歩み寄ったかどうかは本人次第
エイトに回復されながら尋ねる。
……とりあえず、詩夕たちが持つ「神器」は、魔王リガジーだったモノに有効って事で良いんだよね?
⦅はい。その通りです⦆
(はい。その通りです)
⦅ちなみにですが、ASも有効です。普段以上の防御力を発揮するでしょう⦆
(そのASとはなんですか?)
⦅……あとで説明してあげますので、黙っていなさい⦆
なんだろう。
ちょっと歩み寄ったような感じがする。
まぁ、いつまでも口ゲンカされていると困るし、その方が良いっちゃ良いんだけど。
⦅別に歩み寄った訳ではありません。これは妥協です⦆
(そうですね。どちらがこれから主導権を握るかは、このあとに決めれば良いのです。どちらが優秀かは、その時判明します。それまでは先輩に譲りましょう)
⦅………………⦆
なんだろう。
今セミナスさんに表情があれば、頬がひくついているような気がする。
⦅そこで大人しく見ていなさい! 私の華麗なる指示出しを!⦆
(勉強させていただきます)
やっぱり歩み寄ってはいないようだ。
でも、セミナスさんの指示は正直助かる。
魔王リガジーだったモノが相手だと、俺の判断だけだといつか対応出来なくなりそうだ。
⦅お任せを⦆
セミナスさんがそう言うのと同時に、エイトによる回復が終わる。
破けた衣服はそのままだが、傷は綺麗になくなっていた。
もちろん、失った血や体力は戻らないが、まだ動ける。
体の調子を確かめるように、軽く運動。
……よし。大丈夫。
「エイト、魔力は?」
「まだ余裕があります」
エイトがピースサインをして答えるが、いつもより頬が少し上気しているように見える。
いつもより魔法を連発し続けているのだから、体力とは別……やっぱり魔力の消耗が激しいのかもしれない。
でも、なら休めとも言えないのが、今のつらい現状だ。
エイトの魔法があるからこそ、ここまで渡り合えたのだし、寧ろこれからの方が必要である。
「無理はするなよ……でも、頼む」
「お任せを。それと、ご安心を。エイトには切り札がありますので」
あると言うなら、あるんだろうな。
なんとも頼もしいと思った。
そして、大きく深呼吸をして、行われている戦いに目を向ける。
樹さんによる乱打を魔王リガジーだったモノが片手ですべて受けとめ、そこに刀璃が死角から刀を振るうが、まるで見えていたかのように紙一重で避けられた。
しかし、そこで終わりではない。
魔王リガジーだったモノの姿勢が崩れたところに常水が槍を突くが、その槍をかわすだけではなく、掴んで支えにして姿勢を正してみせる。
そこに、隙を突くように常水の後方から詩夕が姿を見せて剣を振るう。
詩夕の剣は吸い込まれるように首筋に向かうが、魔王リガジーだったモノは体全体を回転させて剣の軌道から外れる。
更に、咲穂の矢が飛来。
器用に目や口などの顔面急所狙い。
魔王リガジーだったモノは超高速で腕を振るって、飛来する矢をすべて掴む。
そこで終わりではない。
天乃、水連による魔法が追撃として放たれている。
そこで魔王リガジーだったモノの体全体から発せられている黒い靄が、掴んだ矢に纏わりつく。
まるで、自分の力を矢に込めるように。
魔王リガジーだったモノが放り投げるように手を振るって矢を投擲。
矢が分裂して黒い矢をいくつも出現させながら、放たれた魔法をすべて撃ち落としていく。
そのすべての動作において、魔王リガジーだったモノは終始笑みを浮かべ、余裕を見せていた。
相手を騙そうとかそういうのではなく、本当の余裕を。
どれだけ強いんだよ、と言いたい。
詩夕たちは連携の組み合わせを変えたり、行動順を変えたりと、色々と手を変え品を変えてと、魔王リガジーだったモノを翻弄させるような動きをしているが、効果は薄い。
いや、まったく通じていない。
まともな攻撃が、一度も当たっていなかった。
シャインさんは、まだ休憩も兼ねてか抑えた攻撃を繰り出している。
チラチラとこちらを見ているので、さっさと戻って来いと言われているような気がした。
⦅気ではなく、そういう強烈な視線です⦆
(少々野蛮ではないかしら?)
⦅誠に遺憾ながら、同意見です⦆
まぁまぁ。
それがシャインさんというか、そうじゃないと、て感じでしょ。
それに、だからこそ、頼りに出来る。
⦅今ここに居る中でもっとも強いのは事実です⦆
(人の身で私たち神造超生命体に迫るのは驚きしかありません)
その調子で意見を合わせて欲しいと思うつつ、魔王リガジーだったモノに向けて一気に駆け出す。
「詩夕! チェンジだ!」
俺のかけ声に合わせて、前衛を行っていた詩夕、常水、刀璃、樹さんが下がる。
詩夕とすれ違いざまに一言。
「『神器』が有効だから準備を」
多分、頷いているだろうけど、確認はしない。
目線は魔王リガジーだったモノに固定している。
俺が駆け上がるのに合わせて、シャインさんが隣に来て一言。
「……いけるな?」
「問題ないです」
寧ろ、前よりよくなっている……はず。
その証拠に、セミナスさんによる遠隔ASも動き出している。
まずは挨拶代わりと、遠隔ASが単独で魔王リガジーだったモノに向けて飛んで行く。
殺意満々だと、先端が尖った盾が三つ。
遠隔ASは魔王リガジーだったモノの周囲を飛び交い、攻防を始める。
元々が盾である以上、ASは遠隔だろうが殴られても蹴られても問題ない。
衝撃で多少弾かれはするが、直ぐにまた襲いかかる。
「何やら面白い事をしているな、お前は!」
魔王リガジーだったモノの視線が俺に向けられる。
いや、やっているのは俺じゃない、とわざわざ言う必要はない。
そのまま俺とシャインさんもその攻防に加わった。
先ほどまでとは、俺の動きは明確に違う。
セミナスさんの指示によって、すべてが最適化され、効率的で的確だ。
遠隔ASも合わさって魔王リガジーだったモノの攻撃をすべて完璧に防いでいく。
「先ほどまでとは明らかに違うな! 何が変わったのか興味はあるが、良いぞ。それでこそ、こちらも楽しめるというモノ。漸く、体が温まってきたところだ」
魔王リガジーだったモノの攻撃が更に鋭く、苛烈になる。
それでも、セミナスさんの指示はすべてに対応していき、その隙を突くようにシャインさんが攻撃を行うが、魔王リガジーだったモノに攻撃はまともに入っていなかった。
理由は単純。
俺、遠隔AS、エイトの魔法だけでは、魔王リガジーだったモノの防御を完全に崩す事が出来なかったのだ。
けれど、それは直ぐに解決する。
「神器」を装備した詩夕たちが加わったからだ。




