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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十五章 人一人分の確定した未来
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小で大を制する時だってある

 邪神から大量に噴出した禍々しい魔力が形を取っていく。

 頭部の左右から禍々しく捻じれた角が生え、顔面は能面だが目だと思われるところだけが仄暗く光っている。

 筋骨隆々な体付きに見えるが、それは上半身しかなかった。

 ただ、その大きさは人の数倍はあって、すべてが真っ黒。

 形だけでかろうじて、そういう風に見えるといった感じだ。


 その大きさ故に、邪神を包み込んでいるようにも見える。

 そこに飛来する武器型AS。

 次々と真っ黒な巨人――黒巨人に突き刺さっていくが、それだけ。

 邪神には届かず、黒巨人の方にも痛みが走ったようには見えない。


 突き刺さるという事は質量があるようだけど、元が邪神の魔力であるため、そういう感覚のようなモノはないんだろう。


「フッ。届かなければ意味はないな。……受けとめられるものなら、避けられるものなら、そうしてみれば良い!」


 ――巨人の拳。

 そういう表現しか出来ないような拳が、邪神の言葉に反応した黒巨人から放たれる。

 狙いはもちろん未来の俺。

 盾型ASでは防ぎきれない大質量をもった拳を前に、未来の俺は笑みを浮かべていた。


「じゃあ、逸らそう」


 迫る黒巨人の拳に対して、未来の俺の前に盾型ASすべてが一列に並ぶ。

 といっても一直線という訳ではなく、斜めに。


 黒巨人の拳が最初の盾型ASにぶつかるが、そんなモノは関係ないと言わんばかりに弾き飛ばしてそのまま突き進む。

 盾型ASが連続でぶつかっていくが、そのどれもが弾き飛ばしてしまい、黒巨人の拳は未来の俺に向かって進んでいき……その横を通り過ぎていった。


 未来の俺が避けたとか、そういう事ではない。

 黒巨人の拳が勝手に通り過ぎていったという感じだ。


「何が? いや、関係ない! このまま払えば済む事だ!」


 未来の俺の横を通り過ぎた黒巨人の拳が、そこから裏拳というか、薙ぎ払うように動く。

 狙いはもちろん未来の俺。

 そこに弾き飛ばされた盾型ASが舞い戻ってきて、先ほどと同じように連続でぶつかっていくが結果は同じく弾き飛ばされるだけ。


 けれど、結果も同じだった。

 黒巨人の拳は未来の俺の頭上を通り過ぎ、腕を上げたような姿になる。


「くっ……ふぅんっ!」


 悔しそうな声と力を込めるような声が邪神から漏れ、上がった黒巨人の拳が未来の俺に向けてそのまま振り下ろされる。

 再び盾型ASが同じように連続でぶつかり、黒巨人の拳は未来の俺の横を通り過ぎて地面を叩く。


 舞い上がる土埃で一瞬視界が遮られるが、晴れた先に居たのは悠然と佇む未来の俺。

 未来の俺は地面をチラリと見て――。


「あーあ、地面にこんなにヒビ入れちゃって」


 邪神に視線を向ける。


「そんなに力を込めなくても俺は殺せるぞ、邪神。……まっ、当たれば、だけど」

「……いってくれるっ!」


 黒巨人の拳が引っ込んだかと思うと、反対側の黒巨人の拳が代わりに放たれる。

 それでも結果は同じで、未来の俺に当たっていない。

 ただ、それは邪神の方も織り込み済みだとでもいうように、黒巨人の拳で何度も殴りかかる。


 でも結果は伴わず、未来の俺には一度も当たらない。


 それと、何度も繰り返された事でわかった。

 盾型ASが何度も当たる事で軌道が僅かずつでも逸れていって、未来の俺に当たらない軌道までになっているのだ。


 邪神の方も当然気付いて黒巨人の拳の軌道を修正するが、やはり最終的には逸れてしまう。


「ならば!」


 黒巨人の両腕が突き出され、未来の俺を挟み込むように左右から黒巨人の手が迫る。

 けれど、盾型ASが下から次々と当たっては弾かれていく。

 それで軌道は少しずつ上昇していくが、今回は黒巨人の方も勢いが強い。

 軌道はそれほど変わらず、未来の俺に迫る。


 邪神は笑みを浮かべていた。

 これで終わりだとでも思ったのかもしれない。


 そこに、武器型ASが飛来。

 盾型ASと同じようにしたから黒巨人の手や腕にぶつかっていき、一気に軌道をずらす。

 黒巨人の手は、未来の俺の頭上で両手を組み、空気を挟み込む結果となった。


 邪神が少しだけ悔しそうな表情を浮かべるが、未来の俺は笑みを浮かべて言う。


「攻撃は大事だが、防御も大事だと思うぞ、俺は」


 未来の俺が右手を掲げる。

 盾型ASは未来の俺の周囲に漂っているが、その先の空中に武器型ASが集まっていき、組み合わさって一つの形――巨大な大剣へとその姿を形作る。


 そのまま未来の俺が掲げた右手を振り下ろせば、同じく巨大な大剣も振り下ろされ、黒巨人の左腕を斬り裂く――が、斬り裂かれた部分から黒巨人の左腕は直ぐさまくっ付き、巨大な大剣を殴り飛ばした。

 殴り飛ばされた大剣は空中でバラバラに……と思ったら、元の武器型ASに戻っていく。


 邪神は未来の俺に向けて笑みを浮かべる。


「防御? 見ての通り、我にそのようなモノは必要ない」

「いつまでそう言っていられるのかな?」

「それは、こちらのセリフだ!」


 邪神が前に飛び出し、黒巨人の拳を放つ。

 距離を縮める事で、ASが対応出来る時間を減らそうという目論見だと思う。


 それでも、未来の俺には通じなかった。

 未来の俺はASの反応速度を上げて、更に組み合わせて質量と大きさを増したASを当てて対抗する。


 ならば、と黒巨人が乱打を放ちながら近付いても同じ。

 さすがに近付かれると自ら動く必要は出てくるようだが、様々な手段を用いて、すべて逸らしていった。

 本当に、一発も食らっていない。

 黒巨人による質量攻撃がまったく通じていなかった。


 ただし、それはこちらも同じ。

 未来の俺が何度か攻撃を放っているのだが、効いている様子がない。


 通常の武器型ASだと、黒巨人に対して多少突き刺さりはするがそれだけ。

 深く突き刺さる事は出来ず、邪神まで届かない。

 集めた大剣型ASだと斬れるのだが、元が魔力だからか直ぐにくっ付いて斬り痕すら残っていなかった。


 ダメージらしいダメージを与えられていない。

 それでも、未来の俺は攻撃も忘れずに行い続ける。


 その姿を見ていると……先ほど見た未来のセミナスさんと大魔王ララを思い出した。

 という事は、未来の俺も時間稼ぎをしている……とか?


⦅……なるほど。大体理解しました⦆


 俺の中のセミナスさんがそう言った。

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