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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十四章 大魔王
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足掻けば見える景色もある

 邪神の纏っている魔力が噴出するように乱れ出す。

 そうして猛攻が始まったが……そもそも、既にこちらのスタイルというか、状況に対しての変化は起こせない。

 別にこれは諦めているとかではなく、もうこれ以上する事がない、といった感じだ。


 これ以上、こちらから邪神に対して何かを行う事が出来ない。

 全員が今出来る事をしている。


 それに、見ればわかる。

 確かに邪神は猛攻を始めたが、それは焦れたから。

 邪神が相当疲労している事は、見るだけでわかるようになっていた。

 呼吸は乱れ、汗も掻いている。


 それで、このままだと俺の相手をしているだけで疲労し切ってしまうと考え、そうなる前に俺を殺そうとしているのだ。

 というか、それが勘違いである。


 俺は別に、邪神が疲労し切るまで相手をするつもりはない。

 いや、出来ればそうしたいけど、それはさすがに高望みである事はわかっている。

 封印出来るまで疲労させれば、それで充分なのだ。


 なので、俺の心は穏やかなまま、邪神の猛攻をいなしていく。

 俺がここで粘れば粘るほど、大人エイトやグロリアさん、大魔王ララの攻撃は通るようになる。


「断定してやろう! 貴様から倒すべきだった! そして、これからも、と付きそうだが、もっとも面倒な相手であったと」


 邪神が手応えを感じたのか、そう言い出した。

 おそらく、このままいけば押し切れると判断したのだろう。

 でもそれは間違っていない。


 ……なんとなく、わかる。

 俺の方が、もう限界を迎えようとしている。

 疲れた、と倒れる限界ではなく、意識を失いそうな限界を。


 心のどこかでは、もうやめたい。やめようという思いがない訳ではない。

 実際、もう疲れた。休む! と大の字になって倒れたい思いがある。

 本能から来る思いを押し留め、どうにか動かしていく。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 自分の呼吸がうるさい事に、今になって気付く。

 体を動かせば汗が飛ぶが、拭う余裕すらない。

 もう次の瞬間には、かくん、と足から崩れて倒れてしまいそうだ。


 と思ったら、視界に映ったのは地面。

 どうやらその限界が来たようだ。

 いつの間にか倒れていたらしい。


「どうやら、ここが限界のようだな」


 どうにか視線を上げれば、邪神が勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 普通にムカついたので、俺もお返しとばかりに笑みを浮かべる。

 もうそれぐらいしか出来ない。

 本当に、ちょっと体を動かすだけでも無理だ。


 俺の頭上を飛び越えて、魔法と矢が邪神に向けて飛来する。

 その数が先ほどよりも増えていたのは、俺の様子に気付き、どうにかしようという意思の表れだろう。

 もしかすると、こちらに向かっているのかもしれない。

 遠隔ASも邪神に向けて妨害を始める。


 でも、その前に邪神が動く。

 魔法と矢をすべて相殺し、遠隔ASも払い除けて、俺に向けて手のひらを向けた。


「ここまで手を焼かせられた礼に、一瞬で葬ってやろう。それこそ、この世界に居たという証の欠片すら残さないように、その体を念入りに焼き尽くしてやる」


 邪神から魔法が放たれる。

 視界が閃光の輝きに満たされた。

 さすがにこれは、避けようがない。

 だって、体動かないし。


 これで終わ――。


(我慢してください!)


 大魔王ララの言葉が聞こえると同時に、腹部に痛みが走る。

 遠隔ASが俺の体を押し出すように体当たりしてきたようだ。

 でもそれで、邪神の放った魔法を回避出来た。


 遠隔ASはそのまま俺を押して、邪神から距離を取らせる。


「無駄な足掻きを」


 追撃のために、邪神がこちらに手のひらを向ける。

 しかも両手。

 多分、広範囲にする事で、遠隔ASごと俺を焼き尽くすつもりなんだろう。


 けれど、この行動が結果を分けた。

 俺は……俺たちは間に合ったのだ。


 邪神が魔法を放つ直前、その身に巨大な物体が襲いかかる。

 それは全身骨で構成されている存在――ドラーグさんだった。

 尻尾を上から振り下ろし、邪神を叩き付ける。

 邪神は魔法をキャンセルして、咄嗟に防ぐが耐え切れないというように地面が陥没して、周囲に向けてヒビが走った。


「また邪魔が入るのか! 一体どうなっている!」


 邪神が苛立ちを露わにした。

 漸く俺を殺せると思ったところで、これである。

 そりゃ苛立つだろうし、疲労があるからこそ、それは尚の事だろう。


 邪魔が入るのは、お前がそういう存在だから、と言ってやりたい。


 ドラーグさんはそのまま邪神とやり合い始める。

 その動きは、どこか動きを封じるというか、押さえつけるようなモノだった。

 もちろん邪神も抵抗するが、それは少し上手くいっていない。


 大魔王城での戦いでは、力の差が確かにあった。

 でも今は相当疲労しているし、何より、ドラーグさんはそれほど消耗していない。

 両者にあった力の差は消え去っていると判断出来るくらい、今は拮抗していた。


 これで邪神は、更に追い込まれる事だろう。

 それに、ドラーグさんがここに来たという事は――。


「待たせたね。明道」


 遠隔ASに運ばれた先で、詩夕たちが待ち構えていた。

 一声かけたいが、声を出すのも一苦労である。

 今は遠隔ASに押された痛みで起きているけど、それがなければ意識を失いそうだ。


「無理に喋らなくても良いよ。それより、明道の事だから何かしらの意図があるからこそだと思うけど、本当に封印で良いんだよね?」


 詩夕がそう尋ねてくる。

 伝わっていると思っていたけど、いざそれがわかると嬉しいものだ。

 封印で間違いない、と頷く。


「わかった。なら、あとは任せて。必ず封印してみせるから」


 そう言って、詩夕たちが行動を開始する。

 いや、ここにポツンと置いておかれても困るんだけど。

 ロイルさん! ロイルさーん! 回収をお願いします!


 そう願ってもロイルさんによる回収は来なかった。

 その代わり――。


「よく耐えたな」


 それだけ言って、シャインさんが俺の傍を陣取った。

 ……周囲の魔物たちから守ってくれるって事かな?

 シャインさんも疲れているだろうに……助かります。

 まぁ、シャインさんなら、疲れていても魔物程度なら問題なく倒せるだろう。


 それに、シャインさんが居るという事で、グロリアさんもこちらに来る。


「お母様! 無事で!」

「ああ、私の事は良いから、さっさと援護を続けろ。ここでアレに押し切られるとムカつく」

「わかっています」


 グロリアさんが邪神に向けて矢を放つ。

 大人エイトも俺のところへ。


「ご主人様、安心してください。たとえこのままご主人様が倒れたままでも、エイトがすべてのお世話をしますので」

「いや、普通に休めば起きれるから。それより、援護を」

「かしこまりました」


 大人エイトも援護を始める。

 そして、漸くここまで……この状況まで持ってこれた事に安堵感を抱きつつ、詩夕たちが封印する様子を眺める。

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― 新着の感想 ―
[良い点] よく耐えたぞ明道ぃ!!
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