エピローグ 2
魔族の国。
「此度の勝利は、誰か、のおかげではない。前線で戦った者、後方で支えた者……誰しも、のおかげである。まさしく、私たち人類が一丸となった証明であり、その結果と言えよう。まずは、その勝利を喜ぼうではないか!」
『うおおおおおっ!』
魔族の国の王都では、勝利宣言……いや、演説かな? のようなモノが行われていた。
多くの者が演説に合わせて、拳を空高く突き上げている。
「そして、この戦いは勝利とは別の事も証明していると、私は思う。……この国に住まう者の種族は、本当に多岐に渡る。これまで、種族の違いによって争いにまで発展する事もあった」
『………………』
演説を聞いている人たちは思う当たる節があるのか、黙って聞いている。
もちろん、俺たちも騒がず大人しく聞いていた。
「しかし、此度の戦いを経て、私は種族の違いを乗り越え、隣人と手を取り合い、共に歩んでいけると確信を持つ事が出来た。私たちも種族という壁を超え、一丸となって共に生きていこうではないか!」
『おおおおおっ!』
歓声と拍手が巻き起こった大盛り上がりである。
でも、俺はちょっと別の感想があるというか、疑惑を持ってしまう。
何しろ、その演説を行っているのが……ロイルさんだからだ。
しかも、あの宰相さんの姿は近くに見えない。
……つまり、ロイルさんが独力で言っているのだ。
いや、いつまでもロイルさんはロイルさんじゃないという事か。
大魔王軍との戦いを経て、大きく成長したようだ。
「……大将から聞いていた話とは違って、立派な王様のようですね」
セブンがそう呟くのが聞こえた。
俺もそう思う。
成長したロイルさんに向けて、俺は大きく拍手した。
そのあとは、王都全体が祝いムードに包まれる。
このまま出発しようかとも思ったが、ロイルさんに一声かけてからでも良いかもしれないと思い、まずは様子を見に窺う事にした。
「ロードレイル様の様子を見に行くのですよね? 是非ともそうしてください」
「だから、そうするって……」
いつの間にか宰相さんが居た。
「……なんで俺たちがここに居ると?」
「そうですね。偶然……でしょうか。ふと聞こえてきた小鳥の囀りがとても綺麗でして、その小鳥のあとを追って歩を進めると、皆さまが居ました」
「正直に話すつもりはない、と」
「正直に話しているのですが?」
いいや、絶対に嘘だね。
この宰相に、小鳥の囀りを綺麗だと思う感性が備わっているとは思えない。
「妙な疑いをかけていませんか?」
「いいえ、まったく」
とりあえず、宰相さんの案内でロイルさんのところに向かうが……それが失敗だったかもしれない。
美しい思い出は、現実を知ればガラガラと崩れる可能性はいつだってあるのだ。
「……えっと」
案内された場所はロイルさんの私室。
そのベッドの上には、こんもりと盛り上がった物体が一つ。
上からシーツがかけられているので中がなんなのかは見えないけど……。
「もしかして、中はロイルさん?」
「わかりますか?」
いや、あの奥さん三人が傍に居るし、ここがロイルさんの私室である以上、それしか考えられないでしょ。
「わかるけど……なんだってこんな事に? さっきはあれほど堂々と演説していたのに」
「その反動です」
「……反動?」
「はい。戦いを経て成長したロードレイル様は、一日に五分だけ堂々とした立ち振る舞いが出来るようになりました。ですが、その五分を行使した場合は反動で五時間は内に籠ってしまいます」
それは……成長したのか、それとも後退したのか、判断が難しいな。
「………………つい先ほどの発言を撤回します。大将から聞いていた通り、いえ、さらに酷く……」
セブンがどこか呆れた表情を浮かべている。
その気持ちは俺も一緒。
「どうにかなりませんか?」
「なりません」
宰相さんに対して即座にお断りを入れておく。
……ま、まぁ、平和になった事だし、EB同盟による上大陸奪還開始までにはまだ時間がある。
それまでにどうにかなっていると信じたい。
確かなのは、このままここに居ると宰相さんの手によって巻き込まれそうなので、次へ向かう事にした。
―――
ラメゼリア王国。
村や町ではまだ祝いムードが続いているようだけど、王都では国王であるゴルドールさんと、王女であるサーディカさん主導で、既に復興が始められていた。
ただ、そこに悲壮感は一切なく、未来に向けて活気に溢れているように見える。
長く……本当に長く続いた戦いが終わったのだ。
人々の目が前に……未来に向けられているのが、王都内を歩くだけでわかる。
「あたいたちがここから出た時とは何もかもが違うな」
ワンが王都内の光景を見て、そう呟くのが聞こえた。
そういえば、ワンはここの城の宝物庫に眠っていたんだったな。
その時の光景と比べているんだろう。
「まっ、こっちの方が好きだな、あたいは」
ワンが満面の笑みを浮かべる。
俺もそう思う。
「この光景を誰しもが待ち望み、漸く叶ったのです。どうです? この光景を作り出した張本人としては?」
「張本人って、その言い方だとなんか悪いイメージが……」
……う~ん。
「えっと……カノートさん」
「ん? なんだい?」
「どうしてここに?」
どこかの宰相さんみたいな登場の仕方はやめてください。
この人もかなりやられ……いや、もう気にしないでおこう。
そういうモノだ。
「いやあ、旅行が楽しみで、色々と持っていきたいと用意していると、普段の旅行鞄では足りなくなってね。旅行鞄を直接買いに出たところだったんだよ。……それとも、アイテム袋にした方が良いと思う?」
「いや、アイテム袋って」
どれだけ持っていくつもりなんですか。
「そういえば、さすがに私だけで行くのもアレなので、サーディカも連れて行って構わないかい? 何も言わずに旅行の準備をしているモノだから、少々怪しまれているような雰囲気があってね」
「はぁ……え? 連れて行けば良いのでは? なんで俺に許可を?」
「いや、なんでって……ははぁ、さては忘れているね?」
……忘れ?
⦅最終決戦の前付近で、世界樹のある島に連れて行く事を約束しています⦆
………………。
………………あぁ!
「今思い出したって顔を」
「大丈夫です! 連れて行きましょう! 問題ありません!」
「そうかい? それなら良い何も問題はないよ」
「ただ、それ以上は広めないでくださいよ?」
「わかっているよ」
とりあえず、時期についてはまた今度という事にして、次に向けて出発した。




