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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十四章 大魔王
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これで終わりじゃなくて次へ

 樹さんが、突然がくりと片膝をついたが、次の瞬間には超高速戦闘に交じっていた。

 ……見間違いだろうか?

 それとも、何かに躓いた、とか?


⦅本当にそう思いますか?⦆


 セミナスさんがそう言うって事は、やっぱり……疲れが出ている?


⦅間違いありません。特にあの者は前衛の中でも他の三人を補佐しつつ、自らも攻め込んでいますので、勇者たちの中でも運動量が他よりも多いのです。そのため、最初に疲労を実感したのでしょう⦆


 今は平気そうに邪神に拳を食らわしているけど?


⦅それは仕方ありません。今どうにか勇者たちだけで均衡、もしくは状況的に押していますが、それは全員が揃っているからこそ。個人では邪神にまだ遠く及ばず、今はどうにか上回っている状況。つまり、そこで一人でも抜けてしまうと⦆


 押している状況が反転して、逆に押し込まれる、か。

 なら、そこの穴を埋めるために俺たちも手助けを、と思うが、今の戦闘速度には付いて行けない。

 足手纏いになるのは明白。


 ただ、詩夕たちの様子を見る限り、とまるまで今の速度を維持したまま戦闘を行いそうだ。


⦅未来が見えなくても、そうする事はわかります⦆


 なら、とまる前に邪神を――。


⦅倒せそうに見えますか?⦆


 ……いや、無理だと思う。

 その証拠という訳ではないが、樹さん以外にも、苦しそうな表情を浮かべる瞬間がある。


 前衛、後衛問わず。

 前衛は超高速戦闘の激しい動きによる体力の消耗で。


 後衛に関しては二つに分かれる。

 咲穂は前衛と同じくらい動きながら矢を射っているので、体力の消耗。

 天乃と水連はぱっと見で気付かなかったが、どうやら放ち続けている魔法が高威力なだけでなく、範囲を絞るとか高等技術だそうで、魔力消費が通常よりもかなり大きい。


 という事を、セミナスさんから教えられた。


 このままいけば間違いなく邪神を倒せると思う。

 というのも、詩夕たちが邪神に付けている傷が段々と多く、深くなっているのだ。


 現に今も、樹さんの拳が邪神の腹部にまともに入り、少しだけくの字になったところに、刀璃の刀が邪神の背中をスパッと裂いて鮮血が舞う。


「ちぃっ!」


 邪神が痛みというよりは、面倒そうな表情を浮かべている。

 ここまできて、漸くわかった事があった。


 それは、「神器」の効果。

 自動手動防御バリアだけではなく、どうやら付けた傷に対して回復遅延効果があるようだ。


 これまでは付けられる傷がわずかであり、邪神の元々の高い自然回復力によってわからなかったが、付けられる傷が多く、深くなると、傷の治りが明らかに遅い事に気付く。


 邪神が面倒だと思ってそうなのは、その部分だと思う。

 ただ、それで邪神の動きがとまる訳ではない。

 やられたらやり返すと言わんばかりに、即反撃に転じていた。


 樹さんの拳が腹部に入ったが、邪神は背中を斬られながら樹さんの腕を掴んで引き寄せ、樹さんの腹部をお返しとばかりに全力で殴る。


「ぐっ」


 血反吐を吐く樹さん。

 水連が即座に回復魔法を飛ばすが、樹さんはまだ逃れられていない。

 刀璃が反転して斬りかかるが、邪神が回転蹴りを放って蹴り飛ばす。

 勢いよく飛んでいく刀璃は、急いでその先に回ってきた咲穂が受けとめる。


 邪神はそのまま樹さんに追撃の拳を放とうとするが――。


「やらせはしない!」


 そこに常水が槍を振り回しながら突っ込んできた。

 槍を高速で突いて牽制。

