やってやるさ!
一昨日くらいにエルフ村に来た来客は、ここから東にある「ビットル王国」という国の兵士たちであると、夕食時シャインさん宅に居たラクロさんが教えてくれた。
俺はマラソン中だったので、運良く? 悪く? 見ていない。
その兵士たちは既に王国へと戻るため、エルフ村から出て行ったそうだ。
そういった事を教えてくれたラクロさんが、どうしてシャインさん宅に居るかというと、その兵士たちが求めていたのは、シャインさんだったからである。
「……なんて命知らずな」
「本当だよ。シャインが普通に頼み事を聞く訳ない……」
ラクロさんと揃って、やれやれと肩をすくめる。
「なるほど。アキミチはまだまだ余力があって、ラクロは私と楽しい会話をしたい、という事だな」
俺とラクロさんの前で、ニッコリと笑みを浮かべるシャインさん。
「……そんな真似が出来るだなんて、シャインさんの強さを正しく認識していないんですね。なんて命知らずな真似を」
「……いやその通りなんだよ。何しろ、シャインはこの世界最強クラスだよ? それだけの人物を相手にして、普通に頼む事自体が間違えていると思わないかい?」
急いで言い直す俺とラクロさん。
シャインさんは、ふんっ! とそっぽを向いた。
とりあえず、今はそれで終わったようなので、立ち上がってラクロさんと話を進める。
「それで、その国の人たちが何の用件だったんですか?」
「簡単に言えば、指南役をお願い出来ませんか? という事だよ」
「指南役? シャインさんに?」
「ははは。無茶な、と思っていそうだけど、シャインが適任の一人なのは間違いないよ。スキルに対する造詣も深く、経験も豊富なのは間違いない。だから、その経験を語るだけでも充分な教えになるんだよ」
言いたい事はなんとなくわかるけど……シャインさんだよ?
勘で避けろって言った人だよ?
寧ろ、教えられる人たちに同情してしまうんだけど。
「向こうからの要望でね。なんでも特定のスキル持ちを探しているそうで、シャインがここに居た事を喜んでいたよ……帰る頃には肩を落としていたけど。まぁ、条件を変えてまた来ると思うよ」
「え? まさか、断ったんですか? 指南役を?」
うそ~……だって、一国がお願いする指南役だよ?
どう考えても好待遇でしょ?
驚きながらシャインさんに視線を向けると、なんでもないように手を振る。
「あ? なんで私が国に頼まれたからって、はいわかりましたと応じなきゃいけないんだ。そもそも、誰を鍛えるかは私が決める。気に入ったヤツしか相手にしたくないね」
ですよね~。
相手が国だろうが誰だろうが関係ないのが、シャインさんである。
「うんうん。シャインさんはそうじゃないと」
そうだよな、と何度も頷く。
すると、シャインさんが嬉しそうに笑みを浮かべた。
「へぇ~、随分と私の事をわかったような口を利くじゃないか。なんなら、今日は一緒に寝るか? 体の方も知る事が出来るかもしれないぞ」
「寝ている間に蹴飛ばされたり、関節極められそうだから断る」
今極められた。
関節を解しながら、ラクロさんに尋ねる。
「それにしても、指南役なんか求めるなんて、その国で何かあったんですかね?」
「あぁ、そういえば、アキミチは異世界から来たのだったね。ビットル王国は、守護の要だよ。現在、大陸西部にある『軍事国ネス』が攻勢に出ているのだけど、魔王軍の攻勢は大陸東部に集中している。その攻勢を押し止めているのが、ビットル王国だよ」
「え? それって結構重要な位置付けの国ですよね?」
「そうだね。この大陸……いや、この世界の三大国の一つに数えられるよ」
「………………そんな国の指南役を断ったんですか?」
「……そういう事になるね」
いやほんと、小市民な俺からすれば、なんてもったいない! と思ってしまうが、当の本人であるシャインさんは、そんなの知るか、と面倒そうに俺たちを見ていた。
そんなシャインさんに、ラクロさんがお願いする。
「今からでも遅くないから受けてくれないかな? ビットル王国が落ちてしまうとここも危険だし、ちょっと行って鍛えてくれれば良いからさ」
「あ? 大村長だからって、私が言う事聞くと思ってんの?」
「ですよね~」
これは困った、とラクロさんが大きく溜息を吐いた。
色々と気苦労が絶えないのか、疲れ切っている。
「ラクロさん、一つ聞いても良いですか?」
「……なんだい?」
憔悴しているように見えなくもないが、受け答えしてくれるようなので大丈夫だろう。
「そもそもの話ですけど、どうして指南役を求めているんですか? 守護の要で三大国って呼ばれるくらいなら、外から呼ばなくても精強な人が多く居ると思うんですけど」
「……あぁ、なんでも、予言の神によって定められた時に召喚された、この世界を救う勇者たちの指南役を探しているそうだよ。特定のスキルで探していると言っていたから、そのスキル持ちがその中に居て、その能力を更に向上させようって事だと思う」
「なるほど。予言の神によって選ばれた勇者たちの今後のために、指南役が必要って事ですか」
「……そういう事だね」
なるほどなぁ……。
………………。
………………。
………………ん? んん?
