失うと悲しくなるモノだってある
詩夕たちによる邪神の封印が始まった。
邪神を中心にして、七角形の位置に陣取った詩夕たち。
まずは詩夕から始まり、足元にある魔法陣から白く輝く鎖と赤く輝く鎖を出現させ、それを邪神の体に巻き付かせる。
詩夕に続き、常水たちも順に同じ事を始めた。
「水の力よ!」
常水の叫びに応じて、足元の魔法陣から青く輝く鎖が出現して、邪神に巻き付く。
「闇の力よ!」
天乃の叫びに応じて、足元の魔法陣から黒く輝く鎖が出現して、邪神に巻き付く。
「時の力よ!」
刀璃の叫びに応じて、足元の魔法陣から廃色に輝く鎖が出現して、邪神に巻き付く。
「風と火の力よ!」
咲穂の叫びに応じて、足元の魔法陣から緑色に輝く鎖と赤く輝く鎖が出現して、邪神に巻き付く。
「水と時の力よ!」
水連の叫びに応じて、足元の魔法陣から青く輝く鎖と灰色に輝く鎖が出現して、邪神に巻き付く。
「土の力よ!」
樹さんの叫びに応じて、足元の魔法陣から茶色に輝く鎖が出現して、邪神に巻き付く。
詩夕たちの足元の魔法陣から出現した鎖は、邪神は両手足、それとその体に巻き付いて拘束する。
邪神が抵抗するように体に力を込めるが、ドラーグさんの押さえ付けもあって、立ち上がる事は出来ていない。
ただ、かなりの抵抗なのだろうか。
鎖からビシリとヒビが入るような音が聞こえる。
「くっ」
そうはさせないという意志を感じさせる声が、詩夕から漏れた。
詩夕だけではなく、常水たちも厳しそうな表情を浮かべている。
更に力を込めたという感じで、神器の発光が更に強くなり、呼応するように邪神への鎖の締め付けが強くなった。
これ、詩夕たちが発した鎖はバラバラっぽいけど、どういう封印なのかわかる?
⦅ふむ。私が課した鍛錬の中で、一応過去に勇者が行った『神魔封印』については念のため教えておきましたが、それとは少々違います。少々お待ちを……鑑定分析完了しました。神器と七属性の力を合わせた複合型封印。カテゴリーは特殊封印に該当します⦆
神器と七属性……。
確かに、神器が輝いているし、詩夕たちが叫んでいたのは、七属性だ。
でも、バラバラだけど?
⦅七人全員で七属性を作り出しているのです。バラバラなのは、それぞれが持ち得る属性を発しているため。全属性持ちが足りないのを補い、七属性の力のバランスを取っています。これは、『神魔封印』を更に自分たちに合わせたモノかと。発展型ではなく、再構築型といった感じです⦆
つまり、本質はアイオリさんとエアリーさんが行った封印と同じ?
⦅元々、『神魔封印』は『勇者』スキル持ちであれば誰でも使用出来る封印。言ってしまえば、汎用型の封印なのです。それを自分たちに合わせたモノに変えたのが今行っている封印。基礎は同じですが、より自分に合わせている以上、強くなっている……とは思うのですが⦆
ですが?
⦅邪神の疲労は確かですが、それは勇者たちの方も同じ。いえ、その状態から比較すると、過去の封印よりは弱いかと。たとえ封印出来たとしても、百年単位は不可能です⦆
うん。まぁ、それでも封印出来るなら、それで良いんじゃない。
そこまで長く封印するつもりはないし。
⦅それはどういう……いえ、迂闊に知れば未来は変わる。まずは封印する事に意識を傾けましょう⦆
(なら、私が聞いておきましょうか?)
