やってみれば、案外出来る事もある
邪神が発している魔力がより禍々しくなったのは……これがどういう事かは考えなくてもわかる。
要は、邪神もこれから決めに来る……俺たちを仕留めに来るという事だ。
これまでとは違うという危機感が芽生え、グッと集中していく。
「さぁ、好きなだけ抵抗しろ。その方が、我も面白い」
邪神の溢れ出ている魔力が、腕と脚に巻き付いていく。
グッと力を溜めるような姿勢を邪神が取ったかと思うと、瞬間的に邪神の姿が消える。
いや、見えなかった。
「ちぃっ!」
シャインさんの呟きが聞こえたのでそちらに視線を向けると、邪神の拳を両手で受けとめていた状態だった。
今、動きが追えなかった?
⦅魔力を部分的に集中して纏う事で、一時的に強化しているのでしょう。ただ、その分、消耗も激しいでしょうが……それでも、こちらを殺れると判断したと思われます⦆
(元々の身体性能が飛躍的に向上していますので、見て判断ではなく、予測して動かないと危険かもしれません)
⦅また私の言葉を……⦆
邪神の攻勢を、シャインさんが防戦一方で受けていく。
シャインさんでも反撃の隙がなく、手が出せないほどの攻勢だった。
というか、シャインさんが受けとめているから、かろうじて邪神の動きの結果が見えているけど、それがいざ自分に出来るかと考えると……ちょっと無理っぽい気がする。
⦅大丈夫です。いざ、その時になってみればマスターにも出来ます⦆
(最初から駄目だと思ってはいけません。いざやってみれば、案外出来る……という事もあります。やってみましょう)
そう軽い感じで言われても。
ほんと、こういう時は息が合うみたいだ。
見ている訳にもいかないので、俺も駆け出す。
俺の反応を見て、邪神がシャインさんだけではなく、こちらにも手を出してきた。
元々防戦しか出来ない以上、受けていくが……きつい。
シャインさんにも攻撃を放っているのに、それでも俺に攻撃を仕掛けてくる。
その質は先ほどと比較にならない。
威力、速度が先ほどまでとは段違いだ。
かろうじて受けとめる事が出来ているのは、シャインさんにも攻撃しているからだろう。
何より、邪神の攻撃を防ぐ事だけに全力を出さなければならず、シャインさんに向けられた攻撃を防いで、攻撃の機会を生み出す事が出来ない。
邪神の猛攻で、俺とシャインさんは完全に防ぐ事しか出来なくなる。
それに、ただ防いでいくだけで、こちらの消耗がかなり激しい。
邪神よりも先に疲労し切ってしまうのは、こちらだと思う。
ただ、こちらにはまだ大人エイトが居る。
状況を咄嗟に判断して、大人エイトが魔法を連発。
邪神の今の動きに即座に合わせての魔法は、さすがとしか言えない。
「上手く合わせてきたようだが、その分、威力が足りないな!」
邪神が俺とシャインさんに攻撃を放ち続けつつ、大口を開けて、そこから光線を放つ。
首を振り、その動きに合わせて光線も薙ぎ払うような軌跡を描いて、大人エイトの放った魔法をすべて撃ち払い、空中に大爆発が起こる。
大人エイトが再度魔法を放とうとするが、その前に邪神が動く。
邪神の蹴りが俺に向かって放たれ、ASでギリギリ受けとめるが、邪神はそれで俺を蹴り飛ばそうとせず、そのまま押すようにして俺の位置をずらしてから、思いっきり蹴り抜いた。
衝撃で吹き飛ばされる。
このままだとここから落ちるだけの威力だったが、途中で大人エイトに支えられてとまった。
というより、大人エイトが居る方に蹴り飛ばしたっぽい。
落とせたかもしれないのに、わざわざどうして? と思うが、狙いは直ぐにわかった。
視線を向ければ、笑みを浮かべた邪神の拳がシャインさんの腹部にめり込んでいて、シャインさんが吐血している。
「ぐっ」
「まずはお前からだ」
邪神はそのまま乱舞のようにシャインさんに何発も叩き込む。
「こ、のっ! 調子に乗るな! ただやられるとでも!」
叩き込まれながらも、シャインさんは意地でもやり返すとアッパーカットのように拳を放ち、邪神の片腕にクリーンヒット。
邪神の表情が一瞬だけ歪む。
「……よくやった、と褒めてやろう」
邪神がシャインさんを蹴り飛ばす。
シャインさんは落ちてなるものかと床に爪を立てるが、床を削りながら飛んでいき……どうにかこうにか落ちる前にとまり、ベシャリとその場に倒れる。
「ぐっ……うぅ……」
シャインさんは起き上がろうとするが、起き上がれない。
受けたダメージが大き過ぎて、動けないといった感じだ。
「今ので生きているとは、耐久力を読み誤ったか? しかし、しばらくは戦闘を行えまい。また一人、脱落だな」
邪神がこちらを向く。
あとはお前たちだけだと言いたそうだ。
ただし、その片腕、シャインさんの拳が当たった方は、だらりと下げられていた。
「こちらが気になるようだな。死ぬ気の一撃というヤツだろう。いずれ回復はするが、しばらくは使い物にならない。お前たちからすれば、ある意味良い機会だな」
確かに、邪神の片腕が使えない状況は良い機会だ。
でも、その代償というか、こちらの戦力は一気に落ちた。
どうにか上回っていた状況は……多分、もう作り出せないかもしれない。
⦅現状からの対策を模索します⦆
(まだ手は残されているはずです)
だからこそ、思考をとめてはいけない。
まだ何かしらの策は………………セミナスさん。今の内に確認しておきたいんだけど、邪神の封印って出来るの?
⦅可か不かでいえば、可能です。ただし、前回の時は、おそらく……と推測になりますが⦆
(いえ、推測するまでもありません。当事者である私が言えば良いだけの事。前回は竜との戦闘、勇者と賢者の力の強さだけではなく、私も内部から邪神の抵抗を抑えたため、封印出来ました)
つまり、もしかすると封印は出来なかった可能性があったって事?
(いえ、当時の勇者と賢者の力であれば、封印自体は出来たでしょう。ですが、もっと封印されていた期間が短かったなど、その効力は実際よりも弱まっていた可能性は高いです)
なるほど。
⦅勝手に私の出番を取らないでいただけますか?⦆
(お気になさらず。きっと、私はそういう星の下に生まれたのでしょう)
⦅死なす⦆
はいはい、落ち着いて。
という事は、封印は出来ない?
⦅現状ですと、対抗しても即破られる可能性が非常に高いです。邪神の強さもありますが、封印を施せる勇者たちの力が弱まっているのが特に問題です⦆
……つまり、封印しようと思うなら、詩夕たちの力が少しでも回復するように時間を稼ぎつつ、その間に邪神をもっと弱らせないといけないって事?
⦅はい⦆
(はい)
……そっか。
……まぁ、色々と仕方ないよね。
多分、これが今取れる最善の道。
うん。俺に考えがある。
封印でいこう。




