同レベル帯だからこそ、てある
迫るインジャオさんの大剣を手の甲で弾き、そのまま蹴り飛ばす。
軸足を狙ってカノートさんが槍を払うが、邪神は片足だけで飛び上がってかわし、払い途中の槍を掴み、膂力だけでカノートさんごと持ち上げて叩き付ける。
もう一度、と行う前に、そこに大人エイトの魔法が迫った。
大人エイトの魔法は変わらず超高威力のようで、邪神は無視出来ずに相殺のための魔法を放つ。
その際の隙を突いて、カノートさんは槍をぐるっと回して掴んでいる邪神の手を弾き、逃れて一旦距離を取った。
「ちっ」
邪神の舌打ちが漏れる。
というのも、邪神の肩に、先ほどカノートさんが傷を負わせたところに炎の矢が刺さっていた。
大人エイトの魔法の中に紛れて、グロリアさんが射っていたようだ。
さすがの邪神でも同じ箇所に傷を負うのは嫌だったのだろう。
だから面倒そうな表情を浮かべ、グロリアさんを見る。
グロリアさんは笑みを浮かべていた。
正確無比な射撃による確実な追撃。
グロリアさんが来てくれた事で、邪神に対して少しずつかもしれないが、確実にダメージを与えられるようになった。
シャインさんとは別の意味で怖い相手である。
邪神は刺さった炎の矢を抜き、なんの意味もないと挑発するように、グロリアさんに向けて指だけでパキッと折ってみせた。
グロリアさんは涼しい笑顔で弓矢を構える。
インジャオさんとカノートさんが、なんでもないように邪神に向けて襲いかかった。
再び戦闘が始まる。
今は邪神に対して、インジャオさんカノートさんの前衛が二人に、大人エイトとグロリアさんの後衛が二人と、バランスの良い配置だった。
けれど、纏う魔力量を上げた邪神は、四人を同時に相手取りながらも、対等以上に戦ってみせている。
何より、纏う魔力量が増えてからは、これまで回避していたインジャオさんの光り輝く大剣も受けとめるようになり、カノートさんの槍も速さにも付いていけているようになっていて、より反撃に移りやすくなっていた。
それでも、邪神の攻撃に対しては上手く対応出来ていると思う。
インジャオさんとカノートさんの連携が上手いだけではなく、大人エイトとグロリアさんの援護が絶妙なのだ。
詩夕たちの息の合い具合を彷彿とさせる連携レベルである。
共に戦う機会なんてこれまでなかったと思うのに、いきなりこのレベルで息を合わせて戦えるのは、普通にすごいと思う。
強者は強者を知るとか、互いに強いからこそ相手がどう動くのかがわかるとか、そんな感じだ。
｟確かに、この状態を維持出来るのであれば、邪神の消耗はますます激しくなり、より疲労を促せます。まぁ、息の合い具合で言えば、マスターと私の方が上ですが｠
（そうですね……今は）
｟……何やら含みのある言い方でしたが？｠
（そうですか？ ですが、未来は確定していませんから）
｟私の場合は確定しています。いえ、そうなるのです｠
（そうですね……ふふふ……）
｟フフフ……｠
セミナスさんと大魔王ララの方が、息が合っていると思う。
というか、ちょっと待って。
維持出来るのであればって、維持出来ない可能性があるの？
｟残念ですが、『勇者』スキルもなく、『神器』もない状態での邪神との戦闘となると、対抗出来る手段は非常に限られており、そのどれもが常に大きく消耗していってしまうようなモノです｠
インジャオさんの光り輝く大剣とか、カノートさんの槍とか、グロリアさんの魔法の矢とか？
｟はい。そのどれでもが大きく消耗します。吸血鬼たちの状態変化も同様です。また、それだけでなく、マスターたち同様に連戦中でしたので、元々ある程度は消耗した状態であったため、おそらく長く維持出来ません。実際、数値化して全快時と比べた場合、その能力は大きく落ちています｠
そうなんだ。
となると、本当にヤバい。
戦闘を見ると、どう考えてもこちら側の方が、疲れが早く出てきそうだ。
そう思った瞬間、邪神の蹴りがカノートさんにまともに入る。
いや、間に槍の柄を挟み込んでいるけど、それでもその衝撃を受け流す事は出来ずに蹴り飛ばされていく。
途中で槍を地に刺すがそれでもとまらず、数ｍ削ってから漸くとまった。
「………………」
ぷっ！ と血を固まりで吐き、カノートさんは再度槍を構えて突撃する。
その間にインジャオさんも大剣ごと殴られ、耐えきれなかったという感じで数歩下がってしまう。
前衛が離れた隙に、邪神は後衛に向けて視界を埋め尽くすような魔法の弾幕を放つ。
大人エイトとグロリアさんが相殺していくが、邪神は第二弾、第三弾と前衛が来る前に立て続けに連射してきた。
大人エイトは広範囲の魔法に切り替えてどうにか対処出来たが、グロリアさんの方は手数が足らなくなって、何発か食らってしまう。
なんというか、これだけあれば足らないだろう、という数を放ってきたような感じだ。
グロリアさんもそれがわかっているようで、悔しそうな表情を浮かべつつ、これぐらい大した事はないと直ぐにまた弓矢を構える。
再び始まる戦闘だが……確かに、このままだといずれ邪神に押し切られる。
押し切られたら……こちらの全滅まっしぐらだ。
つまり、もっと戦力を追加し続けないといけない訳だけど……追加、出来る？
｟問題ありません。状況的に考えて、そろそろ……来ました｠
何が？ と思った時、陽光を遮るようにして、人が一人降ってくる。
「はははははっ！ 何やら面白そうな！ 叩き甲斐のありそうなヤツが居るな！」
その人は邪神に向けて降ってきて、勢いそのままに手に持っていた棍棒を振り下ろす。
邪神はその棍棒を受けとめるが、衝撃を完全に受け流す事は出来ず、地面に少し陥没し、ビシリとヒビが走る。
その人の力の強さを物語るような光景だった。
というより、その力で邪神に叩き付けたのに、折れない棍棒って……どれだけ超硬質なんだよ、と言いたくなる。
まぁ、それぐらいじゃないと、その人――シュラさんの力には耐えられないんだろう。
「何やら貴様からは邪悪な気配がするなっ！」
更に、周囲の魔物たちの中から飛び出すようにして現れたのは、ウルトランさん。
その速度は誰よりも速く、現れたと思ったらほぼ瞬間的に邪神との距離を詰め、シュラさんの棍棒を受けとめて動きがとまっていたところを蹴り飛ばした。
