エピローグ 1
ドラーグさんの背に乗って世界樹がある島から出発する。
目的地は詩夕たちが居るビットル王国だけど、その前に軽く各国の様子を見ていく事にした。
―――
上大陸。
完全に人の気配がない。
その代わりという訳ではないが、魔物たちの姿をよく見かける。
大魔王軍の残党魔物か、野良魔物かはわからないが、既に争いも起こっているようだ。
上下関係、勢力図というよりは、住処を構築するイメージの方が強い。
いずれEB同盟の一人として足を踏み入れる事になると思う。
⦅まぁ、私に任せていただければ、綺麗に片付けてみせます⦆
頼りになります、しています。
でも、大魔王ララ的には良いの?
一応、大魔王軍の魔物も居るし。
(え? 仰っている意味がわかりません。元々邪神が組織しただけですし、私の中で魔物に対する思い入れは一切ありません)
元々魔王たちだけ大事主義みたいだったし、それもそうか。
その時、気兼ねなく戦えそうだ。
―――
軍事国ネス。
女王であるガラナさん、その妹のカリーナさん主導の下、復興が行われている。
「頑張っているようですね」
一緒にこっそり見ていたツゥがそう呟く。
「あれ? 気になる感じ?」
「読書友達になってくれそうですので」
あぁ、なるほど。
そういえば、ガラナさんの執務室にすごい本棚があったな。
ただ、ガラナさんとカリーナさんの様子を見ていると……なんか裏であの怖い執事のクルジュさんが指揮しているような気がしてならない。
立ち位置的には二人を見守っているように見えるけど、それは見方を変えれば監視しているように見えなくも……いや、やっぱり気のせいだな。
ガラナさんは女王としてきちんとしているだろうし、カリーナさんもそんなガラナさんを支えているだろう。
クルジュさんがこちらに向けて手を振っている。
とりあえず、こっちに気付いている事だけはわかった。
それに、今の上大陸の状態だと魔物の軍隊的侵攻はないだろうが、魔物同士の争いに負けて出てくるのは居るだろうから、それらの相手をする国となるので頑張って欲しいところだ。
いずれ再開する上大陸の進攻にも、大きな力となってくれるに違いない。
……そうして様子だけを見て去りたかったのだが、別の人に見つかった。
俺たちを見つけたのはシュラさん。
上手く隠れていたつもりだったのだが……。
「いやぁ~、なんか考え事をしていたら、不意にこっちの方に行った方が良い気がしてな」
「あぁ、ありますよね。そういうの」
そういう事なら見つかっても仕方ない。
感覚的なモノで、予測なんて出来ないんだから。
⦅……相変わらず思考回路が似ています⦆
セミナスさんが何か呟いたような気がしたけど、よく聞こえなかった。
「そういえば……結構やられていましたけど、動いて平気なんですか?」
邪神に結構ボコられていたような憶えがあるんだけど……見た感じ、シュラさんに目立った外傷はない。
「あぁ、それは大体治ったんだけど……」
大体治ったんだ。
……あれ? 結構酷かったような……いや、深く考えるのはよそう。
「実は困った事が………………」
シュラさんがジッと俺を見る。
「……あっ、そろそろ行きますね。お元気で。また会いましょう」
そのまま去ろうとしたが、肩を掴まれて……う、動けない。
「本当に困った事が……」
「………………わかりました。なんですか?」
シュラさんから事情を聞くと、国に帰っている時に遭遇したなんでもない魔物相手に使用したら、なんと超硬質棍棒が壊れたそうだ。
⦅おそらく、邪神相手に使用した事で限界にきていたのでしょう⦆
なるほど。
「それに、代わりが早々見つかるモノでもないし、修復しようにも素材自体が希少過ぎてないんだ」
でも、俺ならどうにか出来るんじゃない? と言わんばかりにシュラさんが見てくる。
……まぁ、邪神戦で協力してもらったし、そういう事なら今度はこちらが協力する番だ。
「わかりました。でも、今は予定があるので無理ですけど、あとで協力します」
「ありがとう!」
シュラさんと約束の握手を交わす。
……いざとなれば素材は世界樹の島で採取して、造形の女神様たちを解放して丸投げしよう。
シュラさんに見送られながら、次へと向かう。
―――
獣人国。
ここも軍事国ネスと同じく復興……はしていると思うんだけど、思いっきり祝賀会というか、宴会が行われていた。
どこか一部でという訳ではなく、国を挙げてという感じ。
こそっと事情を聞いてみると、費用と飲食物は国持ちらしい。
大盤振る舞いだと思うが、戦いに勝利しただけではなく、勇敢に戦った戦士たちを称え、哀しみだけではなく、あとを託され、大丈夫だと伝え、安心して眠ってもらうために――という意味合いが含まれているそうだ。
「おー! おー! おー!」
「わー! わー! わー!」
こういう明るい雰囲気が好きなんだろう。
ファイブとシックスのテンションが高く、目を離すとどっかに行ってしまいそうなので、手を繋いで繋ぎとめておく。
そのままウルトランさんたちの様子もこっそり窺うが……。
「ウルトラン陛下。費用だけではなく、物資の分まで国が出すとは聞いていませんが?」
「いや、それはノリというか、雰囲気的に断り切れなくて……それに、漸く大魔王軍の脅威が去ったのだから、ここは盛大に喜ぶべきかと」
正座させられているウルトランさんが、娘であるフェウルさんに叱られていた。
というか、ウルトランさんも結構やられていたと思うけど、目立った傷は見えない。
……シュラさんといい、この世界の人たちは傷の治りが速いのだろうか?
いや、魔法もあるから、治そうと思えば治せるのか。
「でも、さすがに国持ちで国家が空になりました。お母様も少し呆れていますよ……ウルトラン陛下」
フェウルさんの隣にウルアくんが居て、その表情は少し悲しそうだ。
「今もお母様は国の財源確保に忙しくしています」
「本当に申し訳なく」
「「お母様に直接言ってください、ウルトラン陛下」」
ウルトランさんは謝るが、二人はピシャリと言い切った。
そんな二人に向けて、ウルトランさんが恐る恐る尋ねる。
「もちろんそのつもりだ。だが、その前に……その……パパと言って」
「「何か?」」
「いえ、なんでもありません」
……うん。とりあえず、ウルトランさんの家庭での立場は悪くなったかもしれないが、それ以外は特にない。
平和という事だ。
ここで声をかけるのは野暮というか、ウルトランさん的には見られたくない光景だろうし、気付かれないように出発する。
獣人国全体の祝いムードに気分が高揚しつつ、次に向かう。




