まずは一気に言わせてから
詩夕たちと雑談をしていると、天乃と水連が俺を解放する。
漸く落ち着いたようだ。
天乃の理由。
「ちょっと抑えきれなくて」
……何が? えっと中二的な事だろうか?
俺が右腕の包帯的な役割を……はないか。
水連の理由。
「……ちょっと我慢出来なくて」
……何が? 意味がわからない。
そもそも、何に対してなのか、詳しくべきかもしれないけど……今じゃなくても良い気はする。
ただ、なんとなくだけど、二人共が同じ事を言っているような気がする。
どうしたものか。
「今は、これ以上の追及はやめてくれ。二人も色々と一杯一杯だったのだ。今までピンと張っていた緊張の糸が解れたから、という事で頼む」
「漸く明道に会えたんだから、その存在をちゃんと確認したかったんだよ、きっと」
刀璃と咲穂がそう言ってきた。
いや、待って。
そもそも、別に追及はしていなかったんだけど?
寧ろ、いきなり押し倒されて、何も言わずにここまで居たんだけど?
『なんというか、そういう表情だった』
刀璃と咲穂だけじゃなく、詩夕たち男性陣からもそう言われる。
………………。
………………。
なんで俺は読み取れないのに、周囲に居る人たちは完璧に読み取ってくるんだろうか。
それに、元の世界に居た時よりも、読み取り力が格段に上がっている気がする。
『気のせい』
全員が一斉に言う。
ほらね。この揃っている感。
どうやら、詩夕たちはこの世界色に染められたようだ。
でも、いくら読み取られようが、これだけはちゃんと言葉に出して言っておきたい。
「詩夕たち男性陣から聞いてはいたけど、天乃、刀璃、咲穂、水連とも会えて、無事な姿を見れて漸く安堵出来た。こうして全員が揃う事が出来て、嬉しいよ」
ちょっと涙が出てきそう。
そう思ったところで、天乃と水連が号泣しながら抱き着いてきた。
あれ? 振り出しに戻る?
助けを求めて刀璃と咲穂を見ると、二人も涙ぐみながら同じように抱き着いてくる。
え? これどうしたら良いの?
今度は詩夕たち男性陣を見るが、苦笑いを返してくるだけ。
……女性陣が泣きやんで、落ち着くまで待った。
―――
女性陣が泣きやみ、落ち着きを取り戻す。
またふとした拍子に泣きそうな雰囲気があるけど、今は落ち着いてくれた。
照れ照れと恥ずかしそうに解放されると、何故か俺も恥ずかしくなるんだけど。
でもその事には触れずに、話を進める。
といっても、大体は話し終わっているので、あと残っているのは……。
エイトたちを見ると、心得ています、待っていましたとばかりに前に出てくる。
……なんか不安を覚えるので、とまらず一気にいこうと思う。
「詩夕たち男性陣は既に会っているけど、まずこの子がエイト。最初に目覚めさせたホムンクルスがエイトなんだ」
「男性の皆様はお久し振りです。女性の皆様は初めまして。『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器・汎用型』であり、ご主人様からのご寵愛を今か今かと待ち望んでいる愛玩メイド。エイトです」
……うん。樹さんが優しい目で俺を見てくる。
「で、こっちの赤色の髪の女性が、ワン。詩夕たちと別れたあとで目覚めたホムンクルス」
「同じく『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器』だが、あたいは『特化一型』で、名はワンだ! ホムンクルスの中じゃ、長女! 最近、主にめっちゃラブい気持ちを抱いているぜ! よろしくな!」
…………うん。樹さん。うんうん頷かない。
「最後が、この水色の髪の女性が、ツゥ。最近目覚めたホムンクルス。あっ、呼ぶ時は発音に気を付けてね」
「二人と同じく『対大魔王軍戦用殲滅系魔導兵器』、私は『特化二型』で、ツゥと申します。最近はアキミチ様から何かしらを求められているようで、熱い視線を向けられる事が多いと感じています」
………………うん。樹さん。俺だけは味方だぞって表情を浮かべない。
それと、やっぱり素通り出来ない。
色々と修正を施したい。
でないと、言葉通りに受け取られると面倒そうだ。
詩夕たち男性陣は大丈夫だと思う。
エイトの事を知っているし、ワンとツゥの自己紹介を聞いても、そのまま受け取ったりはしない……と思いたい。
……樹さんだけは、阿吽の呼吸で理解してくれそうだけど。
でも、エイトたちと初対面である女性陣は、言葉通りに受け取るかもしれない。
なので、女性陣に説明を――。
「女性陣集合!」
する前に、天乃が女性陣だけで集合をかけて、部屋の隅の方へ。
行ったと思ったら、手招きでエイトたちを呼ぶ。
「「「……」」」
エイトたちから、どうすれば? と視線で問われたので、とりあえず行ってみれば? と返す。
エイトたちが合流すると、何やらこそこそと話し合いが始まった。
時折単語だけ、「異世界なら」とか、「……レム」とか、色々聞こえてくるが、全体の要領は得ない。
ただ、体が自然と身震いするのは何故だろう。
俺の意思で身震いしている訳では決してない。
いや、そもそも、自分の意思で身震いするってどんな状況?
普通はそんな事しないよね。
とりあえず、物理的な話し合いにはならないようなので、ホッと安堵。
するのだが……俺を見る樹さんの表情が更に優しいモノになる。
その表情……本当にやめませんか。
「……あの話し合い。いつまで続くんだろう」
「納得するまで……だろうね」
俺の呟きに、詩夕は苦笑しながら答えてくれる。
「とりあえず、直ぐには終わらなそうだから、ゆっくりと待とうじゃないか」
「……それもそうですね」
樹さんの提案に従って、女性陣の話し合いが終わるまで、男性陣だけで雑談を交わす。
えっと、魔族の国ってのがあって、そこの王様がアドルさんの義弟なんだけど……。
………………。
………………。
「こっちの話し合いは終わったよ」
天乃の声で気付く。
雑談に熱中していたようだ。
女性陣に視線を向けると、全員晴れやかな笑が……刀璃と咲穂が妙に疲れているように見えるのは気のせいだろうか?
でも、それとは逆に、天乃と水連はペカァ~ッと輝いている。
こころなしか、エイトたちも。
「……どうなったの?」
「綺麗に収まったわ。エイトたちは良い子ね」
「……同志を得た」
天乃と水連がそう言って、その通りだとエイトたちが頷く。
肩まで組んで仲の良さをアピール。
……なんだろう。
危険。混ぜ合わせ禁止。
という言葉が脳裏に浮かぶ。
もう遅いけど。
「まぁ、仲良くなったのは事実だ。そこは間違いない」
「収まるべき形に収まった、みたいな感じかな?」
刀璃と咲穂がそう言うって事は、それで間違いはないんだろうけど……俺を不安にさせる要因がある。
「おめでとう! おめでとう!」
樹さんが立ち上がって、俺に向かって拍手を送っているのだ。
優しい表情といい、拍手もやめてくれませんか。
⦅受け入れましょう⦆
……セミナスさん。何を?




