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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第二章 竜とエルフ
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まともな勝負ではありません

 親友たちのために、シャインさんと一戦する事になった。

 ………………。

 ………………。

 やっぱやめない? 他にも方法があると思うんだけど?

 誠心誠意、言葉を尽くせば――。


⦅ありません⦆


 ないってさ。

 まぁ、シャインさんが言葉だけで動くような人なら、ここまで苦労はしないか。

 せめて、軽傷で済めば良いけど………………色々と準備しておいた方が良いんじゃない?

 回復薬とかさ? まだオレンジ味が何本か残っていたと思うんだけど?


⦅問題ありません。そもそも、準備は必要ありません⦆


 ……本当に?

 どことなく不安を覚えつつも、そのまま寝た。


 翌日の昼頃、俺はシャインさんにずるずると引き摺られる。


「あの~、シャインさん」

「ん? なんだ?」

「なんで俺は引き摺られているんですか?」

「逃げないようにだ」

「……どこに向かっているんですか?」

「訓練場だ。私と一戦するんだろ?」


 ふむ。なるほど。

 昨日の今日でやるのか。

 セミナスさんが準備は必要ないと言ったけど、要はそんな短い時間で出来る準備などないって事だな。


 そうならそうと言って欲しかった。

 せめて、心構えだけでも出来たというのに……。


 いや、諦めるのは早い。

 引き摺られている今の内に、心構えを終えておこう。

 む~ん……。


「………………ファイト、アキミチくん」


 ラクロさんも一緒に来るようで、あとを付いて来ている。

 ただ、俺を応援するその目は悲壮感たっぷり。

 不安になるから、もう少しちゃんと励まして欲しい。

 せめてその目に期待感を……いや、やっぱ応えられる自信ないんで今のままで良いです。


 訓練場へと向かう途中で、マラソン中のグロリアさんと、のんびりしていたアドルさんたちが加わり、訓練場でダンスの練習をしていたDDとジースくんたちも、俺とシャインさんの戦いを見学する事になった。


 訓練場の中央で、シャインさんと対峙する。

 見学者たちは、訓練場の周囲へと移動していた。


 ただ、普通に戦っては勝負にならないとわかりきっているため、シャインさんの方から条件が付けられる。


「そうだな。一瞬で終わってもつまらないし、そこら辺のに協力を頼んでも良いぞ」

「じゃあ、アド」

「ふぅ……陽の光が……」


 アドルさんがそう呟いてへたり込む。

 いや、克服したって言ったよね?

 というか、今まで普通に過ごしていたよね?


「じゃあ、インジャ」

「ウルルの触り心地は最高です」

「インジャオの噛み心地もね」


 ……チッ。

 さっきまでそんな雰囲気じゃなかったのに、今はバラ色だ。

 ただ、俺をチラチラ見てくるウルルさんの目は、わかっているよね? と訴えかけている。

 ……あっ、はい。


「なら、ラク」

「大丈夫か! アドルゥ!」


 巻き舌気味に叫びながら、ラクロさんはアドルさんの介抱に向かった。

 いや、さっきまで普通に立っていたと思うんだけど?

 アドルさんを心配する素振りは一切なかったけど?


 一つだけわかる事は、誰も協力、手助けしてくれる気がゼロだという事だ。

 ただ、この場にはグロリアさんと、DD、ジースくんたちも居る。


 ………………グロリアさんに頼むには、なんか違う気が。

 ………………DDは論外。普通に喧嘩が始まりそうだし、俺がそれに介入出来ない。

 となると、残るはジースくんたちだけど……なんか巻き込むのに気が引けるというか。


「いや、俺だけで良いよ」

「その心意気は良し」


 シャインさんが楽しそうに笑みを浮かべる。

 ……まぁ、正確には、俺だけじゃなく、セミナスさんも居るんだけど。

 という訳で、これで良いんだよね?


⦅はい。問題ありません。マスターには私が常に付いておりますので。ですが、普通に戦っては勝機を得る事は不可能です。なので、ここは弱い事を前面に出して、ある条件を提示して認めさせて下さい⦆


 ………………。

 ………………さらっと弱いって言われた。

 まぁ、この世界の基準で考えれば、間違いない事実ではあるけど。


 でも! 元の世界基準だったら、そこそこのはずだ!

 どっちにしても強者でない事は間違いないけど。

 これでもミノタウロスを倒したんだよ!

