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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十五章 人一人分の確定した未来
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気が逸る時がいつだって訪れる

 邪神から放たれ続ける乱打を、未来の俺が盾型AS総出で防ぎ続ける。

 そこに、未来のセミナスさんと大魔王ララが駆け寄ってくるのだが……未来の大魔王ララが少し突出しているような気がした。


⦅いえ、総合的な戦力から判断すれば、先ほどまでの疲労状態ならまだしも、今の状態の邪神を相手とするのなら、単独ではなく共闘で挑むべきです。見た感じ、確かに未来のマスターたちは今よりも格段に強くなっていますが、個で比較した場合の総合的な戦力は邪神の方が上。未来の大魔王が言っていたように、未来のマスターたち……三人でどうにか上回っているのです⦆


 という事は――。


⦅同時に共闘するならまだしも、単独先行する必要性はありません。つまり、あれは未来の大魔王の勝手な行動であると思われます⦆

(……ですが、未来の私ですから、勝手な行動を取る気持ちはわかります。今の邪神から感じる邪悪な気配のようなモノが強くなりました。それこそ、私の中に居た時によく感じていたモノに。それで思い出してしまったのでしょう……これまでの事を)


 それで、先行か。

 気が逸って、とかかな。

 でも、そういう気持ちになるのは、わかる気がする。


 何しろ、未来の俺たちの中で、邪神に対して因縁のようなモノが一番あるのは大魔王ララだ。


(私の事は……別に構いません。ですが、邪神の体は元々リガジーなのです。それを我が物顔で奪い取ったのが許せないのです。既にリガジーの意思はありません。しかし、あの体は邪神ではなく、リガジーとして弔ってあげたいのです)


 どこか少し悲しげな声で、俺の中の大魔王ララがそう告げる。

 きっと、その思いは変わらず、未来の大魔王ララも同じ気持ちなのだろう。


 その間に未来の大魔王ララは、未来のセミナスさんよりも先に邪神に接敵。

 邪神はその動きを察知していて、盾型ASを殴り飛ばすついでに、その先を未来の大魔王ララにして牽制。


 殴り飛ばされた盾型ASが飛来し、未来の大魔王ララは受けとめるでも避けるでもなく、ぺいんと払い捨てる。

 酷い。


⦅マスターのASをあのように乱雑に扱うとは……許せません。葬り去りましょう⦆

(いえ、今のは、その、ほら、ね。こう……集中してしまうと周りが見えなくなるとか、そういった事です。それ以外に割く思考がなくなり、視界が狭まるといいますか……普段の私であれば、あのような事はしません。ええ、しませんとも)


 それはつまり、未来の大魔王ララはそういう普段とは違う状態だという事である。


(未来の私が、申し訳ございません)


 ……普通は逆というか、今仕出かしたのを未来で謝るとかだと思うんだけど。

 でもまぁ、気にしなくて良いんじゃないかな?

 だって、ASだし。

 実際、払い捨てられた盾型ASはなんでもないように、未来の俺の下に戻っていっている。


 ただ、それよりも速く、未来の大魔王ララは邪神に肉薄していた。

 邪神が盾型ASを相手にしているところを狙って、思いの強さを表すような全力の蹴りを放つ。


「愚かな。順番も待てないのなら」


 体を沈ませるようにしゃがんで蹴りを回避した邪神は、未来の大魔王ララの蹴りを掴んで、そのまま力で引き寄せて地面に叩き付ける。

 未来の大魔王ララは踊るように足を回して掴んでいた邪神の手を払い、そのまま勢いを付けて起き上がる……が、その眼前には邪神の手のひらがあった。


「お前から殺してやろう」


 邪神の手のひらに黒い粒子が集まり、黒い光の奔流が放たれた――直後。


「ちぇいっ!」


 未来のセミナスさんが未来の大魔王ララを上空に蹴り飛ばす。

 黒い光の奔流はそのまま何も飲み込む事なく地面に突き刺さって消滅する。


 未来のセミナスさんはそのまま邪神に攻撃を開始し、格闘戦を繰り広げ始めた。

 個としては邪神の方が強いのだが、そこに盾型ASと武器型ASも加わり、なんとか対等に渡り合う。


⦅惚れ惚れする良い蹴りです⦆


 セミナスさんが、先ほどの未来のセミナスさんの蹴りを絶賛する。

 空中に蹴り飛ばされた未来の大魔王ララが、地上で戦っている未来のセミナスさんに疑問を飛ばす。


「今私の方を蹴る必要ありましたか? 邪神の手の方でよかったのでは?」

(今私の方を蹴る必要ありましたか? 邪神の手の方でよかったのでは?)


 未来の大魔王ララと今の大魔王ララが、同じ事を問う。

 一応だけど、ダメージらしいダメージはなさそうだ。


「緊急回避です。それに、あなたの方が近かったので、これはチャンs……邪神の手の方だと間に合いませんでした。それに、ダメージは入っていないと思いますが? それとも、命の恩人にそのような些細な事を尋ねるのですか?」

⦅緊急回避です。それに、あなたの方が近かったので、これはチャンs……邪神の手の方だと間に合いませんでした。それに、ダメージは入っていないと思いますが? それとも、命の恩人にそのような些細な事を尋ねるのですか?⦆


 未来のセミナスさんと今のセミナスさんが。同じ返答をした。

 いや、多分……ここぞとばかりに狙ったような気がする。

 少なくとも、俺の目にはそういう風に見えた。

 未来の俺が同意するように頷いた……いや、見間違いかもしれない。


 ただ、俺の中のセミナスさんは上機嫌だけど。

 ……いや、未来のセミナスさんもどことなく上機嫌なような。


⦅今味わえないのが非常に残念ですが、私はこの瞬間を忘れません。この瞬間のために、私はこの未来に向けて進みます⦆


 ……なんか不純な動機だけど、モチベーションは人それぞれである。

 ほんと、ダメージがなさそうなのだけが救いだ。


(この未来を回避したいと思います)


 今の大魔王ララから固そうな意志を感じるけど……今見ている光景が俺たちの未来なら、同じ事になるんだろうな。


⦅必ず辿り着く未来です。私の手によって、何がなんでも実現する事でしょう⦆


 セミナスさんの意志はまさしく強固だろう。

 これは……必要な未来なの?


⦅必要です⦆


 でも――。


⦅絶対に必要です。何故なら、こうでもしないと――⦆


「……頭は冷えましたか?」


 未来のセミナスさんが邪神とやり合いながら、未来の大魔王ララに向けてそう声をかけた。


「ええ、おかげさまで」


 未来の大魔王ララはなんでもないように着地して、そのまま戦闘に参加する。

 どうやら、未来の大魔王ララを落ち着かせるために必要だったようだ。

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