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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第二章 竜とエルフ
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こうなるのは当然の結果

⦅……まぁ、これからが大変なのですが⦆


 セミナスさんが謎の呟きをするが、とりあえず、俺が勝った事を漸く受け入れたアドルさんたちから、まばらだけど拍手を送られた。

 いやいや、気持ちはわかる。

 戸惑いも当然だろう。


 でも、勝った事に間違いはないのだから、もう少しこう……褒め称えるような拍手をして欲しかった。

 いや、正直になろう。

 もっと心を込めて拍手を!


 シャインさんががばっと起きた。


 ……なるほど。そりゃそうだ。

 だって、倒れただけなんだし、普通に起きるのは当然。

 心を込めているからこそ、のちのちを恐れて拍手がまばらだったのか。


「はっはっはっはっはっ!」


 シャインさんが豪快に笑い出した。

 どこかで頭をぶつけたのかもしれない。

 あっ! ついさっきか。

 俺が足を掴んだせいで、頭から落ちたんだろう。


 あれ? もしかして殺される? とこれから起こる惨劇を思い浮かべていると、シャインさんは笑いながら近付き、俺の肩をバンバンと叩く。


「いや~、油断したつもりはなかったが、まさか地面に叩き付けられるとは。アキミチは自らが提示した勝利条件を満たした。私の負けだ」

「と、いう事は?」

「約束通り、ビットル王国へ行ってやる」

「ありがとうございます!」


 シャインさんに向けて頭を下げる。

 これで親友たちも更に強くなって、生存率も上がるに違いない。

 やった! やたよ! と心の中で大喜びし、頭を上げよう……あれ? 上がらない。

 両肩に手を置かれ、グッと押さえ込まれていた。


「私は素直に驚いているよ。普通に考えれば、現段階でアキミチが私に勝つ事は不可能という判断は間違っていない。なのに、それを覆したんだ」

「は、はぁ……」


 どうしよう。嫌な予感しかしない。

 暑くもないのに、つぅーっと汗が垂れる。


「つまり、アキミチには私が知らない、この戦力差を覆す何かがあるという事になるよな?」


 いやまぁ……覆った、というよりは……その、誘導して嵌めた、初見殺しっぽい何かのような……気がしないでもないような……。


「たとえば、そう……私の行動を予め知る事が出来る、『予知』みたいなスキルとか。これまで出会った事がなかったんだよな~、そういうスキル持ちに」


 だらだらと汗が止まらない。

 もし俺に「危機感知」みたいなスキルがあるのなら、全力で警報が鳴っている事だろう。

 しかし、逃げ出そうにも押さえ付けられているため無理。


 退路は断たれた。


「持っているんだろ?」

「………………」


 シャインさんから向けられているだろう視線を、サッと顔ごと逸らす。


 そんな俺の視線の先では、グロリアさんが「あっ、そろそろ洗濯物を」と言いながら小走りで居なくなり、アドルさんとラクロさんが「これから酒でもどうだ?」「良いね」とジャスチャーで会話し、インジャオさんとウルルさんは既に二人の世界を保ったままフェードアウト。

 DDとジースくんたちは、ダンスの練習を始めようとしている。


 待って! 行かないで!

 置いてかないで! 俺を戦い飢えた肉食獣の前に置いていかないで!


「正直に言ってみな、ん?」

「………………ま、まぁ、似たようなのなら」

「やっぱりな」


 そう言うと、シャインさんが押さえ付けていた手を放したので、俺は頭を上げる。

 こ、腰が……。

 シャインさんは晴れやかな満足そうな笑みを浮かべていた。

 あれ? これはもしかして、考えたような展開では――。


「じゃ、私もそういうスキル持ちとの戦いをもっと経験しておきたいし、もう一戦な!」

「………………え?」

「ばんばん攻撃するから回避してみてくれ! 私はそれでも当ててみせる!」

「………………は?」

「あぁ、安心しろ。さっきの勝負をなかった事にはしないから。ちゃんとビットル王国に行って、勇者たちを鍛えてやるよ!」

「………………あざっす」

「ただ、その前に……な」


 シャインさんが凶悪な笑みを浮かべ、視線を俺にロックオン。

 強くなる事に貪欲ですね、シャインさん。


「………………ちきしょー!」

⦅ファイト!⦆


 くそー! 大変ってこれの事か!


