どっちで読んでも意味は同じ
朝から盛況なドンラグ商会に入る。
受付カウンターには、晴れやかな笑顔の受付のお姉さんが居た。
「いらっしゃいませ。元会長と現会長との面会でしたね。今呼びに行かせますので、少々お待ち下さい」
受付のお姉さんがパチンと指を鳴らすと、受付カウンターに居る別の人が店の奥に駆けて行く。
そんなに急がなくても良いですよ。
慌てて走って転んで怪我でもしたらアレですし……アレってなんだろう。
というか。
「今日は話が早いですね」
「憂いが全て消え去りましたので」
確かに、憑き物が取れたかのような笑みだ。
受付のお姉さんは、エイトたちに向けて親指を立てる。
エイトたちも親指を立てた。
DDの時といい、どうしてこう俺を関わらせないのだろうか。
……いや、受付のお姉さんのは、俺が積極的に関わらないようにしていたからか。
なら別に良いかと思っていると、店の奥からダオスさんとハオイさん、それとハオイさんの娘であるノノンちゃんが現れる。
ノノンちゃんは俺たちに気付くと、笑みを浮かべて駆け寄ってきた。
進行方向的に、俺を目指しているっぽい。
なので、受けとめようと両腕を広げるが、瞬間移動してきたかのようにエイトが俺の前に現れて、ノノンちゃんから守るように立ち塞がる。
「ご主人様は、エイトが守ります!」
いや、今は守ってもらう必要性はないと思うんだけど。
そう思うのだが、エイトとノノンちゃんはがっぷりと組み合う。
「くっ。相変わらず、可愛い少女というキャラがエイトと被っていますね」
「違うよ、エイトちゃん。ノノンは、超可愛い少女キャラだから」
「なら、エイトは超きゃわいい少女キャラで」
「なら、ノノンは超々可愛い少女キャラで」
……なんだろう。
一周回って仲良い感じ?
「親友」と書いて「ライバル」と読む。
「ライバル」と書いて「親友」と読む。
みたいな雰囲気がある。
「どうも。お久し振りです」
「あっ、どうも。お久し振りです」
ダオスさんがなんでもないように挨拶してきたので、挨拶を返す。
ハオイさんは……娘最高! とノノンちゃんの奮闘を微笑ましく見ている。
カメラとかあったら、バシャバシャ撮りまくっていそうだ。
「ここで話はなんですので」
「あっ、そうですね」
ダオスさんの案内で、前にも行ったダオスさん家に、ワン、ツゥと一緒に向かう。
エイト、ノノンちゃん、ハオイさんは……まぁ、気が済んだら戻って来るだろう。
―――
リビングでくつろぐ。
「ダオスさん。部屋を用意してくれていたようですけど、お断りして申し訳ありません」
「いえいえ、お気になさらず。アキミチ様であれば、いつでもご用意致しますので、必要になればいつでも仰って下さい」
「ありがとうございます」
これで俺に憂いがなくなったという事もあり、このあとはダオスさんと雑談をし、ワンとツゥは、ダオスさんの奥さんとハオイさんの奥さんと一緒に女子会トークをしている。
あっちは……男子禁制なので関わっちゃいけない。
ドンラグ商会は……更に成長しているようだ。
本当に世界規模レベルになりそうな雰囲気。
凄いなぁ……と思っていると、エイト、ノノンちゃん、ハオイさんが戻ってくる。
エイトとノノンちゃんは、何かをやり切ったような晴れやかな表情。
多分、何もやり切っていない。
そして、当然のように俺の太ももの上に座ろうとしてくる。
あっちの女子会の方に参加しなさい。
―――
翌日。朝。
特にこれといった事は起こらない……はず。
だから、朝起きた時に、エイト、ワン、ツゥの誰かが居るのは普通の事。
「……そこはせめて、三人じゃなくて誰か一人で」
「協議の結果です」
エイトがそう言って、これはもう覆りませんと一礼。
いや、協議の結果と言うけど、そんな協議をした覚えはない。
そこは俺も加えて協議しないと駄目なんじゃないだろうか?
当事者の一人だよ? 俺。
しかし、もう決まった事。
受け入れるしかないようだ。
「……なら、施錠したはずだけど」
俺の呟きに、エイト、ワン、ツゥが寝室から出て行く。
ベッドから起き、ガチャリと確かに施錠する。
カチャカチャッと音がしたかと思うと、ものの数秒で扉が開く。
「チャッチャラ~」
自信満々に効果音を言うエイト。
ワンとツゥは、そんなエイトに向けて手をヒラヒラしている。
そうだよね。
ここはカノートさん家で、エイトはカノートさん家の執事さんに解錠術を習ったんだから、そりゃ簡単に開くよね。
それと、習った解錠術を見せたかったのかな?
きっとそうだろうと思って、とりあえず拍手を送る。
エイトは腰に手を当てて、更に自慢気だ。
………………。
………………。
紙とペンを取り出し、「とても高価な壺を置いています」と書いた紙を扉に貼り付けて閉める。
……少し待つが、施錠していないのに扉が開く様子は見えない。
攻めあぐねているようだ。
扉を開けると壺が割れるかもしれないという思考にとらわれたのだろう。
しかし、それは文面の仕掛けに気付いていない証拠。
文面には、どこに? を書いていない。
つまり、扉のうしろに壺はないのだ。
室内のそこの戸棚の上に置かれているので、嘘ではない。
簡単な引っかけ問題だ。
そのまま気付かず、扉の前で悩み悶え続けるが良い。
ふはは、と心の中で笑っていると、扉が普通に開いた。
「馬鹿なっ! どうやって見抜いて」
俺の驚愕に、エイトとワンが寝室の窓を指差す。
窓に視線を向ければ、ツゥがニッコリ笑顔で軽く手を振っているのが見えた。
……そういえば、バルコニーで繋がっていたっけ。
とりあえず、アレだな。
朝起きたばかりのテンションでやったから……なんか冷静になると恥ずかしくなってきた。
あと、なんか悔しい。
不貞腐れて、二度寝した。
―――
それから数日後の昼頃。
朝から鍛錬して、美味しい昼食をいただいていると、カノートさんに王城から呼び出しがかかった。
「……ふむ。どうやら、私だけではなく、アキミチたちもだね」
「え? 俺たちも呼び出し?」
……何かしただろうか?
該当がなさ過ぎて困る。
……アドルさんたちが呼んでるのかな?
でもそれなら、向こうから来そうだけど。
「どうやら、漸く着いたようだよ」
カノートさんの言葉にピンと来る。
急いで支度して、王城に向かう。




