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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十五章 人一人分の確定した未来
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一つの区切りを実感する時がある

 全ASで邪神を押さえ付けている場所へ、未来の俺たちが大きく一息吐いてから向かう。

 見た目には表れていないが、思いのほか消耗しているのかもしれない。

 一つも間違えられない感じだったから、肉体的にというか、精神的に、だろう。


 やっぱり、見ているだけなのと、実際にやるのとでは大きく違うって事かな。

 未来でその事を実感するのが確定した瞬間だった。


「くっ。こんなもの……直ぐにでも外して……くそっ!」


 邪神が悪態を吐く。

 このままだと不味いという事がわかっているのだろう。


 でも、もうひっくり返らない。

 ひっくり返る事はない。

 ここから覆る事はもうないのだ。


 邪神に、それだけの力はもう残されていない。

 未来の俺たちが、そういう状況になるまで持ってきたのだ。


 終わりの時が来るまでに邪神に出来る事は、口を開く事だけ。

 口が上手ければ、それで時間を稼いだり、状況を変えるような機転を思い付いたり、といった事が起こるかもしれない。


 そういう能力が邪神にもあったかもしれないけど、今回ばかりは相手が悪い。悪過ぎる。

 そういった事が一切通じないのが、セミナスさんなのだ。

 だから、ここまでくれば、もう何も起こらない。


 ただ、邪神が口を開くだけ。


「おかしい! この状況は間違いだ!」


 口が悪くなるのも当然だ。

 自分の生命が終わろうとしているのだから。

 あるいは、こういう時、すべてを受け入れて穏やかに……といった事もあるだろうが、邪神はそんなタイプではないだろう。


 未練タラタラ。未練がましく。

 ……ただ、命乞いはしないだろう。

 己の誇り故か、言っても仕方ないという諦め故か、自業自得だろうと思っているが故か……。


 まぁ、元々自分が死ぬとは思っていなかっただろうから、そういう考えに至らない可能性が一番高いだろう。


「我が最強のはずだ! いや、最強なのだ! 誰よりも強く、対抗出来る存在すらないほどの!」

「それは思い上がりでしかない。いや、個であれば最強だっただろうけど、それがどうした? というのが正直な今の感想かな。結局のところ、いくら力があろうが行いが大切だ。どれだけ力を有していようとも、こういう結末を迎える事になったのは、お前の行いの結果でしかない」


 邪神の近くまで来た未来の俺が、そう答える。

 未来のセミナスさんとこちら側に居る神様たちが、うんうんと頷く。


「そんな事は言われなくとも想定済みだ! それでも我は力ですべてねじ伏せ、蹂躙出来るだけの力があるのだ!」


 ……まぁ、別に否定はしないけど、言ってて恥ずかしくないのだろうか?

 少なくとも、俺にああ言えるだけの精神力はない。


 ただ、その自己主張のおかげか、それとも好き勝手に言った影響か、邪神が少し冷静になったように見える。

 何かを思い出したかのように口を開く。


「……今考えてみれば、この戦いは始まりから何かがおかしかった。……そもそも、我が封印される前に、たった三人で対抗出来る存在は居なかったはずだ。なのに、封印から解放されると貴様たちが居た。……封印されてから解放まで、僅かな時間しかなかったはずなのに、だ」


 邪神の視線が未来のセミナスさんに向けられる。


「それに疑問はそれだけではない。貴様の存在が不可解だ」

「不可解とは失礼ですね。このような完璧女性パーフェクトレディを前にして。殺しますよ……いえ、これから殺すのでしたね」


 未来のセミナスさんのように答えられる精神力もない。


「予言系統は無効化していたはずなのに、貴様の動きだけがおかしかった。他の二人はまだ感情のようなモノが見え、起こってから対処している。しかし、貴様だけは一切感情が見えず、今思えば起こる前に行動していたようにも見える。ただ淡々とこうすれば良い……いや、まるでこうする事を見てきたかのような、ある種の作業のような動ぐううう……」


 邪神の両手足に刺さっている武器型ASが、痛めつけるようにグリグリと回り始めた。


⦅その通りなのですが、何やら冷たい人間のように言われている気がして、手元が狂ってしまいそうです⦆


 きっと、この時の感情を忘れなかったんだろう。

 未来のセミナスさんの手元が狂って、武器型ASの操縦権を奪ってしまったのかもしれない。

 ……人はそれを、わざと、と言うけど。


 ほどなくして、グリグリはとまる。

 未来の俺が操縦権を取り戻したんだろう。


 すると、邪神の視線が未来の俺に向けられる。


「貴様もそうだ」

「俺も? おかしいって事か?」

「そうだ……初対面であるはずなのに、貴様を見ていると妙に苛立つ」

「ああ……それ、前にも言っていたけど、結局のところ、なんなんだろうな。……生理的に合わないとかじゃないか? 間違いなく合わないだろうし」

「……前? まるで既に出会っているように言う。一体何を言って……」


 邪神が言葉に詰まり、大きく目を見開く。

 その視界に映っているのは、未来の俺越しに見える今の俺。


「……そうか……そういう事か。……道理で苛立つはずだ。わざわざご苦労な事だな。我を殺すためだけに未来から来るとは」

「その成果は……今の結果が物語っているだろ」

「確かにな。……それで、貴様が我にトドメを?」

「いいや、彼女が行う。俺たちの中で、彼女が一番お前と因縁があるからな」


 未来の俺が指し示したのは、未来の大魔王ララ。

 邪神の視線が未来の大魔王ララに向けられる。


「漸くこの時を迎える事が出来ました。あなたは死ぬ覚悟が出来ましたか? 邪神」


 未来の大魔王ララは邪神の直ぐ傍で立っていた。

 冷徹な目で、邪神を見ている。


 未来の俺とセミナスさんは途中で足をとめ、その様子を窺う。


「……随分と馴れ馴れしい口を利く。貴様も我の関係者という事か?」

「あら? まだわからないのですね。私たちが未来から来たという事もつい先ほど理解したようですし、あなたの理解力も案外大した事がないのかしら」


 未来の大魔王ララが酷薄な笑みを浮かべる。


「あなたには、大魔王、と名乗った方が良いですか?」

「……なるほど。そういう事か。そういえば、あの男の中に逃げ延びていたのだったな。……我を殺すのに躊躇いがなさそうだ」

「ええ、ありません。それに、その体はリガジーのモノ。出来るだけ傷付けたくはありませんので、一瞬で殺してあげましょう」

「本当に一瞬で良いのか? 長年我と共に居たのだ。もっと苦しみを与えたいのではないのか?」

「もちろん、本心としてはそうですが、一般でいうところの苦しみは、あなたにとって苦しみにならないでしょう? それに、あなたに時間を与える方が厄介ですので、ここで終わらせます」


 未来の大魔王ララが手刀を構え、腕を振り上げる。


「だが、我を殺そうとも、いずれまた新たな邪神が」

「そういうのは必要ありません。そういう事のために戦った訳ではありませんので。あなたはただ、リガジーの仇だというだけの事。では、さようなら」


 手刀が振り下ろされ、心臓を貫く。

 あとに残るのは、物言わぬ……リガジーの死体。


 邪神という存在が潰え、この世界は一つの区切りを迎えた。

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[一言] 邪神も世界からしたらサイクルの一つでしかない…?
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