 邪神はそのすべてを器用に避けるが、常水の狙いはそれで倒す事ではない。


 槍をくるりと回し、遠心力も利用して、石突き部分で邪神の腕を下から叩く。

 バキリ、と何かが折れる音と同時に、邪神は樹さんを離す。

 そこに詩夕が突っ込み、剣を振るいながら通過し、邪神の脇腹部分を斬り裂く。


「ぐっ」


 邪神から苦悶の声が漏れるが、詩夕たちはそこで一旦距離を取った。

 いや、取らざるを得なかったのだ。


「……ぶふっ……はぁ……はぁ……」


 理性ではなく本能が欲したと言わんばかりに、肩を揺らしながら大きく呼吸を行い出す。

 特に、今激しい動きをした詩夕、常水、刀璃、咲穂が。


 追撃はさせないと攻撃魔法を放つ天乃と、他に負傷者は居ないだろうかと捜す水連も、僅かながら呼吸が激しい。

 目に見えて疲れているのがわかる。


「残念だ……ああ、これは本当に残念だ……」


 そう呟きながら、邪神は自らの傷を魔法で治していく。

 さすがに失った体力や血までは戻らないと思うけど、それでも傷が癒えて無事な姿を見せられると、なんとも言えなくなる。


「力の高まりは充分であった。我には遠く及ばぬとも、人数差で補うのは見事だと言っておこう。お前たちであれば、少なからず我と対等にやり合った竜ともやり合えるかもしれん。が、本当に残念だ。漸く興が乗ってきたというのに……もう動けなくなるとはな」


 邪神が自身に付いている最後の傷を治す。


「連戦に次ぐ連戦の上に、力の高まりを抑えられずに動く……その結果が今だ」


 邪神の呼吸はまだ乱れていない。

 少なくとも表面上は、だけど。

 お前たちとはまだまだ力の差があるのだ、と言わんばかりの態度だが、詩夕たちは笑みを浮かべる。


「そうだな……確かに、スタミナ切れは事実。こればっかりはどうしようもない。でも……」


 詩夕が言葉を発しながら、チラリと俺を見る。


「あとを託せるからこそ……僕たちは全力で動く事が出来るんだ」


 詩夕の笑みが勝利を確信したかのような笑みに変わり、再度邪神に襲いかかる。

 単独ではなく、全員同時で。


 最後の踏ん張りどころだとでもいうのか、詩夕たちはこれまで通りの動きを維持したまま邪神に攻撃を加えていく。

 しかし、何度かの攻防のあと、その動きは目に見えて落ちていく。


 最初に崩れたのは樹さん。

 殴りかかろうとしたところで躓いた。

 いや、既に足がガクガク震えている。


「まずはお前からだ!」


 邪神が樹さんを蹴り飛ばす。

 壁がない以上、その先は空中だ。

 詩夕たちは、誰も追いつけない。


「ドラーグさん! お願い!」

「わかっておる!」


 ドラーグさんに飛んでもらい、樹さんを捕まえてもらう。

 ただ、問題は樹さんだけではなかった。


 詩夕たちは次々とその動きが悪くなっていき、その度に邪神が殴り飛ばしたり蹴り飛ばしたり投げ飛ばしたりと、次々とリタイアしていく。

 最後に残った詩夕は、剣を掴まれ、そのまま床に何度か叩き付けたあとに放り投げられる。


 ドラーグさんが全員キャッチしてくれたので安堵したが、もう戦闘参加は出来ないだろう。

 それはドラーグさんもだ。

 スタミナ切れで動けなくなった詩夕たちを守ってもらわないといけない。


「……さて、残るはお前たちだけだな。勇者たちが託す価値があったのか、見ものだ」


 邪神が、シャインさん、エイト、俺と順に見ていく。

 大きく深呼吸をする。

 うん。俺もエイトもシャインさんも充分休めた。


 ……託された以上、やってやるさ。

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― 新着の感想 ―
[一言] さぁ、やってやろうじゃないか・・・・・・セミナスさん頼んだ!!
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