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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第九章 亡国・武国ドレワーグ
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別章 対 副官 インジャオ編

 元々その場に存在していた国の名は、「武国ドレワーグ」。

 上大陸にあった国の中で、最後まで大魔王軍に抵抗した、今は亡き国である。

 大部分は風化して荒廃していようとも、確かにそこに国はあったのだと証明する程度の形は未だ残っていた。


 その中の一つ。

 廃城と呼ぶに相応しい様相の城。その謁見の間にあたる部分。


 人の倍以上の身体を誇る剣極鬼でも、周囲を気にする事なく動けるほどに、謁見の間は広大だった。

 この城の要所は、謁見の間と同じく広大な造り。

 この国が存在していた頃、如何に栄えていたかがよくわかるだろう。


 その場で再び、人類と大魔王軍は相対する。


 人類側は、アドルとインジャオ。吸血鬼と骸骨騎士。

 大魔王軍側は、剣極鬼と盾極鬼。それぞれが別々の魔王の副官の一体。


 魔王に対して浅からぬ因縁があるアドルとインジャオ。

 その因縁を思い出してか、抑える事なく、濃密な殺気が垂れ流される。

 二人の殺気が向かう先に居るのは、当然剣極鬼と盾極鬼。


 常人であればまともに動けないような殺気にあてられ、射殺すような視線を向けられようが、剣極鬼と盾極鬼は笑みを浮かべる。

 心地良いとでも言わんばかりに。


「どうやら、我らが主君に対して、何か思うところがあるようだ」

「だが、その思いが届く事はないだろう。ここで死ぬ事になるのだからな」


 そこで我慢の限界であったかというように、アドルとインジャオが一気に前へ飛び出す。


「やれるものならやってみるが良い!」


 アドルとインジャオはどちらがどちらの相手をするかを事前に決めていたが、奇しくもその取り決めに変更はなかった。

 何しろ、元々狙っていたのが、因縁のある魔王の副官の一体だったのだから。


     ―――


 インジャオが向かった先は、大剣を持つ剣極鬼。

 数日前にも相対した、魔王ヘルアト・ディダークの副官の一体である。

 因縁のある魔王ヘルアトの副官の一体という事もあり、インジャオは様子見をせず、最初から本気だ。


 インジャオは大剣を抜き、振り上げる。

 対する剣極鬼は、大剣を振り下ろす。

 二本の大剣がぶつかり合い、激しく大きな火花が飛び散る。


 本来、インジャオの体躯であれば、大剣を振り下ろす事から始める場合が多かったのだが、今回は相手の方が大きいため、振り上げるという動作から始まった。

 また、互いの大剣がぶつかり合った事で、柄まで伝わる衝撃で互いが気付く。


 大剣の性能は、ほぼ同等であるという事に。

 大剣の性能で、有利か不利か決まらない事に。

 つまり、この戦いは、身体能力、もしくは剣の技量の優劣によって、その行く末が左右される事を。


 先に動いたのは、剣極鬼。

 当然の選択を取る。


 剣極鬼が大剣を振り上げ、振り下ろす。

 インジャオは大剣で受けとめるが、鍔迫り合いに持ち込まれ、そのまま一気に押し込まれていく。

 何しろ、体躯という観点で見れば、剣極鬼の方が上なのだ。

 特に筋肉量に関していえば、インジャオは骸骨なので全くない。

 それでも大剣を振る事が出来ているのは、魔力で代用しているのだ。


 なので、理論上魔力がある限りは代用する事が出来て、より力が増していく事が出来る。

 ただ、それは無理だった。

 器となる身体に限界が存在し、上限があるのだ。

 何事にも適切な形というモノがあり、許容値を超えると自壊してしまうのは自明の理。


 インジャオが現在の許容出来る限界値まで力を増しても、単純に力は、身体能力は剣極鬼の方が上のため、押し込まれていくのだ。


 それがわかっているからこそ、インジャオは大剣をそらして鍔迫り合いから逃れ、一歩前に。

 身体が倍以上違うため、小柄な者が懐に入った時のやりにくさを狙ったのである。