 ……まぁ、アドルさんたちから提供された一級品の装備品頼りだったけど。

 今はその貸し出しもないけど。


 ………………頑張れ、俺。


 自分で自分を慰めつつ、セミナスさんが提示する条件をシャインさんに言う。


「えっと、さすがに今のままだと一瞬で終わるのは目に見えているので、俺からも条件を言って良いですか?」

「なんだ?」

「普通に勝つのは絶対無理なんで、シャインさんを地面に倒す事が出来たら俺の勝ち、という事にしません?」

「構わないぞ。それなら、もしかしたらが起こるかもしれないしな」


 さらっと認められた。

 え? マジで良いの? という気持ちである。


「やっぱやめたはなしだからな!」

「そんな事言う訳ないだろ。万が一という緊張感があるからこそ、常に全力を出せる」

「………………全力? 手加減は?」

「こと戦いにおいて、私が手加減をする事は一切ない」


 ですよね~。

 そんな感じですよね、シャインさんは。


 ……本当に勝てるの?


⦅はい。マスターが私の指示通りに恐れず動けば⦆


 恐れず、という言葉に不安を覚えた。

 シャインさんが足元にある石を取って、俺に見せる。


「投げた石が地面に落ちたら開始だ」


 そのままシャインさんが、ひょいっと石を投げる。

 え? もう?

 ちょっと緊張して。


⦅構え、前傾姿勢⦆


 あっ、はい。

 セミナスさんの言う通りにする。


⦅目を閉じて⦆


 はい。

 ……え? 閉じちゃったけど、駄目じゃない、これ。

 シャインさんの行動が何も見えないけど。


⦅現在のマスターでは動きを視覚する事は出来ません。寧ろ、見えている方が余計な情報となって動きが鈍ります⦆


 セミナスさんがそう言った瞬間、何かが落ちる音が聞こえたような気がした。


⦅頭から斜め後方へ捻るように倒れて下さい、今!⦆


 言う通りに体を動かすと、目の前を風が通り過ぎたような感覚が。


⦅右手を握る!⦆


 ギュッと握ろうとすると、何かを掴んだ。


⦅決して放してはいけません⦆


 言われるままに精一杯掴むが、なんか勢いがあるので体ごと引っ張られる。


⦅体重をかけて倒れて下さい⦆


 グッと力を込めて倒れる。

 目を閉じていたのでタイミングが掴めず、顔を強く打ち付けた。


「ぐべっ!」

「ふぎゃっ!」


 ……何か俺と一緒に変な声が聞こえた。

 左手で顔を撫でつつ目を開けると、視界に映ったのは衣服に包まれた、形が好みの丸いお尻。


 ………………えっと、拝めば良いのかな?


 そのお尻と繋がっている片方の足を、俺が掴んでいた。

 手を放して立ち上がり、改めて確認してみる。


「………………」


 シャインさんだった。


 ……えっと、シャインさんが地面に倒しているから……俺の勝ちで良いのかな?

 ちょっと信じられない。


 アドルさん達の方へ視線を向けると、全員が信じられないと目を大きく見開いていた。

 いや、DDだけはめっちゃ笑っている。

 あとでシャインさんに怒られるよ、それ。


 というか、これ、どういう事?


⦅開始と同時にエルフが真っ直ぐに突っ込んで来ましたので、マスターが後方に倒れ込みながら回避。エルフがそのまま通り過ぎようとした際、マスターの右手とエルフの足部がぶつかりそうになったので、そのまま掴みます。エルフの速度とマスターの倒れる勢いを利用して、倒れて貰いました。まさか掴まれたのか、という一瞬の思考の隙と、バランスを崩した事により、エルフは地面に倒れたのです⦆


 ………………。

 ………………。

 セミナスさんが起こった事を説明してくれたけど、ちょっと信じられない。

 でも、確かな現実として、シャインさんは地面に倒れている訳で。


⦅『未来予測』によりますと、マスターが目を開けていた場合、反応が遅れて失敗していました。初見でのみ意表を突けて成功する方法であり、これで決めきれていなかった場合は、勝ち筋を見つけられません⦆


 もうね、なんというか、セミナスさん凄いとしか言えない。

 ただ、セミナスさんの力は反則級みたいなモノだから、シャインさんに対して少し申し訳なく思う。


 でも、勝ちは勝ち。

 親友たちの助けになるのなら、これで良いのだ。

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