⦅その前に消し炭にします⦆
確定事項のように言う。
でも気になるのは、封印が先ほどから進んでいないように見えるのだ。
何か問題が? と思ったところで、詩夕が口を開く。
「このままだと封印に巻き込まれます! 離れてください!」
「今ワシが離れれば、間違いなく鎖を引きちぎるぞ! 構わん! ワシごとやれ!」
詩夕たちは、ドラーグさんを含めた封印になってしまう事を危惧しているために躊躇っていたようだ。
しかし、ドラーグさんはそれ構わないからやれと言う。
直接邪神を押さえ込んでいるからこそ、まだ邪神にはそれだけの力があるとわかったのだろう。
だからこそ、ドラーグさんは自分ごと、と言ったのだ。
ドラーグさんの意思を汲み取って、詩夕たちがその覚悟を固める前に邪神が動く。
「これで……我を封じたつもりか!」
邪神に巻き付いている鎖の隙間から、禍々しい魔力が噴出するように漏れ始める。
鎖はどうにか巻き付いているが、いつ引き千切れてもおかしくないような感じ。
「封じてみせる!」
詩夕たちが更に力を込めると神器と鎖の輝きが増すが、邪神と拮抗……いや、鎖の隙間から漏れ出る邪神の魔力が増えていく。
鎖のゆるみが大きくなっているのは、邪神の方が強いという事だろう。
疲労はさせたけど、魔力まではまだ使い切っていない。
セミナスさんは魔力を使い切った時が封印時と言ったが、その事を失念していた。
このままだと、邪神が押し切ってしまいそうだ。
⦅問題ありません。これは私の中で想定していた事の一つです⦆
という事は?
⦅足りないのは、勇者たちの残存魔力。その解決策は既にあります。それは――⦆
……確かに、その案しかない。
「エイト! みんなに足りない魔力を!」
「かしこまりました」
大人エイトが自身の魔力を放出する。
何しろ、その魔力属性は全属性。
この封印に全属性の魔力が必要なら、大人エイトは足りない属性の魔力をすべて補う事が出来る。
細かい配分は……多分、魔王マリエムが色々察してやってくれてそうな気がした。
大人エイトから放出された魔力が、空中に軌跡を描きながら詩夕たちに注がれていく。
ポンッ! と小さな煙を上げて、大人エイトが元のエイトに戻った。
この仕組みはよくわからないが、造形の女神様たちは喜びそうだ。
「魅惑の体が……」
エイトは何やらショックを受けているが、魔力放出は継続中。
邪神に巻き付く鎖が更に強固になるが、邪神は更に禍々しい魔力を噴出させて抵抗していた。
「………………」
何も発さず、ただ力を溜めるように、邪神の表情が鬼気迫るモノに。
ドラーグさんもその表情から何かを察して更に押さえ付けようと姿勢が前のめりになるが、邪神は押さえ付けるドラーグさんの手を跳ね除け、そのまま殴り飛ばす。
「次は貴様らだ!」
邪神が巻き付かれている鎖など気にも留めないと言わんばかりに立ち上がる――が、そうはさせない。
セミナスさん! 大魔王ララ!
⦅お任せください⦆
(押さえ付けます)
邪神が立ち上がりきる前に遠隔ASが飛来して、邪神を再び地面に押さえ付ける。
といっても、邪神の抵抗は激しいようで、ドラーグさんほど押さえ付けていられる訳ではなさそうだ。
この僅かな時間でどうにかしないといけなさそうだが、一気に決める事が出来ない感じ。
もう一助けあれば……と思ったところで、後方から声がかけられる。
「主。こんなところに居たのか」
どうにか振り返れば、そこに居たのはワンたち。全員が揃っていた。
どうやら、城内の人形たちを片付けて、俺を捜していたようだ。
そこで、気付く。
今必要なのは、魔力。七属性の魔力。
そして、ワンたちはそれぞれが一属性を司っている。
「み、みんな! 魔力は!」
「……魔力? ほとんどエイトに渡したから、もうあんま残ってないけど?」
「あるのなら、詩夕たちに!」
ワンたちが詩夕たちに視線を向け……状況を即座に理解して動く。
それぞれ対応する属性の魔力を注ぎ……邪神に巻き付く鎖が太くなって更に強固なモノとなる。
「本当に……なんだ! この状況は! 次から次へと!」
邪神がそう叫ぶと同時に、噴出していた禍々しい魔力が消え去った。