 だが、剣極鬼もそれは理解していた。


 剣極鬼は大剣を巧みに回し、柄部分をインジャオに押し当てて飛ばす。


「くっ」


 もろに受けたインジャオは押し飛ばされるが、大剣を床に刺す事でそれほど遠くまで飛ばされる事はなかった。

 反応したのは、剣極鬼。


「今伝わってきた感触。その鎧の中は、ほぼ空洞ではないか?」

「魔王ならまだしも、その副官でしかない者に語る言葉はない」


 インジャオが床に刺した大剣を抜いて構え、剣極鬼に向けて一気に襲いかかる。


「そうだな。鎧の中などどうでも良い。我らはただ、殺し合うのみだ」


 インジャオが大剣を振るい、剣極鬼が大剣を振るう。

 互いの大剣がぶつかり合うたびに大きな火花が散り、互いの姿を照らし出す。


 大剣がぶつかり合っているだけのように見えるが、実際は違う。

 剣技を繰り出しては防がれているのだ。


 一振り一振りが相手を倒すために振るわれているのだが、決めきれずにいる。

 また、確かに必殺の意味が込められているが、それでも相手の隙は逃さまいと集中し続けていた。

 ほんの数秒か、ほんの数分か、剣戟が続いた事で、剣極鬼は悟る。


 大剣の性能は互角。身体能力は自分の方が上。

 それでも決めきれないという事は、技量は相手の方が上だという事を。


 正しくその通りであり、技量はインジャオの方が勝っていた。

 だからこそ一気に勝負は決まらず、未だに戦い続けているのだ。


 それでも、いつかは決着の時がくる。

 先に追い詰められてしまったのは、インジャオ。


 体躯が違うという事は、保持しているスタミナが違うという事であり、それはそのまま各部の耐久力も違う事を意味している。


 今のインジャオは骸骨という事もあってスタミナは魔力がある限りという制約は付くが、無尽蔵に近い。

 だが、各部の耐久力は違う。


 補強は出来ても、魔力は限りあるのだ。

 打ち合い続ける限界が来た、という事である。


 最初にきた限界は、手。

 大剣を強く握っていたはずなのに、剣極鬼の振るう大剣を受けとめた衝撃で、インジャオは大剣を弾き飛ばされてしまう。


 それは致命的な隙。

 剣極鬼の振るう大剣を防ぐ術をなくしたようなモノだ。


 故に、ここで剣極鬼が振るった一撃は、今日一番の勢いと鋭さを持つ必殺だった。


 横薙ぎに振るわれる剣極鬼の大剣。

 それは、熱したナイフでバターを切るように、容易に人体を両断せしめるモノだった。


 だがここで、両者共に予想外の事が起こる。


 剣極鬼が振るった大剣は、インジャオが身に纏う鎧を裂き……中途半端な位置でとまったのだ。

 大剣をとめたのは、インジャオの骨。


 誰も気付かぬまま、そこまで硬化していたのである。

 普段からあまり鎧を脱ぐ事がなかったため、インジャオも気付いていなかったのだ。

 既に、身に纏っている鎧よりも硬くなっており、頭部を除く全体の四分の三が同じように硬化している事に。


 これは、ある意味ウルルがもたらした事。

 未だに様々な鉱物を与えている結果だ。


 剣極鬼からは鎧で見えないが、インジャオは骨でとまった事に気付く。

 だからこそ、先に動く事が出来た。


 大剣が鎧を裂いたままで前に出て、剣極鬼の手を殴る。

 衝撃と痛みで剣極鬼は大剣を手放す。

 インジャオの硬さが想像以上だったのだ。


 軽く後ろにのけぞった剣極鬼に対して、インジャオは追いすがるように前に出ながら剣極鬼の大剣を手に取り、横薙ぎに一閃を振るう。


 インジャオの時とは違い、大剣は振り抜かれ、剣極鬼の上半身と下半身は分かれる事になった。


「まさ、か……」


 その呟きを残して剣極鬼は絶命。

 大きな音を立てながら、上半身、下半身共に倒れる。


 インジャオは、大きく息を吐くような仕草を見せた。


「副官でコレとは……まだまだという事ですか」


 己の力を再確認したインジャオは、更なる強さを心の中で求める。

 因縁のある魔王ヘルアトを倒すために。


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