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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第三章 ラメゼリア王国編
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約束を結ぶ時は気を付けて

 小さな村を前にして、俺たちは呆然と立ち止まった。

 正確には、木の枠で出来た門を前にして。

 門に提げられている垂れ幕には、こう書かれていた。


 ――稀代の魔法使い・アンディズムによる瞬間移動魔法公開中! 君は歴史に刻まれる魔法の証人になる!――


 ………………。

 ………………は? いやいや、何これ?

 垂れ幕を指差し、アドルさんたちに視線を向けると、訳がわからないと首を傾げ返された。


「いや~、旅の方々! 旅の方々であっているよな? 久し振り過ぎて正解かわからないけど、まぁ良いか。丁度良い時に来ましたね! 今この村は稀代の魔法使いアンディズム様が現れ、村興しの一環としてその素晴らしい魔法を公開して頂いているのです!」


 門番? と思われる軽装に槍を持った二十代くらいの男性が、そう声をかけてきた。

 ……なんか、うざいと思ってしまうくらいに興奮しているんだけど?

 久し振り過ぎてとか言っていたし、テンションが上がり過ぎて下げられないのかな?


 まぁまぁ……と一旦落ち着かせ、改めて尋ねる。


「えっと、一つ確認したいんですけど?」

「なんでも聞いて下さい! あっ、もちろん、宿屋もありますよ! 外見はちょっと……いや、風情が……そう! 風情があるんですよ! こう、朽ちる一歩前……いや、二歩………………駄目だ。何を言っても宿屋の婆さんに怒られるような気がする」


 駄目な人っぽいな。

 他にやれる事がないから、門番をやらされているような気がする。

 本職じゃないから、距離感が掴めないのかな?


 というか、もう少しこうオブラートに包み込んだ方が良いと思うよ。

 多分、出来ないから怒られるんだろうけど。

 朽ちる一歩前とかたとえそうだとしても、声に出すんじゃなくて心に秘めておくべきだと思う。


 宿を見た時に思い出したらどうしてくれるの?

 責任取ってくれるのかな?

 門番の人がそう言っていたって普通に言うからね。


 と、そうじゃなくて。


「宿屋の話ではなくて、瞬間移動魔法についてなんですけど、あるんですか? 使えるんですか? その魔法使いさんが?」


 そこが気になって仕方ない。

 何しろ、アドルさんたちから、そういう魔法についてはきっぱりないと言われたばかりだ。

 そこをいきなり使える者が現れた、となるとは。

 アドルさんたちもそこが気になっているのか、こそこそと話し合っていた。


「……マジか。居るとは思わなかった。……え? 今魔法ってそんなに進んでいるのか?」

「自分たちに聞かれても困ります。アキミチを迎える準備で時折町には行きましたけど、その支度に時間を取られていましたし、魔法研究の方まで調べるのは無理でしたよ」

「私も他に必要な物資を集めていましたから……それはアドル様も同様ですし、集まり終わったあとは直ぐに上大陸に向かって鍛錬しつつアキミチを待っていましたから、多少は世情に疎くなっても仕方ないと思いますよ?」

「それはそうだが……ないと断言した手前、何やら無知のようで恥ずかしいではないか」

「それはそうですけど……」

「………………なら、その魔法使いを殺りますか? そうすればなかった事になりますから、恥ずかしい思いをしなくてもよくなりますよ?」

「「えぇ~……何その発想……ウルル怖い」」

「ちょっ! なんで二人共真面目に受け止めるんですか! 冗談に決まっているでしょ!」

「「………………」」


 ウルルさんが苦笑いを浮かべながら、慌てて否定する。

 でも、アドルさんとインジャオさんは、本当に冗談なのかと疑わし気だ。

 ……もちろん俺も。

 まだまだ付き合いは短いが、龍の領域近くのグレーゾーンで勝手に採掘してきたりと、行動が読めない部分がある。

 そのウルルさんから相手を殺る? と言われると、どうにも本気かもしれないと考えてしまうのだ。


 きっと、俺よりもアドルさんとインジャオさんの方が、そう強く思っているのは間違いない。


「アンディズム様は本当に凄い方なんですよ! 俺もこの目で見ましたし、瞬間移動魔法なのはまちがいありません! アンディズム様が凄いのは、それだけじゃないんです! 本来であれば、これまで存在しなかった瞬間移動魔法を開発したとなると、魔法開発研究所などの然るべき場に報告して、どこかの国に召し抱えられらりするのですが、アンディズム様はこういう魔法こそ一般に広めるべきであり、この何もない寂れて廃れていくしかない村の一つの興しにでもなれば、と大変崇高な方なんですよ! いや~、それにあのカール髭は」


 そして、門番の男性の語りが止まらない。

 質問してからずっとこうである。

 もう俺たちの存在すら忘れているんじゃないだろうか?


