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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十四章 大魔王
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ウチは隣よりバチバチ……?

明けましておめでとうございます。

 殴り飛ばされたのは俺だけではなかった。

 前衛に居た全員が、ほぼ同時に殴り飛ばされていた。

 魔王リガジーだったモノの動きが急に鋭くなったので、緩急のせいだと思いたい。

 ただ、全員咄嗟にどうにか防いだのか、壁に叩き付けられるような事もなく、全員上手く踏ん張って、俺も含めて大したダメージは受けていない。


 まだ大丈夫だと、動き出す。

 明確な攻撃意思を持った魔王リガジーだったモノとやり合い始めるが、そこからどれだけの時間が経ったのかはわからない。


 一瞬……ではないのは確実だろう。

 数分……でもないと思う。


 その根拠は単純明快。

 こちらが押されていて、傷付いているからだ。

 一気に負った傷ではない。

 少しずつ、徐々に負っていったのだ。


 さすがに、俺と遠隔ASだけで、全員を守りきる事は出来ない。

 俺自身も攻撃を食らえば一発KOもあり得るので、身を挺してというのが難しいのだ。


 というのも、全員で戦っているからこそ、ギリギリ渡り合えている。

 そんな状態で一人でも抜けてしまえば、バランスが崩れて瓦解し、一気にやられる可能性があった。


 その危険性は、セミナスさんからも注意されている。

 俺だけでなく、この場で戦っている誰にでも該当する事として。


 だからこそ、やられる訳にはいかないが、安全性ばかりを気にしていると思い切った行動が取れず、魔王リガジーだったモノに大した攻撃は繰り出せない。


 それはみんなわかっているので、思い切った行動が時に必要になってくる。

 魔王リガジーだったモノは、そこを上手く突いてきた。


 いつこちらが思い切った行動を取るのかを、さすがにすべて読み切る事は不可能だと思う。

 ただ、魔王リガジーだったモノの反応速度は、それを可能にしていた。

 常に後出しじゃんけんで勝たれているようなモノだ。


 そこで少しずつダメージを負っていく。

 といっても、回復魔法があるので傷自体は致命傷でもない限りは直ぐ回復するのだが、それでも失うモノはある。


 体力や血、だけではない。

 自信、もだ。


 こちらの攻撃が通じず、あちらの攻撃は通ずる状況というのは、心を保つのにも力が要る。

 それでも誰も心が折れずに戦えるのは、魔王リガジーだったモノの存在と力を間近で感じ、理解しているからだ。


 ここで目の前の相手をどうにかしないと、本当にこの世界が終わる、と。

 予感でもなんでもなく、確信として。


 だからこそ、全員諦めない。

 傷付き倒れても立ち上がり、みんなと協力して戦う。


 それに、魔王リガジーだったモノを倒す算段がない訳ではない。

 今、セミナスさんが俺に出している指示は、出来る限り時間を稼ぐ事。

 その理由は俺にもわかる。


 詩夕たち――勇者スキルの高まりを待っているのだ。

 セミナスさん曰く、勇者スキルの覚醒は既に終えているのだが、その覚醒の力を存分に振るうための体への定着がまだ終わっていないらしい。

 終わっていない段階のためにMAXで振るう事は出来ないが、その兆候は力の上昇という形で表れている。


 俺にセミナスさんが宿った時に、声がけまでにタイムラグがあったのと似たような事だとセミナスさんは言う。

 でもそれだと、大魔王ララの意識が俺に宿った時は、わりかし直ぐだったけど……。


(簡単な話です。先輩よりも私の方が、相性が良いのでしょう)

