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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十章 集合
294/590

知らない方が楽しいと思う

「どうも、勇者の皆様。私は魔族の国で宰相を勤めている者。アキミチ様と同じように、気軽に宰相さんとお呼び下さい」


 魔族の国の人たちが使用している貴賓室。

 室内には大きな円卓があり、そこに俺と詩夕たちは座っていた。

 エイトたちは、いつものように俺の後方で控えている。


「しかし、宰相さんと呼ばれるのは……他国の宰相に悪い気もしますね。何しろ、この呼び名が浸透すれば、宰相の代表のように思われてもおかしくありませんし」


 そう言う宰相さんの表情は、それはそれで悪くない、と物語っている。

 嬉しそうだなぁ……。

 詩夕たちの方は、苦笑いだけど。


 でも、有能なのは間違いない。

 何しろ、この宰相さん……俺たちがこの貴賓室に向かうと、扉の前で待ち構えていたのである。

「どうして居るんだ?」と俺が問うと、「胸騒ぎがしましたので」と返された。


 胸騒ぎがしたから扉の前で待つとか、意味がわからない。

 それでそのまま中に招かれ、今に至る。


「……ところで、ロイルさんは?」

「初対面でいきなりこの人数は無理。危険。と、あちらに引きこもっています」


 宰相さんが指し示したのは、隣の部屋。

 なるほど。

 そういえば、そんな人だったな。


 武闘会を経て、それなりに慣れたと思っていたんだけど……面と向かって、はまだ難しいようだ。

 でも、ロイルさんは魔族の国の国王だし、出来れば詩夕たちをきちんと紹介したいんだけど。


「問題ありません。妥協案は既に得ています」


 宰相さんは、相変わらず仕事が早い。


「アキミチ様同伴で、一人ずつであればお会いするそうです」

「……俺が同伴する必要ある? 別に一人ずつ行けば良いだけじゃ?」

「アキミチ様に間に立って欲しいと」


 ……なんとなくだけど、気持ち的に間に居て欲しいだけじゃなく、物理的に間に立って欲しい……つまり、盾になって欲しいと言われているような気がする。


「それで合っているかと」


 さらっと読んでくるけど、そこは嘘でも否定するところじゃないかな? 宰相さん。


⦅間違いありません⦆


 だからって、断言すれば良いって訳でもないんだよ? セミナスさん。

 ただ、ロイルさんの性格を考えると、詩夕たちが危害を加える訳ない、と言っても通用しないんだろうな。


 これは仕方ない事かと、言う通りにする。

 まずは詩夕から……。


 ………………。

 ………………。

 特に問題も起こらず。無難に終わる。

 室内には、ロイルさんの奥さんたちも居た。


 それなのに……と思わなくもないし、実際に盾のように立たされたが……まぁ、そこはロイルさんの心の安寧のためにと割り切った。


「次の方~」


 そう言いながら扉を開けると……。


『おぉ~!』


 何やら拍手が巻き起こっていた。

 どういう事? と室内を見回すと、待っていた皆が宰相さんに注目しているのがわかる。

 出て行こうとする詩夕と顔を見合わせ、首を傾げた。


「では、続きまして、私の手元をご覧下さい」


 宰相さんがそう言うので、手元に視線を向ける。

 右手に一枚のコインを持っていて、左手には何も持っていない。

 両手を握って、右手を開くとなくなっていて……コインは左手の中に移動している。


 次は逆に、左手から右手に。

 多分、待ち時間の余興としてやっているんだろうけど……魔法がある世界で手品ってどうなんだろうか?


『おぉ~!』


 いや、俺は手品大好きなので拍手を送る。

 宰相さんってところに引っかかりを覚えるが、それはそれ、これはこれ。

 観賞中の皆も同じように拍手を送る。


 さて次はどんな手品を……ってちがーう!

 今やるべきなのは、皆にロイルさんを紹介する事である。


 詩夕を戻して、常水を連れていく。

 ………………。

 ………………。


 常水、樹さんと終わったところで、宰相さんの手品がカードを使った模様当てにバージョンアップしていた。


「では、次は戻って来られたイツキ様に選んでいただきましょう。こちらの中から一枚お選びいただけますか?」

「お、俺? わかった」

「もちろん、私は見ませんので」


 はいはい! 俺も選びたいんだけど!


「次は私か。ほら、早く済ませましょ」


 天乃が俺と腕を組んで、強引に引っ張っていく。

 ちょっ! 力が強い、じゃなくて、手品見たいんだけど!


 ………………。

 ………………。


 手品が気になっても、誰しもが俺を強引に連れて行くから満足に見る事も出来ないまま、天乃、刀璃、咲穂の紹介が終わり、最後は水連。


「ではそろそろ終わりにしましょう。最後はもちろん大目玉……瞬間移動を行いましょう」


 拍手が巻き起こる。

 ……瞬間移動?

 なんか覚えがあるネタだ。


 ………………あっ! そうだ!

 どっかの村で結界を利用したヤツ。

 思い出せて、なんかスッキリ……じゃなくて。


 まさか、今回も同じトリックなんじゃ……という事は、ここに結界が! 神様が封印されて!


⦅違います。普通にタネがあるマジックです⦆


 だよね。それならそれで……見ていこうかな。


⦅なんでしたら、タネをご説明しましょうか?⦆


 それは駄目だよ、セミナスさん。

 マジックはタネを知らない方が楽しめるんだから。


 ……ところで、やっぱりそういうのも見抜いちゃうんですね。


⦅どんなマジックでも看破してみせましょう⦆


 しても良いけど、俺には教えないでね。


「といっても、これは私が移動するのではなく、誰か協力していただける方を私を移動させる類のものです。では、誰か」

『はいはいはいはい!』


 そりゃ、皆手を上げるよね。


「では、そちらのレディを」

「よろしくお願いします」


 エイトだった。

 ……一体、いつの間に仕込んだのだろう。


「……私で最後」


 水連に強引に連れて行かれる。

 待って! どれもちゃんと見れてないから、せめて最後のマジックくらいは……駄目だった。

 女性陣の誰にも力で勝てないって……。

 俺が鍛えなさ過ぎなのか、女性陣が鍛え過ぎなのか……。


「……失礼な事、考えてない?」

「いえ、全く」


 ジト目の水連にそう返す。

 そうしてロイルさんとその奥さんたちに、水連を紹介して無事に終わるのだが……。


「最後までご鑑賞いただき、ありがとうございました」


 隣室に戻ると、宰相さんがそう締めくくって一礼。

 詩夕たちから歓声と拍手が起こる。


 ……なんだろう。目的としては無事に果たしたけど、結局手品はどれもまともに見れなかったし、なんか宰相さんに詩夕たちが取り込まれたような感じがする。


 そう思っていると、エイトが俺の方に来て一言。


「今後は手品も修得したいと思います」

「……わかった。応援している」


 ここで見れなかった分を俺に見せてくれ。

 そういう期待を込めて応援しておいた。


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