 なんとなく尊敬しているっぽい雰囲気を感じるのだが、話が一向に途切れないっぽい。

 目撃したっぽいから、どうやら瞬間移動魔法が使えるのは本当っぽいけど……やっぱり自分の目で実際に見ない事には、信じるのは無理っぽいなぁ……。


 ……駄目だ。ぽいぽいばっかりで上手く思考が纏まらないっぽい。


 どうしたものかと考えていると、漸く語りが終わったのか、門番の男性がこう切り出した。


「なんでしたら、実際に見てみますか? 垂れ幕にも書いていますが、多くの方に歴史の証人となって欲しいと、瞬間移動魔法を公開していますから!」


 どうやら俺たちの事は覚えていたようだ。

 アドルさんたちと顔を見合わせ……一つ頷く。


「「「「宜しくお願いします」」」」


 という訳で、実際に見に行く事になった。

 門番の男性に案内されながら、村の中を歩いていく。

 ………………。

 ………………。

 人が居ないという訳ではないが、閑散としているというか牧歌的というか……うん。

 こういうのんびりとした空気は嫌いじゃないけど……きっとそれだけじゃ、世の中渡っていけないんだろうなぁ……じゃなくて、良いの?

 門番の男性に思わず尋ねる。


「あの~、門を守らなくて良いんですか?」

「問題ありません! そもそも、こんな田舎の村に誰か来たのは久し振りですし。魔物すら素通りするような簡素な村ですから」


 ……だから、言い方。

 オブラートに包む心を持とうよ。

 そう思いながらアドルさんたちに視線を向けると――。


「わかっているとは思うが、これから殺りに行く訳じゃないからな? 瞬間移動魔法を見に行くだけだからな?」

「大きく息を吸って……吐いて……。これで落ち着いたかな? 敵じゃない。これから会いに行くのは敵じゃないからね?」

「……二人共、私をなんだと思っているんですか?」


 アドルさんとインジャオさんが、ウルルさんを宥めていた。

 ちゃんと抑えておいてね?

 ただ、ウルルさんはそれが不満なのか、二人をキッと睨み、インジャオさんの手甲部分を外してガジガジと噛み出す。

 インジャオさんの方に手を出したのは、きっと愛故だろう。


⦅私も噛みましょうか?⦆


 勘弁して下さい。

 というか、セミナスさんは肉体がないから噛めないですよね?


⦅くっ、スキルである事が裏目に出てしまうとは。では、もし肉体を手に入れる事が出来れば、噛ませて頂く事を約束させて頂きます⦆


 はっはっはっ。

 もし手に入ったら好きにすれば良いさ。

 まぁ、そんな事はないと思うけど………………ないよね? え? ないよね?


⦅肉体を得られるよう、鋭意努力させて頂きます⦆


 ………………。

 ………………。

 鋭意は過剰じゃないかな?

 セミナスさんがそう言うと、既に決定事項のように聞こえるし、もっとこう……ん~……ね? ほら……自然の流れに身を任せるというか………………いや、ちょっと待って。

 そもそも、鋭意だろうが努力でどうにか出来る事じゃないでしょ?


⦅そうですね。さすがの私でも、現在確約は出来ない案件なのは間違いありません。ですが、約束は交わされました。それが真実です⦆


 確かにそうだけど。

 ……まぁ、良いか。

 好きにすれば良いと思ったのは本当だし。


 そんな事を考えながら門番の男性のあとを付いていくと……村を出た。

 ……え? 出るの?

 もしかして騙された? と途端に不安になるが、門番の男性が進んでいく先を見れば目的地がわかる。


 村から少し外れたところに、真新しい木造の建物があった。

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