そこに触れちゃいけないよ、と思う時がある
未来の俺たちが未来に帰っていった。
とりあえず、俺は内心でホッと胸を撫で下ろす。
上手くいくと判断していたけど、実際にこの目で見る事が出来て、邪神の最後を見る事が出来て漸く安堵する事が出来た……といったところだろうか。
けれど、これは、未来で終わる出来事。
今の俺にとっては新たな始まりでしかない。
未来の俺に見せてもらった強さまで強くならないといけないし、神様解放とか必要な事はたくさんあるだろう。
でも、それはこれから直ぐ始めないといけない訳じゃない。
というか、無理。
今は立っているだけで精一杯というか、まずは体を休めてきちんと回復してからだ。
「……戻ろうか」
ファイブとシックスに張ってもらった結界を解除してもらおうと思ったが、そこに武技の神様から待ったが入る。
「この結界……しばらく張り続けてもらう事って出来る?」
「え? いや、どうなの?」
ファイブとシックスに確認。
「問題な~い! 問題な~い!」
「大丈夫~! 大丈夫~!」
……全然大丈夫に思えないんだけど。
⦅少しいじれば可能です。そこの特化型もそれがわかっているからこそ、問題ないと言っています⦆
ファイブとシックスには、もう少し言葉を憶えさせようと思う。
……いや、なんだかんだとこういうタイプは賢いから、過程よりも結果が先に出ているかもしれない。
「大丈夫みたいですけど、どうしてですか?」
「どうしてって……さすがにこの惨状をこのまま放置は出来ないでしょ?」
武技の神様が指し示したのは、邪神が開けた大穴。
まぁ、言いたい事はわかる。
つい先ほどまで何もなかったところに、大穴が開いているのだ。
しかも、そこが邪神の封印場所となると……。
「………………埋める?」
「どうやってさ」
「………………みんなで頑張れば」
「頑張ってどうにかなるレベルだと思う? 地の底が見えていないんだよ?」
「ですよね。でも、それならどうすれば?」
「とりあえず、これを見せちゃうとしなくても良い余計な不安を与えてしまうだろうから、戻るまで隠す。戻す方法は、大地母神を解放すれば大丈夫として……あとは口裏合わせも必要かな? 各国の王様とかには一応話を通しておいた方が良いだろうし、あとは……」
そのまま考え込み始める武技の神様。
……なんというか、少年のような姿をしているけど、その姿に見合わぬ苦労を背負い込んでいるように見えなくもない。
とりあえず、ファイブとシックスに結界を少しいじってもらい、その間に軽く打ち合わせをしておく。
エイトたちは、結界いじり中のファイブとシックスの応援で忙しそうだ。
詩夕たちには打ち合わせに加わって欲しかったけど、今は選択の事で頭が一杯みたいだし、やめておこう。
シャインさんは興味なさそうだ。
⦅別に隠さなくても良いのでは? 何かしらの問題が出るようなら……消します⦆
……何を?
(少し前から思っていましたけど、私より大魔王らしい大魔王ではありませんか?)
……ノーコメントで。
という訳で、神様たちと話し合う。
邪神に関しては、アレが邪神である事は公表しない事にした。
各国への報告にも挙げない。
諸悪の根源――封印したのは大魔王、もしくはその邪悪な意思としておいた。
(まぁ、私が表舞台に上がる事はもうないでしょうし、その名に未練は元々ありませんし、便宜上で使用していただけですので、好きなようにお使いください)
大魔王ララがそう言ってきたので、そうする事にした。
俺もわかりやすいから大魔王と呼んでいるけど、これも変えた方が良いのだろうか?
でも、未来の俺は変わらず大魔王ララと呼んでいたから、このままでも大丈夫か。
(それはどうでしょうか? いえ、あの時点まではわかりやすくするためにそのままだったかもしれませんが、未来に戻ってからはそのまま「ララ」と呼ぶようになっているかもしれません。もう「大魔王」という名は必要なくなるのですから)
そうかもしれないけど、随分先の話である。
なので、呼び名に関しては一旦保留。
それで邪神……じゃなくて、大魔王を倒したのは、神様たちと竜たちによる合同で、という事にしておいた。
竜たちは……DDの呼びかけによって、で大丈夫だろう。
各国で踊っていたから……まぁ、受け入れられると思う。
ただし、それを伝えるのは各国の王様とかだけ。
基本、竜の協力はなかった事だし、重要なのは、もう脅威は去ったという事である。
なので、受け入れられると思う。
⦅受け入れないのなら、滅ぼしてしまいましょう⦆
物騒な意見は聞かなかった事にした。
大穴に関しては、大地母神様が解放されるまで結界の神様が立ち入り禁止してくれるそうなので問題ない。
「……すごく今更だけどさ、確かに見えないようにはしていたけど、音とか聞こえていたよね?」
武技の神様から今更ながらの突っ込みが入る。
「……ヤバい、ですよね?」
武技の神様と一緒にう~ん……と悩む。
「問題な~い! 問題な~い! 言ってなかったけど、ついでに遮音もしておいた~!」
「大丈夫~! 大丈夫~! 聞こえてな~い! 外には一切漏れてな~い!」
武技の神様との会話が聞こえていたのか、結界をいじり終えたファイブとシックスがそう言ってきた。
……なるほど。元々問題なかった訳か。
「……なんかすごくないですか? ファイブとシックス」
武技の神様に自慢してみる。
「とてもではないけど、造形の女神たちが造ったとは思えないね」
それは褒め言葉なのだろうか?
いや、文脈的には褒め言葉っぽいけど。
……まぁ、ファイブとシックスが自慢げにVサインを出しているので、褒められているという事で間違いはないだろう。
でも……という事は……別にこれから直ぐ報告しなくても良いという事になるな。
何しろ、見えもせず、聞こえもしなかったという事は、本当に人知れずという事だろうし。
……ここで纏めた話を通すのは、明日以降にしよう。
なので、この場は解散となった。
テントに戻って寝ていたベッドの上で横になると、明日以降、今日纏めた話をどう伝えようかと考えている内に、いつの間にか眠っていた。




