絶対はない……よね?
⦅マ、マスター。現在、邪神に対して確定した未来が見えない私が言うのもなんですが、たとえすべてが上手くいったとしても、計算上で言えば、邪神をそう長くは封印出来ません。おそらく、どこかの誰かのように封印を破る術を新たに身に付けるでしょうし、何よりその間に完全回復する可能性が大いにあります⦆
(私も先輩と同意見です。どのような犠牲を払おうとも、疲弊している今の内に倒すべきです。あれは、そういう存在です)
言いたい事はわかる。
俺もそう思うし。
でも、そうじゃないというか、今ここで、この場において、邪神を完全に倒すためには、封印しないといけない。
⦅何か考えがあるのですね。……わかりました⦆
(先輩!)
⦅マスターには確信があるようです。そうする事で邪神を倒せると。なら、私はその補佐をするだけです⦆
えっと……俺の考えを説明した方が良い?
⦅いえ、大丈夫です。それに、説明する事でその未来が実現不可能となる場合もあります⦆
セミナスさんが見た未来を言わない理由の一つだね?
⦅はい。ですので、封印が完了するまで詳細はマスターの胸に秘めておくのが良いかと⦆
わかった。
セミナスさんがそう言うのなら、そうなんだろう。
(むぅ。何やら絆を感じるやり取りで、除け者にされたようで少々心がざわつきますね)
⦅あなたにわかりますか? これが、『愛』です⦆
いや、違うと思うんだけど。
どちらかといえばというか、「信頼」の方じゃないかな?
(まぁ、先輩ですしね。先に出会っていた以上、それは仕方ありません。これから挽回して、追い抜けば良いだけです)
⦅はっ! 追い抜けるとでも?⦆
(世の中に絶対は存在しませんよ、先輩。どれだけ可能性として低くとも、0%でない限りは起こり得るのです)
⦅絶対は存在します。私が導き出す未来です⦆
とりあえず、なんだかんだと補佐はしてくれるだろうし、俺の考え通りに動こう。
ただ、やるべき事は多い。
邪神を更に疲労させないといけないし、詩夕たちが封印を行えるくらい回復するのを待たないといけない。
つまり、邪神を疲労させながら戦いつつ、ある程度時間を稼ぐ必要がある、と。
………………。
………………。
無理じゃない?
シャインさんが居れば……まだ、どうにか出来たかもしれない。
でも、俺と大人エイトだけだと、単純に手が足りない。
防戦しか出来ない俺では、たとえば邪神が大人エイトに迫ろうとしても完全にはとめられないのだ。
「さて、それでは、残るお前たちが我に対してどう対処するのか……見せてもらおうか」
邪神がこちらに迫って来る。
「エイト! 俺がなんとか押さえつけるから、邪神から常に距離を取れ! エイトまでやられると、手に負えなくなる!」
「攻撃、援護はお任せを。……お気を付けて」
大人エイトが俺から距離を取るのを背後で感じつつ――。
⦅うしろに下がってはいけません。下手に下がればそのままやられると思ってください⦆
俺は逆に前へ出る。
「自ら殺られに前に出るとは、良い心がけだな」
「はっ! 殺れるもんなら殺ってみろよ! そう簡単に殺れると思うなよ!」
今は俺に注目を集めないといけないので、そう言い返す。
大人エイトまでやられると、本当に手出しが出来なくなる。
だからこそ、邪神の狙いは俺に向けさせないといけない。
邪神が笑みを浮かべながら、動く方の腕の拳を振り上げる。
一撃でもまともに食らっちゃいけない。
ASは頑丈だけど、俺まで頑丈という訳じゃないのだ。
当たったら痛いだけでは済まないだろう。
⦅攻撃予測角度計測、完了。AS先端角度を3度倒してください。それで完全に流せます⦆
というか、俺も戦線離脱する訳にはいかない。
だからこそ、だろうか。
これまで以上に集中しているからこそ、セミナスさんの細かい指示に瞬時に対応出来て、邪神の動きにも対応出来た。
無慈悲に振るわれる拳を、ASで上手く逸らしていく。
邪神の腕までASの表面を滑っていくが、そこで一気に重くなる。
腕に力を込めて重みというか、圧力をかけて押し潰そうとしているようだ。
⦅攻撃手段予測、完了。そのまま体をずらしてもらって問題ありません。ただ、発生する衝撃波で跳ばされますので注意を⦆
純粋な力じゃどうしようもないので、体ごと範囲からずらして受け流す。
邪神がそのまま床に腕を打ち付けると、大きな衝撃が俺の体を打ち付け、少しだけ吹き飛ぶ。
どれだけの威力を込めているんだよ、と文句を言いたい。
下手をすれば、そのまま人を押し潰せそうな……いや、考えないようにようにしよう。
とりあえず、セミナスさんの注意があったので、そのまま流され続ける事なく、途中で踏ん張る事は出来た。
床が破損した事で巻き起こる煙が邪神の身を隠し、そこにエイトの魔法がいくつも飛来。
⦅弾き飛んできますので、よく見て対応を⦆
当たると思った瞬間、煙の中から同じ魔法が俺に向かって飛来。
俺に向けて弾いてきた。
AS、遠隔ASフル稼働で防ぐ。
同時に、邪神が煙の中から飛び出してくる。
そのまま振るわれる攻撃を防ぎつつ、口を開く。
少しでも、意識が散漫になれば、と。
「一気に攻め過ぎじゃない?」
「相手が少なくなれば、構う時間が増えるのは当然ではないか?」
確かに。
「我の相手をお前がしないのなら、別にあちらに行っても構わんぞ。お前もそうだが、あれも放置しておくのは……危険な感じだな」
エイトの方に行かれては困る。
ただ、この状況を続けても……長くはもたない。
時間も稼げない内に、こちらが崩れるか、一気に押し切られて終わるだろう。
となると……。
⦅他から協力を得るしかありません。ただ⦆
ほんと、迷惑かけちゃうな、色々と。
ただ、取るべき行動を決めれば、迷う暇はない。
即座に行動に移る。
邪神からの攻撃を受け流しつつ、少しずつ移動していく。
押して駄目なら引いてみな……てか。
「何か企んでいるな」
「当たり前だろ」
別に隠しても仕方ない。
というか、この状況で何も企まないとか、無理でしょ。
そうして移動を繰り返し、目的の場所――謁見の間だった場所を出て通路まで辿り着く。
邪神からの攻撃を受け流し、動かない方の腕を掴んで、体ごと引っ張る。
俺の体重をかけても、普通は微動だにしないだろう。
ただ、そこに遠隔ASが加われば別。
邪神の重心をずらすように当たっていき、そこでバランスを崩した邪神に体当たりをかまして、そのまま邪神ごと大魔王城の外に飛び出して、地上に向けて落下していく。




