タイミングって本当に重要だよね
ほぼ一瞬だけど、黒巨人が消えてしまった邪神に向けて、未来の俺が口を開く。
「今、一瞬消えたけど、もう限界か?」
「……何を馬鹿な事を。少し意識を逸らしてしまっただけだ。だが、そのおかげで貴様たちの狙いも透けて見えた」
「へぇ。俺たちにどんな狙いがあったっていうんだ?」
「簡単な事だ」
邪神が笑みを浮かべると、未来のセミナスさんと大魔王ララが相手取っていた黒い武具が消失する。
「慣れない事はするモノではないな。良い忠告だったと言っておこう。……意識の分散か。よく考えたモノだ。ここまで面倒だとはな。思考力も落ちるというモノ。しかし、気付いた以上は、これからは意識を分散せずにやらせてもらおう。その方がやりやすい」
「そっか。気付いたか……気付いてしまったか」
未来の俺がそう言うと、未来のセミナスさんと大魔王ララが体を解すように準備運動をしながら、邪神の方へゆっくりと歩き出す。
ただ、その雰囲気というのが、どこか張り詰めているというかピリ付いている。
それは、未来の俺も同じ。
……まるで、最終局面に突入したかのように。
距離的に離れていた未来のセミナスさんと大魔王ララが、邪神に向けて一気に駆ける。
「先ほどと同じように出来ると思うな」
邪神の黒巨人が片手を二人に向けると、指先から黒い閃光が照射される。
未来のセミナスさんは回避しつつ前に、未来の大魔王ララは両手で弾きながら、どちらむ一直ゆっくりと邪神に向けて進んでいく。
邪神が二人に意識を向けたところで、未来の俺が大剣型ASに形を変えて斬りかかる。
それを黒巨人はもう一方の手で受けとめようとするが、大剣型ASは指、手、腕と順に斬り落としながら進んでいく――が、途中で腕に食い込んだところでピタリととまり、それ以上先に斬り進めなくなった。
「密度が足りないのなら増やせば良いだけの事」
邪神が言ったように、黒巨人の黒い部分が更に濃くなったように見える。
黒巨人はそのまま斬られた腕を、大剣型ASを掴むように手まで一気に再生し、分離したところに指先から黒い閃光を照射して、各武器型ASを次々と撃ち落としていく。
少しだけスッキリしたかのような表情を浮かべる邪神。
「満足か? 撃ち落とせて」
そこに、未来の俺が大槍型ASを投擲する。
盾型ASの姿が見えないので、多分それを組み合わせたのだろう。
大槍型ASは黒巨人を貫き、邪神に……当たる直前にとまる。
「届かなければ意味はないな。それに、良いのか? 守るモノがなくなってしまったぞ」
未来の俺に向けて、邪神が黒巨人の拳を放つ。
言った通り、未来の俺の周囲に盾型ASは存在していない。
大槍型ASが分離して戻ろうとするが、その前に黒巨人の体内に取り込まれて身動きが取れなくなる。
撃ち落とされた武器型ASが動けても、距離的に間に合わない。
「心配してくれなくても、俺は守る方が得意なんだよ」
フックのように横合いから迫る黒巨人の拳に対して、未来の俺はタイミングを合わせて後方上空に向けてジャンプ。
その動きに追随してくる黒巨人の拳を跳び箱のように手をついて避ける。
「それくらいはすると思っていた」
もう一方の黒巨人の拳が未来の俺に迫る。
未来のセミナスさんと大魔王ララへの黒い閃光照射は、かわした黒巨人の拳がバトンタッチしていた。
空中で逃げ場はない。
それに、体勢を立て直す時間が足りない。
何より、ASもまだ来ていない。
そこで未来の俺は、黒巨人の拳が迫った瞬間に体全体を半回転させる。
すると、その半回転の動きにピッタリ合わせたかのように、黒巨人の拳がすれすれで通過していく。
下手をすると数ミリしか隙間がなかった――それこそ、少しでも何かが違っていれば当たっていたかのような避け方を、未来の俺が披露した。
……多分、未来のセミナスさんからこうしてくださいという指示があったのかもしれない。
そんな避け方だと思った。
⦅確かに、私好みの避け方ですね⦆
(楽しそうな避け方だと思います)
味方が居ない。
そういうところでも反発し合って欲しかった。
やっぱり息が合うんじゃないか。
「器用な真似をする」
邪神が未来の俺に対してそう言うが、それは邪神の方もだろう。
かわされた拳をそのまま振り上げて上空に持っていき、黒い閃光を照射していた方も同じく上空へ。
そのまま両手を組んで、未来の俺に向かって振り下ろす。
未だ空中に居て、ASもついていない。
けれど、未来の俺に慌てた様子はなかった。
「きちんと私に合わせてくださいよ。少しでもずれたら押し切られてしまいますからね」
「わかっています」
黒巨人の左右から回り込むようにして未来のセミナスさんと大魔王ララが現れ、跳躍。
振り下ろされた黒巨人の両腕に二人が左右から強烈な蹴りを食らわせると、拮抗して動きがとまる。
その間に未来の俺は着地して、振り下ろされる範囲から離脱。
同時に未来のセミナスさんと大魔王ララも、もう一方の足で黒巨人の腕を蹴って離脱。
行き場を失った黒巨人の組んだ手が地面に打たれ、大地が揺れるほどの衝撃が起こる。
未来の俺は間髪入れずに動いていた。
手元に戻って来た武器型ASをそのまま黒巨人に向かわせる。
組み合わせる事なく単体で。
ただし、その軌道が違っていた。
一直線に突き進むのではなく、螺旋状の軌道を描いている。
その動きに何かを感じ取ったのか、黒巨人が腕をクロスさせて防ごうとするが、武器型ASはドリルのようにしてクロスした腕ごと黒巨人を貫通。
その空いた隙間から盾型ASが飛び出し、武器型ASと共に未来の俺の下に戻る。
黒巨人の空いた穴は邪神が直ぐに塞ぐ。
「よくやったと、褒美をやろう」
黒巨人が両腕を広げ、その指先から黒い閃光が乱雑に照射される。
大地を焼きながら迫る黒い閃光を、未来の俺たちは回避したり、はじいた先で当たらないように調整したりと、どこか気を遣っているような動きを取っていた。
多分、間違ってもこちらに被害が出ないように気を張っているんだと思う。
そのまま防戦一方が少しだけ続いた時、再びプスンと燃料が切れたかのように黒巨人が消え、再度現れる。




