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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十四章 大魔王
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こういう時は笑みを浮かべたくなる

 巻き付いた鎖の隙間から噴出していた禍々しい魔力が消えた。

 それはつまり、邪神の魔力切れを示している。


「ぐ、ぐぐぐ……」


 邪神が立ち上がろうとするが、セミナスさんと大魔王ララが使用している遠隔ASに押さえ付けられたままで、その押し付けを払い退けるだけの力はもう出ないようだ。

 纏っていた禍々しい魔力も消え、噴出もなくなった事で、巻き付いている鎖に対しても抵抗出来なくなっている。


 疲労させ、魔力も切れた。

 つまり、今こそセミナスさんが提示した封印の時。


 詩夕たちも手応えのようなモノを感じているのか、エイトたちの魔力供給に後押しされて、一気に決めるために動き出した。


「封印を始める!」


 詩夕の合図で、常水が槍を、水連が杖を構える。

 鎖を発している魔法陣はそのままに、常水と水連が邪神に向けて駆け出す。


「『神槍をもって貫きとどめ』」


 常水が、邪神の左上の地面に槍を刺す。

 そこに新たな魔法陣が描かれる。


「『神杖をもって押しとどめ』」


 水連が、邪神の右下の地面に杖を刺す。

 同様に、新たな魔法陣が描かれた。


 新たな魔法陣が描かれると同時に、常水の槍と水連の杖が魔法陣の中に溶けるように吸い込まれていって消失する。

 その代わりのように、新たな魔法陣はこれまでの中で一番強く輝き出す。


 次いで、樹さんと咲穂が動きを見せる。

 樹さんがナックルを構え、咲穂が弓矢を構えて駆け出す。


「『神拳ナックルをもって圧しとどめ』」


 樹さんが、邪神の右上の地面に拳を打ち付け、魔法陣が描かれる。


「『神弓をもって射りとどめ』」


 咲穂が、邪神の左下の地面に零距離で矢を射り、魔法陣が描かれる。

 先ほどと同じように、二人の神器はそのまま魔法陣に溶けるように吸い込まれていく。


「な、める、なぁ……たとえ勇者であろうとも、中途半端な力での封印などぉ……」


 邪神がそう言って、起き上がろうとする。

 巻き付いている鎖がギチギチと砕けそうな音を上げ、どうにか押さえ付けている遠隔ASを引き剥がそうとし出した。


 でも、それは上手くいかない。

 邪神は起き上がれず、引き剥がそうとする手も鎖の締め付けを千切れずに届かない。

 完全に押さえ込まれていた。


 邪神の疲労と魔力切れによって、という可能性もあるが、それとは別に、先ほどよりも鎖による拘束が強くなっている気がする。

 そう思う理由というか、そうなった要因は一つ。


 神器が消えた代わりの魔法陣による効果かもしれない。


 邪神はそれでも抵抗を続けるが、封印は続いていく。

 その次に動いたのは、天乃と刀璃。

 天乃が杖を、刀璃が刀を構えて飛び出す。


「『神杖をもって押しとどめ』」


 天乃が、邪神の足元の地面に杖を刺し、魔法陣が描かれる。


「『神刀をもって斬りとどめ』」


 刀璃が、邪神の頭上の地面に刀を刺し、魔法陣が描かれる。

 それまでと同じように、二人の神器は魔法陣の中へ溶けるように吸い込まれていく。


「ぐっ」


 まるで重みが増したかのように、邪神が苦しげな声を漏らした。

 実際、圧力的な部分は増しているのだろう。


「は、はは……ははははははははははっ!」


 邪神が狂ったように笑い出す。

 諦め……という訳ではなさそうだ。

 実際、邪神は今もどうにかして抜け出そうと、もがくように体を動かしている。


「面白い! 我を封印出来るモノならしてみるが良い! 魔力が切れようとも、そう簡単に封印出来ると思うな!」


 邪神が口を開く中、詩夕が行動を起こす。

 剣を構え、駆け出し、邪神の真上に跳躍する。


「『神剣によって刺しとどめ』」


 そのまま邪神の腹部を突き刺すように剣を下ろすが、その直前で溶けるように消えていく。

 代わりに、邪神の前に、周囲にある神器の代わりに描かれた六つの魔法陣を纏めるような、巨大な魔法陣が描かれた。


 詩夕はその魔法陣の上に立ち、そのまま押し込もうと両手を魔法陣に押し付ける。

 常水たちも、同じように自身の足元にある新たな魔法陣の中で両手を押し付けた。


『特殊封印・七星封印式』


 詩夕たちが声を揃えてそう叫ぶ。

 同時に、描かれた魔法陣が七色に強く輝き出し、最後に詩夕が描いた巨大魔法陣がゆっくりと下降し出した……が、まるでその先には行けないとでもいうように、下降が途中でとまる。


