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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十五章 人一人分の確定した未来
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本人的には気持ちが込められている

 未来の大魔王ララが下がり、代わりに未来のセミナスさんが前に出る。


「それでは、よろしくお願いしますね、先輩」

「……あなたにしては、よく我慢しましたね」

「憂さ晴らしはついでですから。先輩も、やり過ぎないように」

「誰に言っているのですか? 私はあなたと違って己を律する事が出来ますので」


 二人が交じわる瞬間、そんな会話を行っていた。

 ……我慢?


⦅おそらくですが、見た限りの力の差を踏まえると、あのまま未来の大魔王が邪神をフルボッコにも出来たと思われます。ですが、それをせず、我慢して本来の目的である邪神討伐、いえ、消滅のための行動を優先した事を褒めているのでしょう⦆


 ……褒めている?


⦅『よく我慢しましたね』と⦆


 あっ、あれは褒めていたんだ。


(褒めていたのですね。……まぁ、先輩から褒められる事は滅多になさそうですし、そもそも先輩が他者を褒める事自体が稀でしょうから……大事なのは褒める気持ちがきちんと含まれていたという事ですね)


 まぁ、大魔王ララが納得しているのなら、それでも良いんじゃないかな。

 未来の大魔王ララも、特に気にしていないようだし。


 ただ、突然の交代劇に、相手は納得していないようだ。


「……なんのお遊戯のつもりだ、これは?」


 邪神がそう口を開く。

 その声色には怒りが交じり、それは視線にも表れている。


 ただ、そんなモノは自分には通じないと言わんばかりに、未来のセミナスさんは動じていない。


「どうかしましたか? こちらとしては、お遊戯のつもりはありませんが」

「お遊戯でもなければ、わざわざ一対一で我とやり合おうとする意味がない」

「ですから、お遊戯ではありません。一対一でやっているのは、わからせるためです」

「……わからせる?」

「ええ。あなたは別に絶対の存在ではない。特別な存在ではない。世の中、上には上が居て、あなたはその上ではないという事を、です」


 未来のセミナスさんを見る邪神の目が更に威圧的になり、相手を射殺しそうな目だ。


「誰とも知れぬ、貴様のようなただ我の前に居るだけの存在が、随分な物言いだな。そもそも、貴様は誰だ?」

「相手が誰だとか、そういう細かいところを気にするのですか?」

「我に対して不遜な物言いをする者の末路は一つ。死を与えてやろう」

「出来るモノなら、お好きにどうぞ。それとも、恐れるような仕草がご希望ですか? しかし、そうなると困りました。私はあなたに対して恐れやそういったモノは一切感じていません。どうしましょうか?」

「……なら、感じさせてやろう! 我という存在の恐怖を、その身に刻んでやろう!」


 邪神が一気に前へ。

 瞬間的に未来のセミナスさんに迫ると、乱打を放つ。

 未来のセミナスさんはその乱打をすべて的確に払う。


 それの何がすごいのは、その正確性。

 未来の大魔王ララが邪神の攻撃を払う仕草よりも、すべての動きが少ない。

 必要最小限の動きで最大の効果を発揮しているように見えた。


⦅さすがは私ですね⦆


 今のセミナスさんも大満足の動きのようだ。

 まぁ、当人なんだけど。


 先ほどと同じ……いや、それよりも厳しい展開に、邪神は別の手段を取る。

 大人エイトやグロリアさんの攻撃に対して相殺の意味があった魔法による攻撃を、未来のセミナスさんに向けて放つ。


 それも一つではなく、何十、何百という魔法弾の数を一斉に。

 質よりも量を取ったといった感じだった。

 でも、それなら未来の大魔王ララが水の膜で防いだように、未来のセミナスさんもなんらかの方法で防ぐ事は出来るだろう。


 でも、それが邪神の狙いなんだろう。

 防がれる事が前提なのだ。

 おそらく、防ぐという一動作を行う時に合わせて、別の攻撃を行うつもりなのかもしれない。


 それに、魔法弾の数は何百にも及ぶ。

 防ぎきれずに、という可能性もあるのだ。

 邪神としては、どちらでも良いのだろう。


 そうして、迫る何百の魔法弾を前に、未来のセミナスさんが少しだけ傍観し、一つ頷く。

 未来のセミナスさんが一動作行う。

 それは、魔法弾を防ぐバリアでも、相殺のための同数魔法弾を放つでもなく、魔法弾の一つをデコピンのように指で弾くだけ。


 弾かれた魔法弾が別の魔法弾に当たって軌道が変わる。

 それが連続して起こり続け、すべての魔法弾の軌道は、未来のセミナスさんを避けるような軌跡を描く……だけではなく、いくつかの魔法弾は邪神に向かっていた。


「ちっ!」


 邪神が苦々しい表情を浮かべて魔法弾を弾き飛ばす。

 未来のセミナスさんだけではなく、邪神の方も一動作加わった事でイーブン。


「小手先の手法に頼るからそうなるのです。前はもう少し己の力を前面に出していたと思うのですが……なんでしたら、吐露していただいても一向に構いませんよ。それで何が変わる訳でもありませんし」

「別に吐露するような事はないが?」

「ありますよ。疲れて本気が出せないので、少し手加減してもらえませんか? と」


 ……すごく煽るね、未来のセミナスさん。


⦅そうですか? 普通の事と言いますか、特にそういう気持ちはないと思いますが……⦆


 ……素って事か。

 未来の俺……頑張ったんだな。


⦅頑張る必要はありません。マスターには愛情100%で接していますので⦆


 いやもう、ほんと、未来の俺には尊敬しかない。

 そして、未来のセミナスさんの言葉に対する邪神の反応は――。


「……図に、乗るな!」


 当然、怒り。

 今まで一番の怒りだと、表情だけではなく、仕草や行動にも怒りを感じさせるように、未来のセミナスさんに向けて襲いかかる。


 邪神が殴りかかるための拳を握ると、体中に纏わせていた魔力がその拳に集中。

 力を一点集中させたように見える。

 そのまま勢い付けて、未来のセミナスさんに向けて拳を放つ。

 内面の怒りに従ったような安直な行動であったため、未来のセミナスさんはその拳を容易に避けるが……邪神の狙いは未来のセミナスさんではなかった。


 怒りに染まったような行動はフェイク。

 握っていた拳が開かれ、その先に居るのは未来の俺と大魔王ララ、それと俺たち。

 未来のセミナスさんに襲いかかると見せかけて、こちらを攻撃する気だったようだ。

 散々言われたから、意趣返しのつもりなのかもしれない。

 なんだかんだ言いつつも、結局守り切る事は出来ない、と。


 邪神の手のひらから魔法が放た――。


「甘いとしか言えませんね」


 未来のセミナスさんが流れるような動きで邪神の手のひらに触れ、くるりと反転させる。

 そこが、照射のタイミングだった。


「くっ!」


 邪神が咄嗟に避け、放たれた魔法は邪神の後方の大地を焼き尽くす。

 確実にこちらを消し去るつもりの威力を込めていた事がわかる。


「残念ですが、私にそのような手は一切通用しません」


 未来のセミナスさんは、邪神に向けて酷薄な笑みを浮かべる。

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[一言] セミナスさんの酷薄な笑み………………ヒェッ
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