狙いは人それぞれ
魔王リガジーが乱入してきた事で、場が一気に混乱、混迷となってきた。
「邪魔だっ! お前たち!」
何しろ、魔王リガジーは俺たちだけではなく、大魔王ララの体にも襲いかかっている。
「無駄な事をする」
いや、正確には取り押さえようとしているようだが、大魔王ララの体が抵抗していた。
魔王リガジーは手っ取り早く魔王ララの体に残る右腕を掴もうとするが、大魔王ララの体は余裕で掴もうとする手を弾いている。
それは掴もうとする手が、片手でも両手でも関係ない。
なんでもないように弾く大魔王ララの体の姿は、魔王リガジーの力を完全に上回っている事を俺たちにも知らしめた。
実際はどうか知らないが、単純計算で大魔王ララの体には元の力の四分の三が戻っている。
魔王リガジーは四分の一だ。
その差はでかい。
「邪魔なのはお前だ! こいつを片付けたら相手をしてやるから、大人しく待っていろ! それともついでにやってやろうか?」
でも、そんな事は関係ないと、シャインさんは両者に襲いかかっていた。
シャインさんの蹴りを魔王リガジーが防いだと思えば、シャインさんは蹴り足を軸として回転し、そのまま大魔王ララの体に殴りかかる。
大魔王ララの体は、魔王リガジーに向けて手刀を放とうとしていた右手でシャインさんの拳を防ぎ、そのまま掴んでシャインさんを放り投げた。
そこに魔王リガジーが大魔王ララの体を再度取り押さえようとする。
「馬鹿め」
大魔王ララの体は、突っ込んでくる魔王リガジーを跳び箱のようにして飛び越え、空中で回転しながら蹴り飛ばす。
奇しくもなのか、狙ってなのか、魔王リガジーが飛んで行った方向は、シャインさんが投げられた方だった。
もちろん、シャインさんは受けとめない。
ひょいっと避けて、シャインさんは大魔王ララの体へと襲いかかる。
魔王リガジーはそのまま壁に激突したが、なんでもないように立ち上がり、シャインさんと同じく大魔王ララの体を取り押さえに向かう。
そのまま三者による乱戦が行われる。
「なんか出遅れてしまったというか……」
「入り込む余地がないというか、タイミングが難しいね」
「迂闊に手を出すと火傷しそうです」
俺、詩夕、エイトの意見が一致する。
でも、ここで大人しく見ているという選択はしない。
けれど、気になる事は別にある。
それは魔王マリエム。
魔王リガジーが動いたという事は、魔王マリエムを放置しているという事だ。
魔王マリエムが居た方に視線を向ければ、何やら赤く輝いている魔法陣の中に居た。
見た感じで言えば、結界……かな?
(おそらく、力を抜かれたマリエムを守るために、リガジーが張ったのでしょう……)
俺の中の大魔王ララが、少し悲しげにそう答える。
でも、そういう事なら、魔王マリエムは放っておいても良いだろう。
今は大魔王ララの体の破壊を優先すべきだ。
「いくぞっ! 詩夕! エイト!」
俺たちも向かう。
魔王リガジーの分の力が戻っていないからか、確かに手加減されている感はあるが、それでも辛うじてやり合える。
特に、詩夕はまだ力が上昇していっているのが見てわかる。
時間が経てば経つほどだが、大魔王ララの体が魔王マリエムの力を取り込んでから、更に加速していっているような気がした。
まるで、相手の強さに合わせるように。
だからこそ、詩夕は大魔王ララの体とやり合わさないといけない。
そんな詩夕の安全を守るのは、俺だ。
詩夕よりも前で、長時間大魔王ララの体の攻撃を防ぎ続ける。
「邪魔なヤツ」
大魔王ララの体がそんな俺を煩わしく思ったのか、狙いを俺に定めようとするが、そこにエイトが魔法を放って注意を上手く逸らしていく。
