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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十四章 大魔王
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寧ろ邪魔になる時がある

 結局のところ、大魔王ララは普通のララで、大魔王として動いていたのは、邪神の意識。

 その邪神の意識が、現在魔王リガジーだったモノの正体だと言われても、現状は何も変わっていないのだ。


 倒す事に変わりなく、現状だとまだ打つ手がないという事も。

 何よりも問題はセミナスさんから打開策が出ない事だ。

 色々と先を見据えて思考を繰り返しているようだけど、まだ明確な答えは出ていない。


 それでも、セミナスさんなら勝機を見出せるはず。

 ……まぁ、その前に、邪神の方が勝機を見出しそうだけど。

 未だ、それぐらいの差があると思っている。


 けれど、事態はいつだって変化するもの。

 いや、その予兆はあった。

 少しずつその力が上昇していた詩夕たちの動きが、一気に変化する。


 先ほどまでは出来なかったような動きが可能になったというか、二次元的なモノが三次元的になったような、表現される動きの幅が一気に増す。

 目で追えていた動きが、段々と追えなくなるほどに、詩夕たちの動きが加速する。


「ふっ」


 邪神の攻撃をかいくぐり、詩夕の斬撃が邪神の体に明確な傷を残す。

 鮮血が舞い、邪神の表情に痛みによる歪みが少しだけ表れた。


 そこに追い打ちをかける常水、刀璃、樹さん。

 その動きは明らかに先ほどまでよりも速く、常水の槍が突き、刀璃の刀が裂き、樹さんの拳が何発もまともに入った。


 まともなダメージだったのか、邪神の体勢が少しだけ崩れる。

 その動きに合わせたかのように、いくつもの矢と魔法が飛来。


 攻撃に参加していなかった俺、シャインさん、ドラーグさんが咄嗟に離れるのと同時に、邪神はそれらをまともに食らって大爆発を起こす。

 これは……かなりのダメージなのでは?


 と思った――。


「いや、まだだ! 明道!」


 詩夕が咄嗟に俺の前に立ち塞がるように現れ、爆発の煙の中から現れた邪神の拳を剣で受けとめる。

 剣の前には透明のバリアのようなモノが形成され、それで受けとめていた。


「なるほど。覚醒したようだな。勇者として。そのバリアは自らの意思で出したのだろう? なら、『神器』を完全に扱えるようになった証拠だ」

「わかっているように言う!」


 詩夕がバリアをずらして邪神の拳を受け流すのと同時に剣を振るうが、邪神は直ぐさまバックステップを刻んで回避。


 邪神を取り囲む詩夕たち。

 前衛組だけではなく、後衛組もその距離を詰めている。

 危険だと思うが、詩夕たちの雰囲気は先ほどまでとは違っていて、何かしらの壁を超えたというか、安易だが只者ではない雰囲気を発していた。


⦅耐える時間の終わり。その時が訪れたのです⦆

(勇者の力の完全覚醒。それでも前勇者としては劣っていますが、それは研鑽を積んでいないだけ。原石としては前勇者を超えています。個としての力は足りずとも、それを補って余りある人数差によって、邪神を……倒せるかもしれません)


 セミナスさんと大魔王ララによる解説が入る。

 ……いけるの?


⦅可能性はあります⦆

(肯定も否定も出来ません)


 なんとも言えないが、詩夕たちを見ているだけで、俺も何か出来るんじゃないかと気持ちが向上してくるのは、なんとも不思議な気分だ。


「フフフ……待っていたぞ、お前たちが完全覚醒する時を。そうでなければ、この体の真の力を試しようがない」


 まるで、詩夕たちが勇者の力が完全覚醒するのを待っていたかのようなセリフだ。


「待っていたように言うけど、先ほどまでそんな素振りではなかったよね? やせ我慢か何かかな?」


 詩夕が珍しく挑発的な事を言うが、邪神は笑みを浮かべて受け流す。


「それは、お前たちをせっついていたようなモノだ。お前たちのような存在の中には、そうやって優しくギリギリのところを攻めないと、目覚めてくれない者も居るからな」


 だろう? と邪神は嘲るような笑みを詩夕に見せる。

 そのまま、邪神は詩夕たちに傷付けられた箇所を手でなぞっていく。

 すると、傷なんかなかったかのように癒えていく。


「そういう物言いは、勝ってからした方が良いぞ。今の俺たちには滑稽に映る」


 樹さんが挑発するように言いながら構えを取る。

 しかし、邪神は笑みを崩さない。


「フッ。滑稽なのはどちらになるのだろうな? 最後に立っているのが我なのは変わらない」

「なら、その両脚を斬り裂いて、立てなくしてあげるわ」


 刀璃が刀を構える。


「この脚は、たとえ『神器』であってもそう易々と斬れるモノではない」

「それならば、この槍で縫い付けてやろう」


 常水が槍を構える。


「やってみると良い。貫けるモノならな。もちろん、我の体に傷を付けたいと挑戦するのなら、別にとめはしないぞ」


 邪神が挑戦的な言葉を投げかけた相手は、後衛組。


「挑戦? そういう上からの物言いは飽きたわ」

「そういう態度は、あとで後悔するって知らないの?」

「……いつまでも私たちの上だと思わないで」


 天乃、咲穂、水連がそう答える。

 そして、数瞬の睨み合いが続いたあと、まず詩夕が動く。


 瞬間的に邪神との距離を詰めて剣を振るう。

 その動きを見切っていたかのように邪神は回避するが、そもそも詩夕は牽制で振るっただけ。

 邪神の回避先がわかっていたかのように、そこに樹さんの拳が放たれる。


 樹さんの乱打をすべて受けとめる邪神だが、そこに咲穂の矢が雨のように飛来。

 なのに、樹さんは邪神に乱打を放ち続けて足止めし、離れるのは直前。

 どう見ても矢に当たるタイミングだったが、樹さんは直前に「神器」のバリアを張って防ぐ。


 飛来する矢の雨に対して、邪神は強風を口から吐いて吹き飛ばすが、足をとめてしまう。

 そこに常水と刀璃が迫る。

 常水がとまった足を狙い、刀璃が頭部を狙う。


「ちぃっ」


 そこで初めて、邪神からそんな言葉が漏れた。

 詩夕たちの行動の全ての速度が、先ほどまでと違い過ぎるのだ。

 目で追うのがやっと。


 それでも、邪神は捻るようにして体を動かして回避する。

 が、まだ狙いは外されていない。

 天乃と水連による魔法の閃光が邪神に迫る。


 ドンピシャリのタイミングの上、姿勢が崩れている邪神は受けるしか出来ず、両腕をクロスして受けるが、勢いに押されて吹き飛ばされていく。

 邪神は魔法を受けとめながら直ぐに体勢を立て直し、両腕を払うようにして魔法を弾き飛ばした。


 魔法を防いだ邪神の両腕には焦げた跡があり、ぶすぶすと黒い煙が立ち昇る。

 といっても、その傷は直ぐ癒えていく。


 ……いや、速過ぎない?

 ちょっと割り込む暇がなかったというか、迂闊に割り込める速度の攻防ではなかった。

 寧ろ、割り込めば邪魔になってしまうような、そんな攻防が目の前で繰り広げられる。


 それでも、邪神は笑みを浮かべたままだった。

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