表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十四章 大魔王
518/590

余裕な姿が隙に繋がるとは限らない

「さぁ、勇者諸君。我の準備運動に付き合ってくれないか? 我は久し振りの肉体を楽しみたいのだ」


 魔王リガジーだったモノが、俺たちと常水たちを交互に見ながら、そう言ってくる。

 自らは動く気がないと言っているようなモノだが、それだけの余裕を感じられた。

 全員一斉に襲いかかられても、問題はないと。


「アキミチ、行くぞ! シユウは説明を優先! 何も知らずに挑むには、相手が悪過ぎる!」


 シャインさんが魔王リガジーだったモノに向けて駆け出し、指示を飛ばしていく。

 その表情に余裕はない。

 つまり、それだけの相手だという事だ。


「エイトは遠距離からの援護だけだ! 迂闊に注意を向けられるような魔法は使うな! 残存魔力もそうだが、一発でも下手に食らうと死ぬぞ!」

「それは危険です。エイトは後方からの援護を行います」


 エイトにまで!

 シャインさんの様子から、エイトは危機感を覚えたのか、素直に従っている。


 そんな相手のところに向かうのか……と思いつつ、俺も駆け出す。

 詩夕は常水たちのところへ。


 駆けながらシャインさんが近付いてくる。


「いいか、アキミチ。防御に徹しろ。おそらく、まともに防げるのはお前だけだ。攻撃の方は、私がなんとかする」


 正直、シャインさんでどうにもならなかったら、難しいとしか言えない。

 それと、言いたい事もわかった。

 シャインさんは、攻撃に専念出来ればなんとかしてみせる、と言っているのだ。

 つまり、防御とか他の事は捨てるから、そこは俺に任せるという事。


 責任重大過ぎると思いつつ、シャインさんと共に魔王リガジーだったモノと対峙する。


 シャインさんは宣言通り、攻撃に集中し切っていた。

 ただ相手を倒そうという意識しか持っていないため、魔王リガジーだったモノが攻撃を行っても避ける素振りも防ぐ気配も一切ない。


 極端過ぎる、と思いつつ、そこは俺の出番だ。

 シャインさんに向けて放たれる攻撃を、ASをフル活用して防いでいく。

 自ら準備運動と言うだけはあって、まだ反応は出来た。


 防ぐ事も可能で、まともに受けても踏ん張りは効くし、受け流す事もまだ出来ている。

 というよりは、こちらの力に合わせつつ、ギリギリのラインを攻めているような気がした。


 直ぐ終わっては面白くないだろ? と言われているようで、ムカつく。

 シャインさんには、是非とも顔面に特大にキツイのを一発入れて欲しい。

 そのために、俺はシャインさんへの攻撃を防ぎ続け、シャインさんを攻撃だけに集中させる。


 ただ、そうなると、当然俺自身への攻撃には少し疎かになるが、そこはエイトが魔法でフォローしてくれていた。


 普通なら、そこでエイトを邪魔に思って排除しようと動くだろうが、魔王リガジーだったモノは何もしない。

 エイトから放たれた魔法をすべて防ぎ、その上でその表情は要求している。


 もっと撃ってきても構わないぞ、と。

 エイトもそれを感じ取ったのか、放つ魔法が激しくなるが、魔王リガジーだったモノはそのすべてを防ぎ、かわし、撃ち返していく。


「良いぞ、良いぞ。さすがはここまできた者たちだ。良い準備運動になっている。もっと激しくしてくれても構わんぞ。ほら、こんな風に」


 魔王リガジーだったモノが何気なく手刀を放つ。

 ただ、その攻撃速度がいきなり上昇した。

 しかも、シャインさんの胸部――心臓を正確に狙っている。


「間に合うかな?」


 遊んでやがる! と悪態を吐きたいところだが、その時間すら惜しい。

 攻撃に集中しているシャインさんは当然避けようとしなかった。

 というか、反応してももう遅い。


 俺が防がないと、シャインさんの心臓が貫かれる。


 体ごと飛び出し、ASでギリギリ受けとめるが、上手く流す事は出来ずに俺の肩をかすった。

 少しだけ鮮血が舞うが、そこを気にしている余裕はない。

 魔王リガジーだったモノは既に動いていて、次の攻撃に移っている。


 肩の痛みは我慢。

 動くのなら問題なし。


 そのままシャインさんの防御を行おうとするが、そこにエイトとは別の方向から魔法が飛んでくる。

 しかも、こちらに合わせた、きっちりとした援護の魔法がいくつも。


「悪い、待たせた。事情は聞いたが、まずはその肩の傷を治してこい」


 いつの間にか隣に立っていた樹さんが、俺にそう声をかけてくる。

 詩夕、常水、刀璃と、前衛で戦える全員が揃っていて、魔王リガジーだったモノを取り囲んでいた。


「そうだそうだ。個で足りなければ集で挑む。当然の判断だ。まぁ、それでも我はどうにもならんがな」


 それでも、魔王リガジーだったモノの余裕は崩れない。


「……気を付けて」


 具体的な事は何も言えず、まずは傷を治すために下がる。


「私が」

「私が」

「エイトが」


 天乃、水連、エイトが挙手する。

 いや、それよりも援護して欲しいんだけど。


「誰でもいいから一人だけで! 他は援護!」


 咲穂から早くしろと促され、エイトの休憩も兼ねてエイトに治してもらう。

 天乃と水連は、これ以上咲穂には怒られたくないと、詩夕たちの援護に向かった。


 エイトに回復してもらいながら、様子を確認。

 詩夕たちは連携も上手く使っているのだが、魔王リガジーだったモノには通じていないというか、まともに当たったのがまだ一度もない。


 すべてに対応されている。


 でもそれは、シャインさんの攻撃頻度が下がった事も関係あるかもしれない。

 俺の防御がなくなった……からだろうか。

 詩夕たちに、魔王リガジーだったモノの存在を慣れさせる意味もあるかもしれない。


 しかし、確かな事は一つ。

 このままでは駄目だという事だ。


 攻め手に欠けるというか、魔王リガジーだったモノに対しての有効なモノを見つけられていない。

 いや、その可能性がありそうなモノには心当たりがある。


 今は使用していないが、先ほど自動で常水たちの守ったと思われる、鍛冶の神様が詩夕たちに合わせて製作した武具――「神器」だ。

 本来は大魔王を封印するための道具だが、もちろん攻撃にも転用出来るだけの性能はある。


 今使用しないのは、まだ使い慣れない武具であるため、今使用しているのより上手く扱えないからだ。

 それでも、先ほど自動で攻撃に反応したりと、もしかすると有効なモノかもしれない。


 ……その確信が欲しい。


⦅お待たせしました。もう大丈夫です。『神器』の有効性は⦆

(非常に高いと思われます)

⦅それ、私のセリフ!⦆


 全然大丈夫じゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