


 仕事が速い水連である。

 恐らく、環境さえ整えれば、フィギュア制作にも手を出していたかもしれない。

 いや、間違いなく出すだろう。


「~♪」


 鼻歌まじりで制作を開始する水連。

 もちろん、既に施錠済みというか、誰もこの部屋には入れないようにしていた。

 メイドもお断り。

 その代わりといってはなんだが、室内の掃除や洗濯などは全て自分で行っている。

 裁縫技術だけでなく、女子力も総じて高かった。


 ちなみに、水連の明道ぬいぐるみ制作は、親友たちの中で明道だけが知らない事である。

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