大事な事って先に言って欲しいよね
魔王リガジーだったモノが壁とかそこら辺を取っ払うような爆発を起こしてくれたので、ドラーグさんは難なく着地する事が出来た。
俺たちが下りる間も、ドラーグさんは魔王リガジーだったモノをジッと見つめる。
魔王リガジーだったモノは悠然とこちらの準備が整うのを待っていた。
まだまだ余裕であると……いや、あえて手を出さない事で、自分の方が上位だと示したいのかもしれない。
「ふむ……やはり、どこかで感じた事のある気配なのだが……お主、ワシとどこかで出会っておらんか?」
「知らんな。竜の形をした骨など、今初めて出会ったわ」
ドラーグさん……一応、今それと戦っているんだけど。
そんな気軽に聞かんでも。
しかも、魔王リガジーだったモノは知らないようだし。
「そうか……なんとなく覚えがあるのだが………………まっ、その内思い出すだろう」
ドラーグさんの中で、それで片付いた。
「という事は、ドラーグさんも手伝ってくれるの?」
「もちろん。召喚された以上は、今更だしの」
……確かに今更だ。
遮るモノはないし、大爆発音はさぞかし注目を集めただろう。
そこに骨竜が現れたのだ。
大勢が見ていた事だろう。
なので、今更。
「じゃあ、協力お願い出来ますか?」
「もちろんだとも。それに、今はまだちとキツいのではないか?」
「わかりますか?」
「発している気配が尋常ではないからの」
ドラーグさんはその気配に覚えがあるそうだけど……どういう事?
だって、ドラーグさんはかなり長い間地下で過ごしていたのに。
そこを知りたいと思うのだが、相手は待ってくれなかった。
「では、そろそろ良いかな? 準備も終わったようだし、始めようか」
いや、俺の心の準備は終わっていませんけどね?
代わりにという訳ではないだろうが、詩夕たち、エイト、シャインさん、ドラーグさんはとっくに臨戦態勢を取っていた。
……俺にも一声かけてよ。
⦅その場の空気というヤツです⦆
(その場の空気というヤツでしょう)
こういう時だけ息を合わせるのはやめよう。
今度は魔王リガジーだったモノから襲いかかってくる。
その速度は速く、瞬きしたら目の前に居たとかそんなレベルで、実際そうだった。
咄嗟にASで防ごうとするが、向こうの方が速い。
マズい。
このままだともろに顔面に食らう。
遠隔ASが迫っているのが見えたので、軌道は逸らせるはず。
なら、それに合わせて……と思ったら、魔王リガジーだったモノは強引に当てにきた。
やばっ、と思った瞬間、魔王リガジーだったモノの側面から骨が飛んでくる。
それは、ドラーグさんの尻尾部分。
そのまま魔王リガジーだったモノを弾き飛ばした……が、魔王リガジーだったモノは直ぐに踏ん張って勢いをすべて受けとめた上でとまり、ドラーグさんの尻尾の骨を掴んで背負い投げのように投げる。
投げられたドラーグさんは空中へ。
投げた姿勢の魔王リガジーだったモノに、詩夕、常水、刀璃、樹さん、シャインさんが攻勢を仕掛け、咲穂は移動しながら弓を構え、天乃と水連、エイトは詠唱を始めていた。
ドラーグさんはドラーグさんでなんでもないように空中で姿勢を正して反転し、魔王リガジーだったモノに強襲を仕掛ける。
このまま見ている訳にはいかないと、俺も駆け出す。
ドラーグさんの追加は、特に違和感なく組み合わさった。
殴り飛ばされた樹さんの先に尻尾を用意して足場にし、そのまま押し返して勢いを増させたり、骨と骨の間から常水が飛び出して突く、もしくは咲穂の矢や天乃、水連の魔法が飛び出すよう現れると、攻撃の際の補助を行う。
それだけではなく、ドラーグさんの骨の硬度は相当なようで、魔王リガジーだったモノの攻撃も受けとめる事が出来ていた。
なので、詩夕たちに向けられた攻撃を防ぐための防壁としたり、一時的に身を隠す遮蔽物としたりと、防御面でも非常に助けられる。
また、攻撃にしろ、防御にしろ、ドラーグさんの補助は非常に上手い。
タイミングが良いと言うべきか、ここぞという時に組み合わさってくる。
セミナスさんみたいに「未来予測」がある訳ではないが、なんというか……そう、経験則のような、そんな感じの読みだと思えた。
まぁ、なんにしても、詩夕たちが合わせたのか、ドラーグさんが合わせたのか、それとも、その両方なのかはわからないが、ドラーグさんの参戦は非常にプラスになっている。
何しろ、これは好循環と言って良いだろう。
俺だけだと全員を守るのは物理的に不可能だが、ドラーグさんが居ればそれも可能となる。
ドラーグさんという攻だけでなく守にも優れた存在の追加によって、詩夕たち、エイト、シャインさんも、これまで以上に思い切って力を振るえるようになったのだ。
そうして思い切り力が振るえるようになれば、力の上昇も相まって、こちらの攻撃が次第に、更に通るようになっていく。
といっても、未だかすり傷で、その回数が増えただけ。
付けた傷自体は自然回復力が高いのか、直ぐに癒えてなくなってしまうけれど。
それでも、先ほどまでは本当に攻撃が通らなかったのだ。
確かな手応えとして、次に繋ぐ事が出来る。
ただ、そんなこちらの上り調子に合わせるように、魔王リガジーだったモノのテンションも上がっていった。
「ハハハハハッ! いいぞ! それでこそだ! 漸く倒し甲斐が出て来たな! 未だ個の質としては前の勇者ほどではないが、それを数で補っている!」
同時に、その存在感と攻撃性が増す。
また上に上がるのかと辟易しそうになるが、集中は切らさない。
もちろん、セミナスさんの指示も聞き逃さない。
今、みんなが無事に戦えていられるのは、驕りでも過信でもなく、俺とセミナスさん、ドラーグさんが上手く防いでいるからだ。
どこかが崩れれば全体が一気に崩れてしまうような状態は、未だ継続中である。
そうしてある種の緊張感を維持したままやり合い続け、何度目かになるかわからないが、魔王リガジーだったモノの蹴りをASの表面を滑らせてギリギリ軌道を逸らした時、ドラーグさんが声を上げる。
「その存在感! そうか……思い出した。というより、何故そこにそうして存在している。『邪神』よ」
……え? ん? え? 今、邪神って言った?
⦅はい。そこの骨竜はそう言いましたが、何か?⦆
(あっ、もう言っても良いのですか? 最初にその機会を逃したので、もう少し落ち着いてからだと思っていました)
………………うん? あれ?
なんかその口振りだと……もしかして知ってた感じ?
⦅はい⦆
(はい)
……なるほど。そっかぁ。
……そういう大事そうな事は、何がなんでも先に言って欲しかった。




