やるべき事がわかればやるだけ
大魔王ララの目に意思の光が宿り、言葉をかけられたかと思った次の瞬間には、そのどちらも消えていた。
意志の光は消え――。
「もう一度!」
声をかけても反応はない。
喋る気配も一切ない。
でも、確かに、「逃げろ」と言ってきた。
……どういう事?
⦅反応がない以上は、確認のしようがありません⦆
セミナスさんでもわからない?
⦅そういう未来は見えません。先ほどの言葉に関しても同様なため、イレギュラーな事態の可能性があります。もしくはその予兆か。まるで、そういう未来を……⦆
そこでセミナスさんの声が途絶えた。
妨害されている訳ではなく、思考に集中し始めたんだと思う。
何かしらに引っかかりを覚えたのかもしれない。
それでもセミナスさんのASは動き続けている。
攻撃と防御をしっかりと行っているが、その動きにセミナスさんの意思は見られない。
自動攻撃、自動防御って感じ。
様子は、大魔王ララとどこか似ている気がする。
それにしても、先ほどの一撃には肝が冷えた。
セミナスさんの指示がなければ、間違いなく胸部……心臓が貫かれていたと思う。
今思い返すと、あの瞬間だけは、しっかりとした意思――殺意を感じたような気がする。
……瞬間的にあれだけの動きを見せたのだ。
という事は、意思が戻れば……もっと素早く、激しい攻撃が繰り出されるのは間違いない。
それに、詩夕とシャインさんが魔王マリエムと魔王リガジーを押さえ込んでくれているけど、そんな状態がいつまでも続くとは思えない。
倒すか……考えたくはないが、倒されるか……。
予測不能な事はいつ起きてもおかしくないんだから。
セミナスさんには思考に集中してもらって、俺は俺で出来る事をやるのが、きっと最善手なはず。
幸いというか、再び機械的な動きになった大魔王ララが相手なら、慣れた今なら俺とエイトだけでも対抗出来る。
一旦下がり、エイトと合流。
大魔王ララが追ってくるが気にしない。
今の状態なら、セミナスさんなしでも、俺の判断で避けられる。
大魔王ララの拳や手刀を避けつつ、エイトにも牽制を行ってもらいながら、状況を簡潔に説明。
「……なるほど。つまり、ご主人様とエイトで大魔王ララを倒す。もしくは、追い込めば良いのですね。そのために、主攻はエイトが務めると」
「そういう事」
さすがは、この世界に来て、アドルさんたち、セミナスさんの次に行動を共にしたエイト。
俺に攻撃が向いていないとわかっている。
話が早くて助かった。
「要約すると、ご主人様が受けに回り、エイトが攻めに回る……つまり、主従逆転モノをお望みだという事ですね?」
……確かに、俺が大魔王ララの攻撃を受けている間に、エイトに攻めてもらうという事。
それで合ってはいるんだけど、なんかニュアンスが違うというか、捉え方が間違っているような気がする。
おかしいな。
もうそこそこ長い付き合いなのに、そんな事あるだろうか?
でも、ここで否定して、エイトのやる気が下がるような事は避けたい。
「……大体そんな感じで!」
でも、大体そんな感じじゃないとも思う。
「かしこまりました!」
エイトのやる気の上昇を感じる。」
やる気になってくれたようで何より。
気分的な問題かもしれないけど、エイトの放つ魔法の威力と数、速度が上がった気がする。
これは、主攻をエイトに任せるにあたって良い事だ。
それに、何も俺は状況を伝えるためだけに、エイトと合流した訳じゃない。
俺とエイトで大魔王ララを倒す、もしくは追い込むためには一つの問題があった。
それは、俺、エイト、大魔王ララ、三者間の距離。
大魔王ララが俺に肉薄した事で、エイトの迎撃の魔法が間に合わないようになってしまったのだ。
取りこぼしが出てくるようになってしまう。
それは仕方ない。
よほどの差がない限り、攻撃は距離の近い方が先に届くのだから。
後衛として少し離れていたエイトは迎撃だけを行っていたが、それが主攻ともなれば距離による遅延は、相手に対処の時間を与えてしまう。
でもそれは、その距離がなくなれば、エイトの主攻が大魔王ララに通るという事でもある。
その分、エイトも大魔王ララの攻撃に晒される事になるが、そこは俺が踏ん張るところ。
エイトに対して、大魔王ララの攻撃が苛烈になるが、それを決して通さず、エイトを攻撃に集中させる。
「させるかよっ!」
大魔王ララのエイトに向けての魔法を、ASで防ぐ。
その隙を突いたエイトの魔法が大魔王ララに当たる……が、大した傷は受けていない。
「……まっ、あれだな。チクチクとやっていればその内……ちりも積もればってヤツだな。うん」
「ご主人様。勘違いしているようですが、今のは牽制として放ったのが、偶々当たっただけ。エイトの魔法の威力はあんなモノではありません。きちんとした魔法が当たれば……そう、黒焦げです」
いや、疑っていないから。
エイトの魔法ならやれると信じているからこそ……任せるのだ。
ただ、今のままだと駄目だ。
エイトに溜めの時間がないために、威力が伴わない。
その時間を作るのが、今俺に出来る事。
ASを両腕装備にして、大きく深呼吸。
エイトに視線を向ければ、俺の意図が伝わっているのが見てわかる。
なら、あとは行動するのみ。
大魔王ララの注意を俺だけに向けるため、至近距離でやり合う。
ASとはいえ、まともに受けては駄目だ。
壊れはしないだろうけど、それでも受けた衝撃で吹き飛んでしまう。
だから、やるなら受け流し。
大魔王ララの攻撃を、両腕にある盾の表面を使って受け流し続ける。
一撃ももらう訳にはいかないという思いが、これまでで一番集中させていた。
どれだけの時間を耐えられたかはわからないが、エイトの声が聞こえて気付く。
「『魔力を糧に 我願うは 七種の力による煌爆 七光爆雷』」
言い切るのと同時に俺も行動を起こす。
攻撃は確かに不得手だけど、体当たりくらいなら出来る。
エイトの声で大魔王ララの意識が俺から少し逸れた瞬間、体当たりをして大魔王ララの体勢を少し崩す。
体当たりの反動を利用して、大魔王ララと少し距離を取ると、色の違う七つのレーザー光線が俺に当たらないような軌道を描きながら通り過ぎていく。
大魔王ララが迎撃しようとするが、エイトの魔法が先に到達する。
七つのレーザー光線が大魔王ララに全命中し、紫電が走る大爆発が起こった。
……これで。
「やりましたね」
エイトがそう言う。
いや、それフラグ。