⦅アレより先にマジで滅しますよ?⦆


 出来れば、指示に集中してください。

 何しろ、時間を稼ぐのは別に構わないのだが、今はもうセミナスさんの指示なしで、魔王リガジーだったモノの攻撃をすべて捌くのは不可能だ。


 鋭さも威力も段違い。

 どう踏ん張れば良いのかまで指示されるくらいである。

 受け流し角度は細かいし。


⦅受け流しは完璧に受け流してこそ、です。一度でもズレてしまえば、受ける衝撃は段違いですので⦆


 それがわかっているからこそ、俺も必死である。


 そして、一進二退……いや、零進二退のような状況で進んでいく中、その時が来る。

 始まりは、本当に小さな傷だった。

 なんて事はない、直ぐにでも治ってしまうような、それこそ次の瞬間には忘れてしまいそうなくらいのかすり傷。


 それが、詩夕が剣を振るった時に、魔王リガジーだったモノの頬に付けられた。


 と思えば、そこから先は壁が一気に倒壊するように、常水の槍が少しだけ突き刺さり、刀璃の斬撃が足に少しだけ斬り傷を刻み、樹さんの拳がかすり、咲穂の放った矢が胴体をかすめ、天乃と水連の魔法によって多少の傷を受ける。


 また、負けず嫌いのシャインさんが火事場の馬鹿力とでも言えば良いのか、これまで以上の力を発揮して、魔王リガジーだったモノの体捌きを超えて、腹に一発入れた。


 一瞬だけ、ほんの一瞬だけど、魔王リガジーだったモノの表情が乱れ、信じられないと物語っていた。

 ただ、それは本当に一瞬だったので疑わしい。


 実際は浮かべていないかもしれないと思えるくらいに、次の瞬間に余裕を感じられるモノだった。

 まあ、まともに入ったのはシャインさんの一発で、実際はどうかわからないが、そこまで効いているようには見えない。

 余裕があって当然だろう。


「異常な速度での成長……この高まり方は……なるほど。この体の元は魔王。魔王と勇者はある種の因果関係で結ばれている。魔王の体自体が我の影響で強化され、それに引っ張られている訳か」


 と、魔王リガジーだったモノは言っていますけど?


⦅概ね合っています⦆

(そんな関係性があったのですか)


 大魔王なのに知らないの?


(申し訳ございません。私はこうして意識をもってからでほとんど出歩いていないので)


 ……なるほど?


⦅つまり、私の勝ちという事ですね⦆

(知識はこれから蓄えていけば良いだけです。先輩の優位性はその内なくなりますよ)


 ほんと、バッチバチだな、ここ。

 俺たちと魔王リガジーだったモノの戦い以上のバチバチかもしれない。


 そう思っていると、魔王リガジーだったモノが動き出す。

 その表情には、また笑みが戻っていた。


「さて、では第二ラウンドといこうか。確か、お前たちに飛翔魔法は伝わっていなかったな」


 魔王リガジーだったモノの言葉に嫌な予感を覚える。

 このままでは駄目だと攻めるが間に合わない。


「さぁ、どうでる? 勇者諸君」


 魔王リガジーだったモノが己の身を抱き、解放するように両腕を広げる。

 瞬間、閃光が視界すべてを埋め尽くし、耳に届くのは大爆発音。

 衝撃で吹き飛び、感じるのは風の鳴る音と浮遊感。


 目を開けば、視界に広がる青空と、破壊され野晒し状態となった城の一部。

 どうやら、魔王リガジーだったモノが自分を中心にした大爆発を起こしたようだ。


 周囲に視線を向ければ、全員空中に放り出されている。

 魔王マリエムは結界で守られているのが見えた。

 というか、これはまずい。


 魔王リガジーだったモノが言ったように、飛翔魔法はない。

 なら、助かるためにはこれしかない。


(ドラーグさん!)

(出番か!)


 ドラーグさんを召喚する。

 そのままドラーグさんの背に乗り、全員を回収。


 直ぐに確認するが、全員大きな傷はなかった。

 多分、「神器」がオートで守ったんだと思う。


 天乃や水連、エイトに回復魔法で傷を治してもらいながら、ドラーグさんには魔王リガジーだったモノの下へ行ってもらうのだが――。


「……あの者から発せられる雰囲気……どこかで覚えがあるな」


 ドラーグさんが、そう呟いた。

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