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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十五章 人一人分の確定した未来
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思いのほか成長していると実感する

 邪神に対して、目に見えた変化は起こっていない。

 けれど、セミナスさんが言うには、未来の俺たちによって邪神は神ではなくなり、人となった事で不死ではなくなった、と。


 ……とりあえず、神ではなくなったけど、今更別の呼び名もどうかと思うので、このまま邪神としておこう。

 一応、神の力はそのままなようだし。


 でも、それを一番実感しているのは……邪神だった。


「馬鹿な! 何故こんな事が! 起こり得ない! 起こる訳がないのだ! それこそ、魂に干渉出来るまでの解析など! 少なくとも、長年共に居た事で魂の情報を得ていて、神を超えるような演算力がない限りは!」


 なるほど。

 演算力はセミナスさんだろう。

 となると、魂の情報ってのは、大魔王ララからもたらされたと思うから……協力してくれていると思うけど?


(役に立っているようですが?)

⦅そのような事実は確認されていません⦆


 セミナスさんは目で見て体験しない事には認めないようだ。


 邪神の方も、認められないと暴れようとする。

 でも、ASによって押さえ――。


「いい加減……邪魔だあああぁぁぁ!」


 邪神からこれまで以上の禍々しい魔力が噴出するように放出され、その奔流に流されるように押さえ付けていたASがすべて弾け飛ぶ。

 といっても、ASは前提となっているのが盾。

 特に傷を負うような事もなく、未来の俺が弾け飛んだASを手元に戻す。


 その間に邪神は立ち上がり、未来の俺を強く睨む。

 その眼には憎しみしか宿っていない。

 必ず殺す、と告げている。

 ASが貫いていた部分は既に癒えていた。


 ……というか、まだあれだけの余力を持っていたなんて。


⦅いいえ、それは違います。邪神は確かに大きく疲労していました。魔力も一度は出し切っています⦆


 でも、すごい魔力を放出したし、それでも平気そうだ。

 寧ろ元気に見えるけど?


⦅邪神が受けたのは祝福です。新たな生命の誕生です。その過程と結果……魂と肉体が一つになった事で得た力――生命力。言い換えれば、命を燃やして力を得ているのです。よくある話かと⦆


 いや、よくある話かもしれないけど、そういうのって……ヤバくない?


⦅問題ありません。この手段を取ったという事は、この結果も当然私が想定しています。つまり、邪神が命を削る力を出しても大丈夫だと判断したのです。それに、大魔王が言っていたでしょう? 全快時であれば、私たちとも渡り合えたかもしれないと。それは裏を返せば……未来のマスターたちは、万全の邪神であっても渡り合える力を持っているという事です⦆


 邪神が再び禍々しい魔力を放出させる。

 それは怒りを表していて、その魔力を纏い始めた。

 といっても、これまでとは違う。


 纏うだけではなく、密度の影響か、ある形を取っていった。

 それは――黒い装束。

 格闘家が身に纏うような武闘着を形作り、余った部分がフードも形作って邪神の頭部をすっぽりと覆い隠す。

 まるで暗殺者のようだ。


「はぁ……はぁ………………」


 禍々しい魔力を放出した事で怒りも放出したのか、邪神の呼吸が落ち着くのと同時に、その表情も落ち着く。

 落ち着いて冷静に……未来の俺を見る。


「……良いだろう。死にたいというのなら、死なせてやろう。命を燃やした力だろうが、燃え尽きる前にお前たちを殺してしまえば良い事だ」

「それはどうかな? 案外、出来ると思っても、出来ない事はあるし、それもその一つかもよ?」

「そういう事なら、出来ないと思っていた事が出来る、という事もあると思うが?」

「確かにそうだ。神が人になったり、な。体験者は語るってやつ?」

「説得力があったかな? それとも、感謝の言葉でも言っておこうか」

「感謝されるような事をしたか?」

「この世に生を受けさせられ、目的までも与えられてしまった。貴様らを心のままに皆殺しにし、再び神へと戻るという目的を、な。神から人になったのだ。人から神に至る方法もあるはずだ。いや、ないなら造り出せば良いだけの事。……では、始めようか。殺戮を」

「それは始まらない。今、この場で死ぬのはお前だけだ」


 未来の俺がそう言った瞬間、邪神の姿が消え、ゴインッ! と硬い金属を殴ったような音が鳴り響く。

 音がした方に視線を向ければ、邪神の持つ黒い剣が未来の俺に向けて降り抜かれていて、それを盾型ASが受けとめているところだった。


 今、邪神の動きがまったく見えなかったのは……疲労の影響だけじゃない。

 まず間違いなく、邪神の身体能力も上がっている。


「よく受け止めたな」

「まぁ、ただ殴ってくるくらいなら、別にどうとでも対処出来るくらいには強いからな」

「随分な自信家だ」

「そういう自信がない訳ではないけど、今は少し違うな。これは、ただの結果でしかない」

「終わってもいないのに結果を語るとは!」

「悪いが、俺の中では既に終わっているんだよ。それこそ、随分と前に」


 邪神が何度も拳を振るう。

 けれど、未来の俺が言ったように、邪神の放つ乱打を盾型ASによって防いでいく。

 というか、俺が見えているのはその結果だけ。


 邪神の動きがまったく見えていないが、未来の俺は完璧に防いでいる。

 それこそ、一つも残らず。

 確実に見えているという事だ。


⦅確かに、未来のマスターは完全に見えて反応しています。実際の答えは今の私には出せませんが、もしかすると⦆


 もしかすると?


⦅未来のマスターたちのこれまでの行動からの計測による推測ですが、最も強いのはマスターかもしれません⦆

(確かに、私もそう判断します。ASによる絶対的な防御だけではなく、同レベルの攻撃能力も有していますので、正直なところ、現段階の私では太刀打ち出来ません)


 そこまで? と思うが、目の前の光景はそれを物語っている。

 未来の俺は邪神と真正面からやり合っていた。

 盾型ASで攻撃を防ぎ、武器型ASで攻撃を行っている。


 武器型ASに関しては、邪神はその体捌きだけで回避していた。

 回復したからか、その動きは鋭く正確で、覚醒した詩夕たち以上かもしれない。


「どちらが先に当てられるかの我慢比べか?」

「さてね」

「貴様を見ていると、意地でも突破したくなるな」


 乱打を繰り出す邪神の軽口に、未来の俺はそう答え、そのまま言葉を続ける。


「確かなのは、既に結末は決まっているって事だよ、邪神」

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