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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十四章 大魔王
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違いがわかった時って嬉しくない?

 大魔王ララの体とやり合い続け、ちょっとした変化に気付く。

 それは、体が少し軋んでいるというか、動きが少し悪くなったように感じられた。


 そう感じられたのは、本当に些細なモノ。

 明確に、ではなく、あれ? もしかして? と少しばかり引っかかる程度のモノ。

 でも、そうと気付けば、それはしっかりとした違い。


 多分だけど、先ほどのエイトの魔法を打ち破った際に、ほんのわずかだろうけど、どこかを痛めたのかもしれない。

 それで、少なからず動きに影響が出ているんだと思う。


「エイト! 気付いたか?」


 大魔王ララの体に聞こえても問題ないので、攻撃を防ぎつつエイトに聞く。


「日頃ご主人様がエイトに向けている情愛についてなら気付いていますが?」


 余裕があると思って良いんだろうな、きっと。


「そうじゃなくて、大魔王ララの体の動きだ。僅かだけど悪くなっている」

「……エイトには判別出来ませんが?」


 首を傾げるエイト。

 わからなくても不思議ではない。

 多分、常に近距離でやり合ったからこそ、だと思う。


「いいや、俺にはわかる。間違いない」

「ご主人様、その言い方ですと、敵と通じ合っているように思えるのですが?」


 ……まぁ、それに関しては否定しづらい部分があるんだな、今は。

 実際に俺の中に大魔王ララの意識が存在しているし。

 まだ折り合いがつかないのか、言い合っているけど。


「……通じ合うとか、そんな訳ないだろ」

「今の間はなんでしょうか?」

「ともかく! 間違いなく悪くなっている。だから、ちゃんと効いている。エイトの魔法は通じているんだ。少しずつでも良い。このまま続けていけば、いずれ耐えきれなくなる。それで終わりだ。それまでエイトは守ってみせる。だから、安心して攻撃に専念してくれ」

「わかりました。ご主人様のエイトへの愛に応えてみせます」

「期待な、期待」


 どんな時でも変わらず……頼もしいよ、エイトは。

 魔王リガジーはシャインさんが押さえ、魔王マリエムは詩夕が押さえてくれている。

 二人なら間違いなく押さえ込めるはずだ。

 つまり、余計な邪魔は入らない。


 大魔王ララの体と、近距離でやり合い続ける。

 距離を取る必要がある場合は、エイトから指示があるはず。

 それまでは、俺が大魔王ララの体を押さえ込む。

 エイトには攻撃させない。


 そうして、少しずつ……少しずつ……大魔王ララの体の状態を悪化させていく。

 問題は、ある程度というか、高威力とか超威力とか、そういうレベルの魔法を当てないと意味がないという事。


 低、中威力、数頼りの魔法では、それこそ直撃しても通じている気配が一切見られない。

 そもそも、俺の体当たりだって体勢を僅かながら崩す効果はあっても、ダメージはそもそもない。

 寧ろ、連発すると俺の方が体を痛めそうだ。


 なので、ある一定以上の威力を持つ魔法でないと通用しないのだが、そうなってくると心配なのは残存魔力。

 威力が高い分、消費魔力もイコールで大きい……はず。


 そこら辺が心配なので、大魔王ララの体からの攻撃を防ぎつつ、時々エイトの様子を窺うのだが……。


「またご主人様からの熱い視線をいただきました。勝利のあと、お前をいただくぜ、と言われている気がします」


 うん。大丈夫そうだ。

 大魔王ララの体の拳が鼻先をかする。

 集中しよう。


 ――そして、その時が来る。


 何度目かはわからないが、エイトの黒い閃光のような魔法を大魔王ララの体が防いだ瞬間、びしりと何かが裂ける音と共に、大魔王ララの体が片膝をつく。

 足を痛めたのかもしれない。


 同時に、これは大きなチャンスだ。

 バランスを失い、動きが悪くなっている。


「エイト!」

「お任せください 『魔力を糧に 我願うは 七種七色の煌めき 七矢乱舞』」


 エイトが再度魔法を唱えると、その背後に七種七色の魔法陣が展開。

 そこから魔法陣の色に合わせた矢が連続射出。

 大魔王ララの体に迫る。


「やらせるかっ!」


 切羽詰まった声に反応して視線を向ければ、魔王リガジーがわざとシャインさんに殴られ、その勢いすら利用して加速し、大魔王ララの体を守るように七種七色の矢の雨の前に立ちはだかる。


 そのまま自らの体を盾として矢の雨を受けた。

 見た目通りの頑丈さなのか、大して効いているようには見えないので、寧ろ、シャインさんの一撃の方がダメージはでかいかもしれない。


 ただ、魔王リガジーが防げたのは、全体の七割程度。

 残り三割は大魔王ララの体に当たると思った時、別方向から飛んできた十数発の火球とぶつかり合って爆発が起こる。


 といっても、それは小規模であり、大魔王ララの体には到達していない。

 火球が飛んできた方向に視線を向ければ、こちら側に左手を向けている魔王マリエムが居た……が、右腕を犠牲にしている。


 丁度、詩夕が魔王マリエムの右腕を斬り飛ばしたところだった。


 結果として、エイトの魔法は大魔王ララの体に到達する前にすべて防がれた形となってしまったが、その代わり、魔王リガジーと魔王マリエムが負傷した形である。


 瞬間的に後方に向けて跳ぶ。

 ただの勘だが、正解だった。

 体を振るって刺さった矢を取り除いた魔王リガジーが俺に向かって殴りかかってきていたが、なんとかギリギリで回避する。


 魔王リガジーは追撃してこなかった。

 大魔王ララの体を守るように立ちはだかり、そこに魔王マリエムが合流して、大魔王ララの体の様子を窺い出す。


 俺もエイトと合流すると、詩夕とシャインさんもやってきた。


「これで漸く追い込めたかな?」


 そう言うのだが、詩夕とシャインさんの表情はどこか納得していない。


「なんだろうね……まだ終わりじゃないというか、嫌な予感がとまらない。より強くなっている」

「変な気配が漂っているな」


 実際、詩夕とシャインさんの警戒は一切緩んでいないというか、より強くなっているように見える。


 ……どういう事? とエイトを見ると、首を傾げていた。

 俺も首を傾げる。

 すると――。


「うっ」


 そんな呻き声が聞こえたので、視線を向ければ――大魔王ララの体の右腕が、魔王マリエムの胸部を貫いていた。

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