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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十五章 人一人分の確定した未来
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歯切れが悪い時だってある

 魔力で生み出した黒い武具で未来のセミナスさんと大魔王ララを足止めし、すべてのASを払い退けて、邪神が未来の俺に迫る。

 もちろん、すべてのASがそのあとを追うのだが、邪神の方が速い。

 邪神は未来の俺に一気に肉薄し――。


「守るモノがなくなってしまったが、どうだ? 死への恐怖でも覚えてくれると愉快なのだが?」

「死への恐怖? それはお前の方こそ自覚するべきじゃないか? といっても、恐怖を自覚したお前の姿を見せられても愉快にはならないけど」

「なら、そのまま死ね」


 邪神が勢いそのままに構え、拳を放つ。

 狙いは未来の俺の胸部。

 殴り飛ばすというよりは、そのまま心臓を貫きそうな勢いがある。


 それに対して、未来の俺はスッと片手を前に出し、タイミングを合わせたかのように放たれた邪神の拳の腕をちょんと叩く。

 そして未来の俺が上半身を横に少しずらせば、邪神の拳はそのまま未来の俺の横を通り過ぎていった。


 邪神は勢いがあったという事もあって、そのまま体の方も通り過ぎ、数歩進んでからとまる。


「一応言っておくけど、きちんと当てなきゃ、俺は殺せないぞ」


 邪神は答えず、振り返りながら回し蹴りを放つが、未来の俺は一礼するように頭を下げて回避。

 ならばと邪神が再び迫って乱打を放つ。

 一撃で殺す威力はあるだろうが、それよりも当てる事を優先したような、直線的な乱打。


 未来の俺は即座に振り返り、先ほどと同じように片手による払いと体捌きだけですべて回避。

 邪神はそのまま乱打を放ち続ける。

 けれどそれは、意識をそちらに向けさせるためだった。


 突然、邪神が蹴りを放つ。

 狙いは多分、転倒させる事。

 転ばせて、もしくは、転ばなくてもそれでバランスでも崩せば、そこで一気に攻めて殺すつもりなんだろう。


 少なくとも、見えてはいても反応出来ないというか、反応する前に蹴られていそうな速度なのは間違いない。


 そんな速度の蹴りを、未来の俺はひょいっと片足を上げて回避。

 邪神からすれば予想外だったのか、それとも勢いが強過ぎたのか、空振った足の勢いに引っ張られるような形で、邪神の方がバランスを崩した。


「あれ? 当たった方がよかった?」


 未来の俺の言葉に、邪神が怒りを前面に出して襲いかかる。

 意地でも一発入れてやる、とでもいうように、邪神が攻撃速度を上げていくが、結果は先ほどと何も変わっていない。

 未来の俺は、そのすべてを捌いていく。

 それこそ、必要最小限の動きだけで。


「馬鹿なっ! 何故当たらない! 我は貴様より強いはずだ!」

「そうだな。でも、それだけで勝ち負けは決まらないだろ。少なくとも、その他の部分は俺の方が上って事だ。反応速度や技術とか」


 その言葉を聞いて、気付く。

 未来の俺は、未来――今とこれからを知っているから避けられている訳ではないようだ。

 俺だからこそ気付いたというか、未来の俺は邪神の攻撃に対して、予測とか情報によって、そこにそうくるとわかっているからこその対処ではなく、見て反応してその場で判断して避けているのだ。


 それで、完全に対処している。

 しかも、なんとかギリギリとかではなく、どこか余裕を持って……。

 俺にはそう見えている。


⦅私の判断は間違っていなかったようですね。未来のマスターには、私であっても攻撃一つ当てるだけで相当苦労しそうです⦆

(……私は当てられる気がしません。少なくとも今の私では)


 セミナスさんと大魔王ララから太鼓判をもらった気分だ。


「というか、そんなに俺ばっかりに意識を向けていて良いのか?」

「何を――ぐっ!」


 邪神から苦痛の声が漏れる。

 何故なら、邪神の脇腹辺りを、槍型ASが背後から突き刺していたからだ。

 突き刺さった槍型ASの柄部分を掴んで抜こうとする邪神に、未来の俺が声をかける。


「痛いのは当然だし、抜きたい気持ちもわかるけど、とまっている場合か?」


 その言葉の意味は簡単だ。

 武器型ASが次々と邪神に向けて飛来し、盾型ASは未来の俺を守るような配置に。

 邪神は即座に槍型ASを引き抜き、回避行動に移とうとしたが、掴まれたままの槍型ASが動き、邪神が取ろうとした回避行動を阻害。


 そこに剣型ASが斬りかかり、邪神の肩に斬り傷を付ける。


「面倒な真似を!」


 即座に槍型ASを放して、邪神は次々と攻撃を行う武器型ASをかわしていく。

 気が付けば、傷はもう癒えていた。


⦅あの状態だと肉体的な能力が相当上がっているでしょうから、魔法でなくとも自然治癒力である程度までは即座に癒えます。もっとも、傷の分も消耗しているでしょうから、無駄という訳ではありません⦆


 セミナスさんの説明が入る。

 ただ、その次となる傷が中々入らない。

 馬鹿みたいな身体能力頼りの回避だが、それでも邪神は飛来する武器型ASをすべてかわしていく。


 そんな状況でも、邪神は僅かな瞬間があれば、物理的なり魔法的なり何かしらの攻撃を放ってくる。

 ただ、盾型ASがすべて防いでいて、突破はするのは出来なさそうだ。


 ……というか、なんで未来の俺は一人で邪神の相手をしているのだろうか?

 未来のセミナスさんと大魔王ララは?


⦅えっと……その……⦆

(なんと言いますか……ねぇ……)


 歯切れが悪いので直接確認。


 ……まだ、黒い武具とやり合っていました。


 いや、未来のセミナスさんと大魔王ララの力なら、黒い武具くらいはどうにでも出来そうな感じがあるんだけど。


⦅そうなんですが……⦆

(何故かまだ……)


 今の二人からしても意外なようだ。

 でも、未来の二人の様子を見ていると……わざと手間取っているというか、時間を稼いでいるように思えてくる。

 ……何かを待っている?


 そう考えた時、未来の俺と邪神の戦いに変化が起こる。


「どうした? もう限界か?」

「万全の状態であれば……」


 武器型ASによって、邪神の体にいくつも傷が付けられていた。

 何より、邪神の息が少し上がっているように見える。


⦅いえ、あの様子ですと、再び疲労を感じ始めているのでしょう。ですが、常に生命力を消費しているのですから当然です⦆


 なら、このままいける? と思った時、邪神が動きを見せる。


「それならば、限界が来る前にお前たちを殺せば良いだけだ!」


 その言葉と共に、邪神から大量の禍々しい魔力が噴出した。

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