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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十章 集合
295/590

前もこんな感じだったっけ?

 翌日。朝。

 これまでの鍛錬によって鋭敏になった感覚が、何者かの侵入を捉える。


 多分、エイトが鍵開けして……いや、違う。

 エイトとは違う感覚というか……より野性的で攻撃的な雰囲気が……殺気っ!


 ベッドの上で転がる。

 勢いをつけ過ぎてベッドから落ちて頭をぶつけた。


「痛いっ!」


 頭を押さえてちょっとだけバタバタする。


「前もそんな感じだったな。成長してないのか?」


 頭上からそう声をかけられたので確認すると、ベッドの上に金髪エルフが仁王立ちしていた。

 というか、その足の位置だと、俺の大事な部分を踏み抜いているんですけど。


 だが、ここで叫んだり追及したりするのは愚の骨頂。

 まだまだ甘く、経験が足らないというモノ。

 俺は即座に行動を起こす。


 逃走を選択。


 少しでも時間と距離を稼ぐために転がりながら立ち上がり、勢いそのままに窓へ向かって駆ける。

 扉だと距離的に絶対捕まると判断した。

 あとは、窓の鍵を如何にスムーズに開けられるかだ。


 いや、ここまで来ると体当たりで突き破るのも……弁償金が怖いからやめておこう。

 そして思い出せ。

 窓の鍵の仕組みを。


 確か……つまみを上に上げると開くヤツだったはず。

 駆けながら目視で確認……OK! 思い出した通り!

 あとはつまみを上に上げれば……目測を誤って、スカッた。


 再チャンスは与えられなかった。

 腕を取られ、極められ、倒され、乗っかられる。


「……抵抗しないのか?」

「抵抗すればするほど喜びそうなので」

「間違っちゃいないが、更に痛い事になるぞ?」

「覚悟の上です」

「………………そうなってくるとつまらんな」


 決められた腕が解放され、俺の上からどいてくれる。


「ふははっ! 引っかかったな!」


 解放された事で行動を再開。

 窓に行く、とみせかけたフェイントをかけて扉へ……行こうとして足をとめる。


 扉の前には、いつの間にかエイトが陣取っていた。

 ここは通しません、と両腕を広げてアピール。


 ポンッと肩に手を置かれ、反射的にビクッと反応。


「進入したら面白いのが居たので、協力を願い出た」


 その言葉に、エイトがVサインを作る。

 う、裏切るのか! エイト!

 ず、ずるいぞ! 二人で結託するなんて!


「というか、アキミチが抵抗しない訳がない。私がそんな演技でだまされると思っていたのか?」

「あ、あははは……」


 笑って誤魔化す事は出来なかった。

 金髪エルフ――シャインさんは満面の笑みを浮かべていた。


     ―――


「全く。昨日の内に私に挨拶に来ないとか、良い度胸じゃないか!」

「それは……そう! 昨日のシャインさんはシュラさんとの模擬戦に忙しそうだったから!」

「今思い付いた言い訳をするんじゃない!」


 シャインさんの猛攻を回避する。

 ひえっ! 今のは危なかった。


 シャインさんに寝起き突撃されたあと、何故か朝の鍛錬に付き合わされるとか、エルフの里に居た時と同じ事に……。


「というか、ここってカノートさん家ですけど、勝手に使うのは不味いんじゃ?」


 普通、もっとお淑やかに……いや、シャインさんにそれを求めるのは酷か。


「変な事を考えているだろう!」


 視認出来ない速度の拳がかすった。

 当てるつもりがなかったから、かすった程度で済んだんだろう。


「いいえ、滅相もありません」

「安心しろ。変態アレとは知り合いだし、話はもうつけて許可を取っている」


 行動が速い。

 もっとゆっくり人生を楽しんでも良いと思うんですけど。


「それに、今更だろ」


 シャインさんがチラッと近くに視線を向ける。

 ……確かに今更なのだ。


 何故なら、直ぐ近くではカノートさんとシュラさんが模擬戦をしているから。

 それもかなり楽しそうに。

 あと、エイトたちとカノートさん家の執事さんが楽しそうにその様子を見ている。


「……シュラさんがどうしてここに?」

「私が連れてきた。昨日やり合って、妙に気が合ってな」


 そんな理由で連れてきて良いのだろうか?

 それに、シュラさんはシュラさんで、ちゃんと上の許可は取っているのかな?


 具体的に言えば、クルジュさんの。

 もし黙ってとなると……いや、聞かないでおこう。

 下手に聞くと、巻き込まれる可能性がある。


「それに、昨日私とやり合っていたので、シユウたちへの挨拶が出来てないからな。ついでに連れてきた」

「そういえばそうでし……ちょっと待って。その言い方だと、ここに詩夕たちが来るんですか?」

「あぁ、場所は知っているそうだからな。その方が、手間がかからないだろ?」


 なるほど。

 そのまま鍛錬に突入するんですね。

 と思ったところで気付く。


「シャインさん。一つ確認したいんですけど?」

「なんだ?」

「今この鍛錬って……いつまでというか、もしかして」

「あぁ! シユウたちが来るまで続けるぞ! なぁに、大丈夫だ! 見たところ、アキミチの動きもそれなりによくなっている! きっともつ!」


 そう言って、シャインさんは俺に向けて親指を立てる。

 嬉しそうに言っているので、褒められているのかもしれないが、なんか嬉しくないというか、そう思ってしまったら負けというか……。


 よし。頼んだよ! セミナスさん!


⦅ふむ。これから格上とやり合う可能性もありますし、マスターにとっては丁度良い鍛錬ですので頑張って下さい⦆


 俺にとっては、誰が相手でも基本格上だと思うんだけど?


⦅ですので、その経験値を上げる良い経験になるかと⦆


 いや、でも……ほ、ほら。シャインさんがセミナスさんの予測とやり合いたいと求めてきたら?


「今日はアキミチ自身の力をじっくりと確かめてやるからな! 未来予測の力とやり合うのはまた今度だ!」


 ほら、シャインさんもこう言って……。


「今度? 今じゃなく?」

「うむ!」

「それに、今度って事は、この一回で終わらないって事?」

「折角再会したからな! 毎日希望だ!」


 逃げらないとして、手を抜くと更に酷い事になるし……。


⦅ファイト!⦆


 よ、よーし。まずは、宿を変える事から始めるか。

 カノートさん家から、ドンラグ商会が用意してくれる宿へ。

 鍛錬場から少しでも距離が取れれば……せめて朝はゆっくり起きれるようになるかもしれない。


「おっと」


 そんな拍子抜けた声と共に、空から槍が降ってきて、俺の眼前を通り過ぎて床に突き刺さる。


「弾き飛ばされるとは。シュラ殿の力を、少々見誤っていたようだ」

「むふ~!」

「鍛錬とはいえ、しっかり握っていろ! 変態! こっちの邪魔をするな!」

「どうせなら、あなたに当たればよかったのに」


 シャインさんとカノートさんの間で、バチバチと火花が散る。

 ……わかっている。カノートさんがわざとじゃないという事は。

 でも、宿を変えるのはやめておこうと思った。


 また、本当に詩夕たちが来るまで鍛錬は続き……詩夕たちが来た時には、既に足腰が立たなくなっていた。


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