体験しておく事は大事だよね
ガラナさんたちの出発まで、のんびりと過ごし……たかった。
それは無理だったというか、巻き込まれたというか。
きっかけは、最近刺激されて更なる強さを求めるのに貪欲なアドルさんとインジャオさんに、ウルルさん。
「それで、アキミチよ。どうすれば良いのかを教えて欲しい」
早速とばかりに尋ねてきた。
もちろん、その答えを提示するのは俺ではなく、セミナスさん。
伝えるのは俺だけど。
まずは、アドルさん。
「えっと……今はもう少し基礎的な部分の底上げをして欲しいそうで、丁度良い相手を用意するから、それと模擬戦をして下さい、と。本格的なのはもう少しあとから、だそうです」
「模擬戦? 誰とだ?」
アドルさんが俺を指差す。
無理無理、と顔と手を振る。
「『あぁ~、誰か強いのと本気の模擬戦したいな~』と言って下さい」
「……? 意味はわからんが」
そう言いつつも、アドルさんは言ってくれる。
「呼んだ?」
釣れたのはシュラさん。
どれだけ地獄耳なんだろう。
でも、こっちに来て良いのだろうか?
いや、自由行動出来るって事は、準備も終わっているし、説教も終わった……はず。
………………いや、深くは追究しない。
知ってしまうと巻き込まれるのはこちらだし、それは自己責任である。
アドルさんとシュラさんは、「模擬戦! 模擬戦!」と言いながら、どこかに行った。
……お互い、頑張って下さい。
次いで、インジャオさん。
「えっと……インジャオさんは……まずは骨の硬質化を更に進めた方が良いみたいです。防御力もそうですが、今より強い武技を身に付けた場合に、骨が耐えられるように、と」
「なるほど。まずは自己強化。更なる強さを得た場合に、その強さを充分に発揮するための土台となる部分を整える訳か」
理解が早くて助かります。
「で、それをウルルさんに手伝ってもらいたいようです」
「もちろん! 任せて!」
ウルルさんは問題ないと親指を立てる。
インジャオさんのためならって感じかな。
「で、出発まで時間はありませんが……」
王都近隣の地図を用意して、何か所かに丸を書いていく。
「丸で囲ったところに良い鉱石があるようなので、発掘を」
「「任せて!」」
こちらも話が早い。
いつの間に取り出したのか、それぞれ大きなスコップとツルハシを持って、「発掘! 発掘!」と言いながら出ていった。
ご丁寧に、ウルルさんはヘルメットも被って。
……この世界でも、あの姿がスタンダードなのだろうか。
これであとはのんびり出来るかと思ったが、そうではなかった。
「ご主人様。周囲が動いていますと、たとえ動く必要がなかったとしても、何か動いていた方がいいような気になりませんか?」
「言いたい事はわかるが、エイトたちは別に無理して動く必要はないんじゃないか?」
「いえ、私たちがこれ以上の強さを求めるのなら、造り出した神共が必要なのです」
エイトがきっぱり言う。
ワンとツゥも同意するように頷く。
そっか。エイトたちを造った神様たちが必要なのか。
「なら、なんで動いた方がいいなんて気に?」
「ご主人様がそういう気になったかと」
「……なるほど。俺も鍛えないのか? と言いたい訳だ」
「はい。エイトたちは、そのお手伝いが出来ないかと思いまして」
いや、俺としてはのんびり――。
⦅それは丁度良いですね。今後、魔法を使用する者が現れるかもしれませんし、様々な魔法を体験しておくのは良い経験となります。時間もある事ですし、今後のためにもお願いします⦆
セミナスさんがそう推奨する以上、俺に逃げ場はない。
「ここは心を鬼にして、大奮発します」
「鬼にする必要はないよね!」
エイトが大量の土の玉を出現させる。
「大丈夫! 主なら出来るって!」
「限度、限界って言葉を知ってる?」
ワンが大量の火の玉を出現させる。
「アキミチ様。出来る出来ないではなく、殺るか殺らないかです」
「今、ニュアンスがおかしくなかった?」
ツゥが大量の水の玉を出現させる。
……いやいや、無理無理。
てか、その前に。
「せめてそこは一人ずつじゃない?」
「「「姉妹の絆です」」」
「だから一緒に行動するのか。納得……出来るか!」
⦅多角的な攻撃に対する良い経験になりますので……お覚悟を。あっ、マスターの瞬間的な判断能力を上げるために、今回、私は指示しませんので⦆
……死ねと?
⦅大丈夫。威力に関しては、きっと手加減してくれています。少し強めにしっぺされる程度だと思われるので、我慢して下さい⦆
なんでそこであやふやなの?
確定じゃないの?
⦅指示しませんので、マスターがどれに当たるのか言えません⦆
当たる事が既に確定している言い方!
いや、俺も避けきれるとは思っていないけど。
⦅それに、誰にだってミスはあります。可愛いミスだとでも思って、笑って許してやって下さい⦆
可愛いミスと言える結果にはならないと思うけど?
⦅ファイト! 生き残って下さい、マスター。これもマスターのためです⦆
逃げられなかった。
でも、生き残りはした。
それと、しっぺレベルじゃなかった。
―――
あっという間に、出発の日となる。
記憶が少し飛んでいるのは、それだけ濃密だったからと思いたい。
決して、エイトたちによる弾幕のような魔法攻撃の被弾によってもたらされた結果ではない事を願った。
これから、獣人国、魔族の国を巡って、ラメゼリア王国に向かう。
向かうのは、俺、エイトたち、アドルさんたちに、軍事国ネスからは、ガラナさんとその妹のカリーナさん、クルジュさんとシュラさんに、あとは五十人くらいの一団。
この一団は、護衛の騎士や兵士さんたちだけじゃなく、身の回りの世話をする執事やメイドさんたちに、文官さんたちも加えてだ。
ガラナさんの留守は、この国の宰相さんがどうにか切り盛りするらしい。
「……大丈夫なんですか?」
起こった事が事なので、念のための確認。
「大丈夫です。それに、宰相は私以上に敵対者に対して容赦がありませんので、いざという時の交戦許可も出していますから」
殴って黙らせるタイプなのかな?
⦅もしまた何か起こった場合を想定すると……なんでしょう。この、あと一ピースで終わるジグソーパズルが砕け散ったかのような感覚は……。それとも、トランプタワーを……。よろしい。戦争を希望するというのなら、私もありとあらゆる枷を解き放って、徹底的に相手をしましょう。泣きながら真っ裸の土下座をしても許されるとは思わないように⦆
まだ起こってもいない事で怒らないように。
大丈夫。何も起こらないから。
きっと、この国の宰相さんがどうにかするだろう。
ちなみにだが、俺たちが上大陸から戻って来ると、援軍で来た人たちの中で、ウルトランさん、ウルアくん、フェウルさんの王族と、一部の人たちは獣人国に戻っていた。
先に準備をして、この一団と共にラメゼリア王国に行くためだ。
かかる日数を少しでも短くするためだろう。
それと、忘れてはいけない一団が一つ。
DDたちだ。
別に行動を共にしている訳ではないんだけど……まぁ、ね。
「ラメゼリア王国に戻りますけど、どうします?」
「ラメゼリア王国? あぁ、城をバックに踊ったところか。先に行け。そちらの移動速度に合わせると遅くて仕方ない。適当に向かう」
まぁ、そうだろうね。
そっちは飛べるんだし。
という訳で、俺たちとガラナさんたちで出発した。




