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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十四章 大魔王
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何が標準かは人それぞれ

「……さて、次はお前たちだな」


 邪神がこちらに視線を向ける。

 その視線に対応するように、シャインさんは身を起こし、軽く準備運動を始め出す。

 エイトも準備運動をしているが、必要あるのだろうか?


 とりあえず、邪神に対して気になった事を尋ねる。


「何故、わざわざ生かした?」


 多分、殺そうと思えば殺していたと思う。

 でも、邪神は詩夕たちに対してしばらく動けないくらいのダメージを与えはしたけど、それだけ。

 とどめまでは刺していない。


 まぁ、刺そうとする様子が見えた瞬間に飛び出そうとしていたけど。


「決まっているだろう? 勇者たちには頑張った褒美として、絶望を与えようと思ったからだ。託されたのだろう? 我を倒すという願いを。それは叶わぬ願いだと、お前たちを先に殺す事で教えてあげようと思った、我からの褒美だ。お前たちが殺され、他にも願いを託す者が居るのならそれも殺し、絶望しきったところで勇者たちを殺してあげよう」


 嫌な感じだ。まったく。

 うぇ~、と舌を出していると、シャインさんが邪神に向けて口を開く。


「はっ! なら、お前にはそれが叶わぬ事だという事を、その身をもって教えてやる! お前の死という形でな!」


 シャインさんがやる気を滾らせるように、拳と拳を打ち付ける。

 ほんと、頼もしい。


 ただ、たった一つの、それで絶対の問題として、こっちがやれるかどうかだ。

 詩夕たち、それとドラーグさんの抜けた状態は、正直痛い。

 戦力低下は……それこそ大きな戦力低下となっているのは間違いない。


 確かに、全快とまではいかないけど、体力はある程度回復した。

 それでもやる……やらなければいけない以上、これまでよりも厳しい戦いになるのは確実。

 入念に準備運動をしつつ、邪神の様子を窺う。


 邪神は体の調子を確かめるように軽く動いている。

 多分、わかっているのだ。

 次、動き出したら、もうどちらかがとまるまでとまらない、と。


 そのために、互いに体の調子を上げていく。


 ただ、邪神には少なからず疲れが見える。

 詩夕たちとやり合って相当消耗したのかもしれない。

 まぁ、だからといって、力の差が埋まった訳では――。


(なるほど。勝機が見えました)


 え?


⦅え?⦆


 俺とセミナスさんが驚く。

 というか、セミナスさんも驚くの?


⦅はい。聞いていませんので。……本当に見えたのですか? あなたにそのような能力スキルはないでしょうし、錯覚なのでは?⦆

(お疑いですか? 確かに、私に未来を知る、予見するような能力スキルはありません。ですが、それに近い事が出来るだけの演算能力はあると自負しています。それこそ、先輩と比べても遜色ない程度には)

⦅ほぅ……良いでしょう。私に対する挑戦と受け取ります。その自信プライドを粉々に砕いてあげましょう⦆


 はいはい。即ケンカしない。

 それに、今は少しでも勝率が上がるのなら、どんな情報だって欲しい。


 大魔王ララ。教えてくれる?


(もちろんです。私はどこかの先輩と違って、情報を秘匿するような事はしませんので)

⦅はっ! 浅はかですね。私は得た情報をただ与えるのではなく、取捨選択する事で、より良い未来に繋がるようにしているのです。情報は確かに重要ですが、得た事で意識がそちらに向いてしまい、思考が引っ張られる、もしくは誘導されてよくない結果に繋がる事がある場合を理解しなさい⦆


 だから、どうしてこうも同族嫌悪なのか。


⦅同族ではありません⦆

(同族ではありません)


 息はぴったりだよね。

 それで、大魔王ララの情報は何?


(はい。現在、邪神の息が少し乱れている、つまり、疲れを感じているという事です)


 ……それが?


⦅なるほど。そういう事ですか⦆


 どうやら、セミナスさんはピンときているようだ。

 どういう事ですか?


⦅いえ、普通はわからなくて当然の情報ですが、本来、神、神々は肉体を持ちません。それは世界への直接干渉を行わない決まりがあったために⦆


 ……え? いやいや。

 この世界の神様たちは、思いっきり干渉しているけど?


⦅はい。その決まりは既に撤廃されています。原因はもちろん邪神。遠い過去、邪神が世界を滅ぼそうとした事は話しましたが、それをとめるために直接干渉する必要があったのです。というのも⦆


 邪神も今のように肉体を、受肉していたから。


⦅はい。それが今に続いている訳ですが、それはまあ、そういうモノだという話で良いでしょう。俗世に塗れる神々が多かっただけの話。重要なのは、その時に受肉した邪神の肉体は滅び、そこから長い時を残滓、もしくは精神体、あるいは魂とでもいうべき状態でいた事です⦆


 ……つまり?


⦅世界に干渉し、存分に力を振るうためには肉体が必要。しかし、肉体を持つという事は、同時にある一つの、逃れられない制約も付きまとうのです⦆


 それは?


(『限界』があるという事です)

⦅あっ! 私が上手く締めようとしていたのに! 何を取っているのですか!⦆

(元々話し始めて、取られたのは私です)

⦅ぐぬぬ……⦆

(ふぬぬ……)


 ほんと、この二人は……。

 でも、要約すると、邪神は受肉した事で本来ない限界……この場合は肉体的限界まで得てしまって、詩夕たちとの戦いよって今疲労を感じている、という事?


⦅その理解で合っています⦆

(付け加えるならば、元々その体はリガジーのモノだという事。リガジーは隠していましたが、ここで戦い始めた時は全快していません。その状態で動き続けていたのですから、普段よりもより多く消耗していたのは事実。それに加えて邪神が更に動いたのですから、体自体の溜まりに溜まった疲労が表に出てきても不思議ではありません)


 なるほど。

 体力が尽きれば、邪神もこれまで通りの動きはさすがに出来ない。

 動こうと思っても、肉体がそれに応えられない。


 本当に僅かだけど、勝機はあるという事か。

 あとは、邪神の体力が尽きるまで戦い続けられるかどうかだけど……。


⦅指示はお任せください。どこぞの誰かより、より正確な指示が可能です⦆

(もしかして、私に言っていますか? 先輩と同等の演算能力がありますし、私にも同質の指示が出来ると思いますが?)


 もうこの二人は言い合うのが標準だな、きっと。


 そうこうしている内に準備運動は終わり、邪神との最後の戦いが始まる。

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