そこで、俺とエイトに注意を向ければ、その意識の隙間に滑らせるように詩夕が斬撃を放つ。
それすら反射的に回避する大魔王ララの体だが、その行動でこちらへの直接的な攻撃は断念せざるを得ない。
詩夕の斬撃に注目する大魔王ララの体。
「……特に何かが変化した訳でもなく、先ほどよりも鋭さが増している。その力の性質……勇者か」
驚愕でもなんでもなく、ただ納得した、という表情を浮かべる大魔王ララの体。
大魔王ララの体の狙いが、俺とエイトから詩夕に変更する。
それでも、今の詩夕ならそう簡単にやられはしない。
それに、俺とエイトで詩夕の補佐を行い、安全性を高める。
魔王リガジーの横槍がないのは、再びシャインさんが押さえているからだ。
どうにかこちらの方へ来ようとしているが、シャインさんによって完全に妨害されている。
「邪魔をするな!」
「叫ぶのは構わないが、私への集中を欠いたままでどうにか出来ると思っているのか?」
「ちぃっ!」
当分は大丈夫だろう。
この間に大魔王ララの体を破壊、もしくはそれに近い致命傷を与えておきたい。
今度は詩夕も加えて、大魔王ララの体の消耗を少しずつ削っていく。
それが出来たのは、俺というよりは詩夕とエイトが強いから、だとも思うが、どうやらそれだけではない事に気付いた。
元々体の状態はそれほどよくない。
片腕を失い、足も痛めていると、万全の状態ではないのだ。
魔王マリエムの力を取り込んだそうだが、力の上昇に体が耐え切れていない。
つまり、今は本気を出せないのだ。
余裕があるように見せているが、今が出せる限界。
詩夕とエイトにチラリと視線を向ければ、こっちも気付いたと頷きが返された。
一気に決めにかかる。
大魔王ララの体の破壊は詩夕とエイトに任せ、俺は回避と防御に専念。
詩夕に向けられた狙いを、少しでも俺の方に向けさせる。
そうすれば、その隙を突いて、詩夕とエイトがどうにかしてくれるはずだ。
ただ、そんな俺の相手をするのが嫌になったのだろう。
「煩わしい!」
大魔王ララの体が魔法で自身の周囲に小規模爆発を起こす。
咄嗟にASで防いだのでダメージは特にないが、衝撃と余波で体が吹き飛びそうになる。
俺という障害が取り除かれ、爆発による煙による目くらまし効果で、詩夕への道が出来上がってしまう。
「行か、せるかよっ!」
咄嗟に足を伸ばして、大魔王ララの体の足に引っかける。
単純な手だったが、意表は突けたようだ。
転びはしなかったが、大魔王ララの体は一歩分の動作を無駄にしてしまう。
そこに、後方に回り込んでいたエイトが、やり返すとばかりに爆発系魔法を発動。
もろに受けた大魔王ララの体は弾丸のように飛び出し、詩夕の方へ。
詩夕は剣を構え、すれ違いざまに一閃。
そこで真っ二つにするつもりだったようだけど、大魔王ララの体が上手く逸らせたのか、残った腕と片足を落とすだけだった。
それでも致命的だろう。
更に、追加がある。
エイトは狙っていたのかわからないが、飛んで行った方向が悪かった。
シャインさんが居たのだ。
「よく、やった」
蹴って魔王リガジーの姿勢を崩したシャインさんが、タイミングを合わせて拳を放つ。
大魔王ララの体は直前で身動ぎし、シャインさんの拳は上半身をかすり、下半身を丸ごと破壊した。
「ララッ!」
魔王リガジーが叫びながら、上半身のみになった大魔王ララの体を受けとめる。
確かに、大魔王ララの体は上半身のみとなった。
けれど、逆を言えば、完全に破壊は出来ていないという事。
核は……残っていた。
両腕がなくとも上半身の力だけで身を起こし、大魔王ララの体は大きく口を開いて、魔王リガジーの首筋に噛み付いた。




