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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第十章 集合
286/590

考え過ぎて眠れない時がある

 翌朝。普通に目が覚めた。

 なんだろう……凄く快適な朝だ。

 理由として考えられるのは……ベッドがふかふかだったから、とかだろうか。


 よく考えてみれば、ここは貴族の屋敷。

 物のレベルが他とは違うのかもしれない。


 それと、静かな朝でもある。

 珍しくエイトたちが誰も居ない。

 一体どこに……と思っていると、窓から見える少し離れた場所に、たくさんの火の玉と水の玉が浮かんでいるのが見えた。


 あの感じだと……ワンとツゥかな。

 ……何かを狙っているかのように勢いよく飛んでいて、新しい玉が次々現れている。


 目標は……きっと人だな。

 この屋敷の主だろう。決着、着いてないしね。


 となると、残るエイトは……寝室の外に気配を感じる。

 それも、二人分。

 一体誰と……と、音を立てないように扉を少し開けて、こっそり様子を窺う。


「そうです。それでこう回し……こちらを動かして……」

「なるほど。こうすれば良いのですね」

「そういう事です。筋が良いですね。教え甲斐があります」

「ありがとうございます。これで、ご主人様が施錠をしようとも、エイトが突破出来る可能性が上がりました」

「頑張って下さい。執事として、応援しております」

「頑張ります」


 エイトは、カノートさん家の執事さんから、何やら教授を受けていた。

 何やら危険な感じがする。


⦅問題ありません。私の施錠を解く事が出来るのは、私だけです⦆


 おぉ! じゃあ、いざという時はセミナスさんが施錠してくれると?


⦅……Zzz⦆


 寝てるっ!

 いやいや、そこはせめて確約してから寝て欲しかったんだけど?

 というか、セミナスさんって寝る必要あったっけ?


⦅いえ、ありませんが、そこは深く考えてはいけません。マスター⦆


 そこは答える!

 というか、起きてる!


⦅マスターを寝かしつけるために起きました。さぁ、もう一度惰眠を貪りましょう。羊が一匹……羊が二匹……⦆


 リアルで数えられても、そう簡単には眠らないと思うんだけど。


⦅羊が三匹……羊が四ひ、ふと疑問なのですが、羊の数え方というのは、「頭」の方だと思うのですが⦆


 ここでその疑問?

 聞いてくるって眠らせる気がないんだろうか?


 でもとりあえず、数が多い場合は「匹」で数える……みたいな事をどこかで見た覚えがあるね。


⦅なるほど。つまり、この睡眠方法は、数多く数える事が前提であるため、直ぐ眠れる訳ではない、という事でしょうか?⦆


 ……そこまで深く考えると、逆に眠れないような気がするんだけど。

 いや、でも……と考えている間に、二度寝した。


     ―――


 再び起きると、いつも通りの朝が始まる。


「………………」

「………………」

「どうして俺に向かって頭頂部を差し出している」

「先ほど、ご主人様が起きるまでの間に、エイトは新たな解錠術を学び、マスターしました」


 知ってる。さっき見たから。


「……それで?」

「褒めて下さい。具体的には、なでなで希望」

「いや、しないから」


 拒否すると、エイトが驚きの表情を浮かべる。

 そもそも、起きて朝一番にする事ではないと思う。


 何より、エイトが新たな解錠術をマスターしたって事は、俺の身がより危険になったという事じゃないだろうか?


「ふむ。おかしいですね」

「何が?」

「エイトのような美幼女になでなで出来るとなれば、それはする側にもご褒美になると思っていたのですが」

「そんな考えは捨ててしまえ!」


 朝から大声を出して、なんか疲れた。


     ―――


 朝の支度をしている間に、ワンとツゥが戻ってきた。

 案の定、朝からカノートさんを相手に模擬戦を……いや、この話には触れないでおこう。うんうん。


 いい汗掻いた……みたいな様子だから、楽しかったんだろうな、という事だけはわかる。

 わかるけど……せめて土埃は払ってから戻ってきて欲しかった。


 ワンとツゥが土埃を払うために朝風呂を利用するなど支度をしている間に、俺も朝食をいただく。


「「紅茶です」」


 エイトと、カノートさん家の執事さんから、同時に紅茶が出される。

 間に俺を挟んだ状態で。


 何やら空気がピリついて、エイトと執事さんの間に火花が散ったような気がした。


「ご主人様はエイトのご主人様です。エイトが淹れた紅茶こそが一番……いえ、唯一であり至高です」

「お気持ちは理解出来ます。しかし、ここは私の主の屋敷で、私はこの屋敷の執事長。お客様に最高のおもてなしをするのも、私の仕事です」


 いやもう、完全にバチバチしている。

 そんな二人の視線が、俺に向けられた。


 ……どちらを飲みますか? と言われているような気がする。


 ………………。

 ………………。

 ワン、ツゥ……早く戻って来て。


⦅で、どちらを飲むのですか?⦆


 セ、セミナスさん! どっちを飲むのが正解?


⦅私はただのスキルです。マスターの意思を尊重します⦆


 今まで尊重された事あったっけ?

 ……こうなったら仕方ない。


 右手にエイトのカップ。

 左手に執事さんのカップ。


 口を大きく開き、両方を一気に飲んだ。


「……美味いという事だけは確か」


 カップを置いて感想を言った瞬間、新たに注がれる。


「………………」

「「どちらを飲みますか?」」

「どっちも美味しいって事じゃ……駄目?」


 問いかけてみるが、ニッコリ笑顔でただ俺を見てくるだけ。

 朝起きた時は、仲の良い師弟関係みたいなのが出来上がっていなかったっけ?

 今はそれが欠片も見られない。


「……勘弁して下さい」


 頭を下げると終わった。

 いや、今度は二人で紅茶の試飲会を始め出す。


 ……最初からそうして、そこで結論を出してからこっちに来てくれないだろうか。


     ―――


 ワン、ツゥと合流して、昨日約束を取り付けたドンラグ商会に、ぶらぶらと歩きながら向かう。

 カノートさんから、早朝鍛錬に満足した事を言われるのと同時に、一緒に早朝鍛錬をやらないか? と誘われた。


 起きれないので無理、と断っておく。

 ……まぁ、実際は起きようと思えば起きられると思うけど、今は体を休める事を優先したい。

 昨日までの鍛錬で、もうボロボロなんです。


 ドンラグ商会に着く前に、セミナスさんに尋ねる。

 そういえば、詩夕たちはいつ頃着くのかわかる?


⦅道程が順調であれば、三、四日ほどです⦆


 もう少し時間がある訳ね。

 その間、どうしていようかな……と考えている間に、ドンラグ商会に辿り着いた。


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