「ふ、ふふ……その程度か、勇者たち」


 どうやら、邪神が抵抗しているようだ。

 疲労していて魔力切れとなると……あとは気力、気合の類だろうか?

 それだけで封印に対して抵抗しているように見える。


 あとはやっぱり、詩夕たちの状態も影響していそうだ。

 体力は枯渇状態から僅か程度回復しただけだし、魔力をエイトたちから供給されているといっても、そのエイトたちの方もそれほど多く残っている訳ではない。


 という事によって、拮抗している。

 せめぎ合っているというような状態だ。


「はははははっ! 気を抜くなよ、勇者共! その瞬間に、一気に払い除けてくれる!」


 実際に、邪神にそれだけの力が残っているかはわからない。

 でも、この状況までもっていった過程を踏まえると……それだけの力があってもおかしくないと思ってしまう。


 ただ、このまま押し切れるかどうかも怪しい。

 何しろ、今の状態を保つだけでも消耗していっているだろうし。


 ……最後の一押し……決め手が足りない。


⦅問題ありません。最後の一押しは既にあります⦆


 え? あるの?


⦅ASも、分類上は神器です⦆


 ……あっ、そうか。

 詩夕たちの神器と同じモノを使用して、同じく鍛冶の神様によって造られたモノ。

 確かに神器であってもおかしくない。


 いや、この際、封印の手助けになるのなら、なんだって良い。

 でも、俺に勇者スキルはないけど大丈夫?


⦅お忘れですか? マスター。過去でアイオリとエアリーから勇者と賢者のスキルを複製した事を。複製ですが、それで代用出来ます。それに……まぁ、こういう時には役に立つのでしょうね。勇者と対等の存在である魔王……その中でも大魔王が居ますから。過去に一度『神魔封印』を受けていた事も良い経験になっている事でしょう。この際、仕方ありません……協力していただけますか? 大魔王ララ⦆

(もちろんですよ。漸く素直になりましたね、セミナス先輩)

⦅『さん』付けしなさい⦆


 セミナスさんに頼られて、大魔王ララがどことなく嬉しそうだ。


⦅では、マスター。合図を。――と⦆


 わかった。

 邪神に向けて手を伸ばし、ゆっくりと紡ぐ。


「『……神盾によって封じとどめる』」


 そう言うのと同時に、遠隔ASが解けるように消え、代わりに魔法陣が描かれる。

 ずしん、と圧力が増し、巨大な魔法陣は再び下降を始めた。

 邪神が抵抗しようとも下降はとまらず、もう封印は時間の問題だろう。


 ただ、その最後の一押しが誰によってなのかは、受けている邪神には丸わかり。

 邪神がどうにか顔を動かして、俺に視線を向けてくる。


「また、貴様か! まずは全力で貴様を殺しておくべきだった!」

「……さっさと封印されろ」

「……良いだろう。この場は大人しく封印されてやる。だが、この程度の封印で、我をそう長く封じる事は出来ないぞ。精々、十数年といった辺りだ。……束の間の平和を謳歌すると良い。我にとっては良い休暇だ。体を休め、封印を破れば……まず真っ先に貴様から殺してやろう。どこに居ようとも、必ず見つけ出して殺してやる」


 邪神が俺に向けて恨み節を語る。

 そんな邪神に向けて、俺は笑みを浮かべた。


「……安心しろよ。こっちも、そんな長く待たせる気はないから」


 聞こえていたかはわからない。

 けれど、そう言うのと同時に、巨大魔法陣が邪神に触れ、視界全てを眩い光が埋め尽くし、思わず目を閉じる。

 再び目を開けた時……邪神の姿はどこにもなかった。


 それだけ見届け……俺は眠るように目を閉じて、意識を手放した。

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