⦅考えている暇はありません。左、いえ右後方へ回避後、頭を下げて更に後方へ跳んで下さい!⦆


 到底逃げ切れる訳もなく、体力が尽きると同時にボコられ、シャインさんが満足するまで付き合わされた。


 いくらセミナスさんが優れていようとも、本体である俺がちゃんと動かないと意味がない、という事が骨身に染みた。


     ◇


 夕食後、散々付き合った影響か、どこかツヤツヤしているシャインさんが笑みを浮かべながら言う。


「それじゃ、二、三日準備をして、ビットル王国に向かうか」

「宜しくお願いします!」

「それで、グロリアはどうする? 一緒に来るか? 充分鍛えて一人前と言っても良いから、ここに残っても良いし、どこか別のところに向かっても良い。自分で決めろ」

「………………」


 そう問われて、グロリアさんは黙ってしまった。

 きっと、色々と考えているんだろう。

 どの選択が自分とシャインさんにとって良いか、とか考えていそうだなぁ。


⦅もっともらしい理由を告げて、色気エルフをそこのエルフと共に行かせて下さい⦆


 えっと……色気エルフって、もしかしてグロリアさんの事?


⦅はい。他に居ますか?⦆


 いや、他に居るか居ないかで問われたら、あとはシャインさんだけだから、居ないとしか答えられないけど……まぁ、俺にしか聞こえてないから良いか。

 でも、グロリアさんも行かせるの?


⦅はい。そうすれば、のちのち感謝されるでしょう⦆


 か、感謝?

 全く意味はわからないけど、セミナスさんがそう言うという事は、何かしら重要な事なのだろう。

 ちなみに、何が起こるか教えては?


⦅あとのお楽しみです⦆


 いけずっ!

 という訳で、適当な理由を言ってみる。


「グロリアさん。シャインさんと一緒に行ってみてはどうですか? やっぱり、まだ戦争中ですし、色んなところに危機があると思うんです。二人一緒の方が様々な対応が取れて、柔軟に行動出来るんじゃないかと」

「そうですね……アキミチさんの言う通りかもしれません。せめてこの戦争が終わるまでは、母と行動を共にした方が良いと、私も思います。それで良いですか?」


 グロリアさんの問いに、シャインさんはぶすっとつまらなそうな表情を浮かべる。


「………………」

「言い方が違いましたね。私も一緒に行きます」

「それで良い。一人前と認めたんだから、自分の行動は自分で決め、きちんと責任を取れ」

「はい」


 シャインさんが満足そうな笑みを浮かべた。

 そのまま俺に視線を向ける。


「それで、アキミチはどうするんだ?」

「え? 俺?」


 なんで俺? ………………あっ、そうか。そうかそうか。

 居場所がわかったんだから、このまま一緒に向かえば親友たちに会えるんだ!

 アドルさんたちも一緒だし、そこにシャインさんとグロリアさんも加わると……鉄壁じゃない?

 襲いかかって来た方に同情してしまうレベルで。


 となると、答えは決まっている。


⦅マスターと吸血鬼たちには、これから行って貰いたい場所があります。もちろん、それはビットル王国ではありません⦆


 そう来ると思ってた!

 でもほら、ちょっとくらいなら、神様たちも待ってくれるんじゃない?

 大丈夫! 神様解放は忘れてないから!


⦅私に決定権はありません。決めるのはマスターです⦆


 じゃあ、ちょっ――。


⦅補足情報ですが、この選択によって、ある一国の命運が……いえ、この世界全体の命運が決まる可能性があります⦆


 とだけ行こうと思ったけど、やっぱり今会うのは中途半端というか、どっちにもまだまだ課題があるというか、問題が山積みだしな、うんうん。

 それに、その行動も親友たちのためになるんでしょ?


⦅はい。それはもちろん⦆


 それなら仕方ない。

 グッと堪えて、会える時を待とう。

 大事なのは、共に生き残る事なんだから。


「すみません。これからまた、向かわないといけない場所があって」

「そうか。神解放の役割があるんだったな」


 シャインさんが少しだけ寂しそうな表情を浮かべたように見えた。

 それは直ぐに消え、代わりに笑みが浮かぶ。


「まっ、生きてりゃその内また会えるだろ!」

「そうですね。また会えますよ」


 俺とシャインさんの間で、少しだけ大人っぽい雰囲気が漂う。


「そうだ。ついでだし、手紙でも届けてやろうか?」

「是非にっ!」


 直ぐ霧散した。

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[一言] ワイ……シャインさん派な気がする
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