わかる事だと言いたくなるよね
グロリアさんとカノートさんの姿を見た時、間に合った……と思った。
「ここに居ると合図のような火球が上がったから来てみたけど、本当に合図だったようね」
「良くない雰囲気を発している彼が敵、かな?」
グロリアさんとカノートさんが俺のところに来て、そう言ってくる。
「はい。あれが諸悪の根源です……が、本当に強く」
「みたいだね」
カノートさんが邪神と戦っているインジャオさん、それとアドルさんたちの方を一瞥して納得する。
そのまま、二人は俺の傍で準備運動のような動きを始めた。
そうする必要がある、という風に。
「それで、彼女は味方?」
そのまま大人エイトについて尋ねてきた。
「色々あって、エイトが成長した姿です」
「は? ……はははっ! 本当に色々あったんだね。……ここにツネミズたちが居ないのは、もう?」
「いえ、誰も死んでいません。ただ、限界を超えてまで動いた結果、しばらく動けないため、今は上で体力の回復を図っています」
「そう……それだけの相手って事ね、あれは」
カノートさんがどこかホッとしているように見えたのは、きっと見間違いじゃない。
詩夕たちが無事だとわかったからだろう。
グロリアさんもその流れで尋ねてくる。
「それなら、私も一つ。イツキさまが無事なのはわかりましたが、母は?」
「結構なダメージを受けてしまっているけど、無事だよ。詩夕たちと一緒に休んでもらってる」
「そうですか。無事ならそれで……ですが、あれは母に対してそれだけの事が出来る相手という事ですか……」
グロリアさんとカノートさんの視線が、邪神に向けられる。
その表情は、どちらも笑みだった。
「それは、倒し甲斐のある相手ですね」
「倒したら、さぞかし自慢出来るね、これは」
グロリアさんが弓矢を構え、カノートさんが槍を構えながら駆け出す。
カノートさんの動きに合わせて、大人エイトが魔法を放つ。
「まだ出てくるのか。楽しませてくれる」
そう言いながら、邪神は少し煩わしそうだった。
というのも、大人エイトの魔法は同じように魔法で相殺していくが、カノートさんの槍はそうもいかない。
「なるほど。こいつもそれなりという訳か」
「それなり? いつまでそう言えるか楽しみですね」
カノートさんの連続突きを、邪神が魔力を纏った手で払うようにかわしていくが、そこにインジャオさんの大剣が加わり、邪神は大きく避けていく。
インジャオさんの光り輝く大剣をかなり意識しているのがわかる。
多分、纏った魔力ごと体を斬り裂けるだけの切れ味が、あの大剣にはあるんだろう。
カノートさんも即座にその事に気付き、行動を変える。
「あぁ、そういう相手ですか。では、私もそういう対応をさせていただきます。『その払いは風塵の如く その突きは雷鳴の如く その槍は神の如く 風雷神槍』」
カノートさんが詠唱を唱え終わると同時に、持っていた槍が風を纏い、雷を発し始める。
もしかして、カノートさんが言っていた特別な槍って、今持っているヤツの事だろうか。
「受けとめない事をオススメします」
カノートさんがわざわざそう言って、槍を突く。
瞬きをした訳ではないのに、目に映ったのは結果だけだった。
突いたと思った次の瞬間には、槍は邪神の顔の横にあり、邪神の肩から鮮血が舞う。
多分、邪神は避けたんだろうけど、かすった、という感じかな?
⦅その通りです⦆
(良い突きでした)
俺が見逃しても、ここに居る二人は見逃さない。
邪神が笑みを浮かべ、纏っている魔力の濃度が上昇する。
それに合わせたかのように、肩の傷が瞬時に治った。
「……訂正しよう。我の体に傷を付けた事を誉れとして、死んでいけ」
邪神が直ぐさま攻勢に移る。
インジャオさんだけではなく、カノートさんを交えても対等に戦い始めた。
……というか、え? あれ? 瞬時に傷が治ったけど、「神器」による回復遅延効果が切れた?
⦅いえ、纏う魔力量を上げた事で身体を活性化し、無理矢理治したのでしょう⦆
そんな事まで出来るのか。
(ですが、これは良い傾向です。確かにあの槍の鋭さは神槍の名に相応しいですが、万全の状態の邪神であれば、それでも通じてはいません。かすり傷であったとはいえ、傷は傷。その分の消耗はありますし、魔力量を増やしたという事も魔力の枯渇に繋がります)
つまり、もし封印するのなら、その基準は――。
⦅魔力が枯渇した時です⦆
(魔力を使い切ってしまえば可能かと)
⦅……先ほどもそうですが、私がマスターの疑問に答えているのですが?⦆
(わかる者が答えれば良いだけでは?)
⦅それだと、私にわからない事がある、という風に聞こえますが?⦆
(あるのですか? わからない事が?)
⦅ありませんが!⦆
邪神との戦い以上にバチバチしないで欲しいものだ。
それにしても、ここでカノートさんが来てくれたのは大きい。
何より、邪神に休む暇がなくなったという事だ。
ただ、纏う魔力量が多くなったからか、邪神の動きが更に激しくなった。
インジャオさんとカノートさんの二人がかりでも防戦一方に追い込まれてしまう。
大人エイトが援護の魔法を放つが、状況は好転しない。
このままだと先に追い込まれるのはインジャオさんとカノートさんの方だが、そうはならない。
邪神の放たれる拳をインジャオさんとカノートさんはそれぞれ武器を盾のようにして防ぐが、その衝撃は強く、体が少し浮く。
そこを狙って、邪神がしゃがみ込んで回し蹴る。
二人は足を払われ転倒し、邪神がそこを狙う。
「さぁ、これで終わ、ちっ!」
襲いかかろうとして、飛び退く。
邪神が居た場所に、ストトトト……と、次々に矢が飛来して地に刺さっていく。
ただし、それはどれもが普通の矢ではない。
火で形成されていたり、氷で出来ていたり、風を発生させていたりと、様々な種類が存在していた。
インジャオさんとカノートさんが立ち上がる中、邪神は矢が飛来した方に視線を向ける。
「随分と器用な真似をする。通常矢ではなく、魔力矢を選択するあたりも状況判断は中々、といったところか。……ただそこに居るだけなら見逃してやってもよかったが、こうして手を出してきた以上、殺してあげよう」
「やれるものなら、やってみせて欲しいわね」
弓矢を構えたグロリアさんが、笑みを浮かべて答える。




