添え物かどうかは、個人の見解だと思う
床にぶつかって光る玉が割れ、一瞬の閃光で目を閉じる。
開けた視界で確認すれば、光る玉が割れたところに、体育座りをしている二十代くらいの男性が居た。
白髪で顔は……まぁ、普通。いや、どちらかといえば良い方じゃないだろうか?
体格は細身だが引き締まっていて、軽装だが要所はしっかり守られている感じ。
だが、一番注目すべきは、その背中。
見事な装飾が施された大盾を背負っている。
見た目で判断するなら、盾の神様。
ただ、どうして体育座りをしているままなのかがわからない。
視線も床を見ているだけで変わらず……なんか大盾だけじゃなくて、心の闇も背負っている感じ。
……声、かけた方が良いよね?
いや、でも待てよ。
俺の脳細胞が冴え渡る。
俺のは剣の神様の相手で手一杯だし、こちらはエイトたちとアドルさんたちに任せても良いんじゃないだろうぁか?
わざわざ俺が行く必要はないよね。
そう思って視線を向けると……あれ? なんか距離が出来ていない?
さっきよりも、ちょっと離れているような気がするんだけど。
ちょっとこっちに近付いて来て欲しいというか、視線を合わせて欲しい。
⦅諦めて声をかけて下さい⦆
セミナスさんがそう言うって事は、それしか道がないようにしか聞こえないんだけど?
⦅それしか道がありません⦆
セミナスさんが否定してくれれば、まだ希望があるって事になるんだけど?
⦅わかりました。では、他に道がありま……せん!⦆
でしょうね!
という訳で、早々に諦めて新たに解放した神様に声をかける。
「えっと、盾の神様? で良いんですよね?」
そう声をかけると、体育座りしている神様から、弱々しい視線が向けられる。
「そうだけど……きみは……僕に声をかけてくれるのかい?」
「……いや、はい。えっと、今かけていますけど?」
「こんな添え物でしかない僕に?」
……添え物?
「……どういう事ですか?」
「決まっているじゃないか。僕は所詮、盾。ご飯にふりかけ、パンにバター、サラダにドレッシング……盾は剣の添え物でしかない。あってもなくても一緒……主人公じゃない」
儚げな笑みでそう言う盾の神様。
うん。なるほど。最後の一言でわかった。
盾という事は、剣の神様とセットで戦う事が多かったはず。
現に、こうしてセットで封印されていたし。
剣の神様の主人公発言を隣で聞き続けて……こうなった可能性は高い。
⦅概ねその通りです⦆
当たっても嬉しくないのはなんでだろう。
つまり、原因は剣の神様にある! と視線を向けると、何やら剣を抜いて振り、いちいちポーズも取っている。
「この剣の輝きに誓って、俺は世界を救う!」
「俺は剣! 剣は俺! 今! 一つになって全てを断ち斬る!」
「剣の神の名において、斬れぬモノなし!」
……よし。放っておいても大丈夫そうだな。
今は盾の神様を優先しよう。
「えっと、盾の神様。そう自分を卑下しなくても良いと思いますけど」
「そんな事はないさ。きみも思い出してごらん。世の主人公と呼ばれる者たちを。……盾を持っているのなんて、極少数だよ。大抵皆、武器一つで戦っている。基本は回避。防御は鎧頼りとかで」
それは……そんな事は……うん。なんだろう。
ちょっと否定しづらい部分がある。
かくいう俺も、盾より回避がメインだし。
「……きみも、そういうタイプだよね? 盾が邪魔なんだよね?」
「いや、そんな事はないというか……」
盾の神様の、良いよ良いよ。気にしていないから、という儚げな笑みがつらい。
⦅面倒な神ですね。もうスキルだけもらって、そこらに捨てておきましょう。いえ、消滅されると恩恵の問題もありますし、神共に安全圏まで連れて行ってもらい、あとは放っておいても良いでしょう⦆
いやいや、それはさすがにどうなの? セミナスさん。
でも、いつまでもこのままは困るので、どうにか立ち直らせ……ちょっと待って。
え? スキル? もらうの?
⦅はい。もらいます⦆
……話の流れ的には、盾の神様からだけど、もしかして剣の神様からも?
遂に、剣がまともに振れるように?
心の中に光明が降り注ぎ――。
(いえ、盾の方だけです。剣の方はもらってもマスターでは活用出来ませんので⦆
ですよね。うん。わかっていたよ。
だから、悲しくなんてないやい。
盾の神様と同じく体育座りしたくなるのは何故だろう。
⦅今更ですので、お気になさらず⦆
……そうだね。確かに今更だ。
変化はないけど、これまでと変わらずだし、気にしても仕方ない。
⦅いえ、盾に関するスキルがあれば大きく違いますので、変化はあります⦆
あるらしい。
具体的にどう変わるかはわからないけど。
でも、セミナスさんが必要と判断しているのだ。
そこに疑いの余地は、俺の中に一切ない。
「えっと、盾の神様」
「……きみはこんな添え物の神である僕にも優しく声をかけてくれるんだね」
「いや、その言い方だと、盾の神様じゃなくて、添え物の神様になっちゃいますけど?」
「それも良いかもしれない」
変なところで前向きだな、盾の神様。
「でも、それは困ります」
「困る? どうして?」
「盾に関するスキルが欲しいので」
そう言うと、盾の神様が大きく目を見開いて驚きの表情を浮かべる。
「……い、いやいや、そんな訳ない。きっとこれは幻。心が見せる桃源郷」
まだ余裕があるんじゃないだろうか?
「いや、本当に。なんか、どうにも俺には武器にというか攻撃に関するモノに相性がとことん悪いらしくて。身を守るためにも、今以上の防御系スキルが必須なんです」
盾の神様がジッと俺を見てくる。
なんか見定めているような感じを受けた。
そして、盾の神様の表情がパァ……と花が咲くように輝く。
「本当だね! 確かに、きみには武器というか攻撃に関する才能が壊滅的だけど、それに反比例するように、防御に関する才能がダントツだね! ここまでの才能はこれまで見た事がない! 正に防御がメイン! 盾が主役!」
壊滅的とか、そこまで言わなくてもよくない?
そう思っていると、盾の神様が何やら両手の人差し指を突き合わせながら尋ねてくる。
「心の友って思っても良いかな?」
「……好きにして下さい」
「ありがとう! なら、心の友のために、最高の盾スキルを与えるよ!」
そう言って、やる気に満ちた盾の神様が光球を生み出し、それを俺に押し当ててくる。
これで良いのかな?
⦅はい。最高の結果です⦆