予言の神に選ばれた勇者たちって………………それってつまり……。
「詩夕たち! 俺の親友たちの事じゃない、それ!」
これか! セミナスさんが言っていた、数日ここに居ろという意味は!
⦅はい、その通りです。世界を越えた際にマスターの友人たちはスキルを得る事が出来ました。ですが、与えられた力であるが故に、まだ十全に使いこなすまでには至っていません。そのため、指南する者が必要という事です⦆
それでシャインさんが必要なのか。
⦅その一人です。マスターの友人たちが得たスキルは多岐に渡りますので、到底一人ではまかないきれません⦆
………………そんな中、俺は何も得なかった、と。
⦅それは既に問題ではありません。私というスキルをマスターが得た以上、マスターの歩む道はウィニングロードです⦆
凄い自信満々ですね。
⦅それだけの能力であると自負していますので⦆
セミナスさんを得て、そんなに日数が経っていないのにも関わらず、既に否定出来ない。
と、今はそうじゃなくて。
つまり、これからの詩夕たちには、シャインさんの指南が必要って事で良いの?
⦅はい⦆
それだったら、もっと早くにお願いしておけば良かったんじゃない?
⦅ただお願いするだけでは、そこのエルフは動きません。このタイミングで、ある程度親睦を深めたマスターが挑む事に意味があります⦆
なるほど。
確かに、初対面の状態でシャインさんにお願いしても、断られるのは目に見えて、ちょっと待って。
今、挑むって言った?
どういう事? とセミナスさんに尋ねる前に、シャインさんとラクロさんから声がかかる。
「異世界からの勇者……そういえばそうだな」
「つまり、アキミチくんの知り合いという事か」
肯定するように頷く。
「だからシャインさん。詩夕たちにはシャインさんが必要みたいだから、ビットル王国に」
「面倒臭い。そもそも、強くなりたいなら自分たちで頑張れば良い。他人を当てにするな」
ぐぅ。やはり、シャインさんを説得するのは難しい。
⦅ですので、挑むのです。勝てば行け、と⦆
………………。
………………それしかないの?
というか、勝てるとは思えないんだけど?
⦅マスターには私が付いています。それに、この時のために、私の存在を秘匿して頂いたのですから⦆
どうやら、それ以外に選択肢がないようである。
セミナスさんがそう言うという事は勝算があるのだろう。
覚悟を固めるしかない。
俺は大きく息を吸い、吐く。
そして、シャインさんに視線を合わせる。
「なら勝負だ! 俺は親友たちを助けたい! そのためにはシャインさんに行って貰わないといけない! 俺が勝ったら、行って貰う!」
「……へぇ、それは面白そうだな。私に勝てると思っているのか? それとも、何かしらの勝算があるのか………………良いだろう。その申し出、受けてやる」
シャインさんが凶悪な笑みを浮かべた。
ラクロさんは、早まってはいけないよ……と、俺の肩に手を置き、優しい目で見てくる。
……早速、後悔した。




