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この行く道は明るい道  作者: ナハァト
第九章 亡国・武国ドレワーグ
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気を張り続けるのは難しい

 上大陸で魔物を倒しながら進んでいった先にあったのは、荒廃というか、廃墟というか、廃れているのは間違いないと言えるような大きな町だった。

 外壁もほとんど残っていない。


 また、少し遠く、町中の大きな通りを進んでいった先に廃城も建っている。

 元々どこかの王都だったんだろう。


「……王都ランリードか」

「知っているんですか?」


 アドルさんの呟きが聞こえたので尋ねる。


「上大陸で最後まで大魔王軍に抵抗した国の王都だ。国の名は「武国ドレワーグ」。軍事国ネスと同等の戦力を有する国だった。私の国も元々は上大陸にあったという事もあってな。それなりに付き合いがあったよ」

「そうなんですか。……あの、生き残りって?」

「ドレワーグ出身は軍事国ネスに多く居るかもしれない。だが、王族は既に居ない。最後まで戦う。そういうヤツだったよ」


 言葉にする事で思い出したのか、アドルさんの廃墟の王都を見る目に哀愁を感じる。

 アドルさんの言うように、付き合いはそれなりだったのかもしれないけど、それなりに気に入ってはいたのかもしれない。


 インジャオさんとウルルさんも知っているのか、インジャオさんは黙祷しているように見えるし、ウルルさんもどことなく懐かしんでいる雰囲気だ。


「……それで、目的地はここで良いのか?」


 アドルさんの問いに、セミナスさんに確認。


⦅はい。ここです⦆


 セミナスさんの答えに、俺は確信した。


 アドルさんたちにとって刺激になるような事が起こるというのは、ここの事だろう。

 何しろ、アドルさんたちは元々上大陸にあった国の関係者。

 同じような国の結末を目で見る事で、今一度気を引き締めるために。


⦅違います⦆


 違ったようだ。

 ちょっと自信があっただけに恥ずかしい。


 でも、そう思っていたのは俺だけではなかった。


「なるほど。そういう事か」


 そう言って、アドルさんが自信満々に語る。

 俺と同じ事を。


 アドルさんを直視出来ない。

 思わず顔を両手で覆う。


「……というセミナスさんの意図だろう? アキミチ」


 アドルさんから見られている気がする。

 俺は両手で顔を覆っているので見えないけど。


 でも、そんな俺の態度で察したのだろう。

 アドルさんが黙ってしまったので、指の隙間からチラッと覗き見ると、俺と同じように顔を両手で覆っていた。


 気持ちは痛いほどわかる。

 アドルさんはインジャオさんとウルルさんに慰められていた。

 俺も慰めて欲しいが、エイトたちは周囲の警戒をしているので無理。


⦅では、ここの王族と共に最後まで抵抗した神共が封印されていますので、その解放を行います⦆


 うん。それはわかったけど、俺の気持ちは放置なの?

 ……まぁ、俺の場合は誰にも知られていない訳だし、自分で復活するから別に構わないけど。


 それで、神様はどこに封印されているの?


⦅もちろん、このような場所なのですから決まっています。廃城です⦆


 ですよね。

 そうだと思った。


「アドルさん。廃城に、封印場所があるそうです」

「……わかった。では、早速向かおう。だが、荒廃したとはうえ町中を進み、廃城とはいえ城内を進むのだ。死角が多く、上大陸が大魔王軍に占領されている以上、どこから魔物が現れてもおかしくない。充分に気を付けるように」


 アドルさんの注意に、全員で頷く。

 まぁ、セミナスさんが居るから、そこら辺は問題ないだろうけど、だからといって注意をしなかったり、怠るのは違う。

 自分で出来る事は、自分でしないといけない。


⦅その通りです、マスター。良い心掛けですが、私としては存分に頼っていただいて構いませんが? 駄目になるまで甘やかしてあげましょう。それこそ、私なしでは生きていけないくらいに⦆


 それは駄目じゃないだろうか。

 甘やかすってレベルじゃないと思う。


 しっかりしないと、と思いながら進む。

 実際、町中に魔物は居た。

 そりゃそうだろう。外壁がほとんどない訳だし、出入り自由なのだから。


 ただ、はっきり言えば、今のメンバーで俺を除けば、全員が一騎当千級なのは間違いない。


⦅マスターには私が付いていますが?⦆


 うん。俺はセミナスさん抜きの力でカウントしているから。

 それで、そんな一騎当千級ばかりが、油断なく進んでいるのだ。

 意表を突けない以上、敵ではない。


 特に、先頭で進むインジャオさんは、荒廃している家屋の陰から出てくる魔物を次々と斬り倒していた。


「インジャオばかりずるいぞ。私にも戦わせろ」

「私にも先頭を任せてよ。ほら、獣人だし。色々感覚が優れているしさ」


 アドルさんとウルルさんが、なんかワキワキしている。

 油断している訳じゃないと思うけど、もう少し落ち着いて欲しい。

 それに。


「荒廃した町……廃城……なんでしょう。この風景を見ていると心にくるモノがあります」

「あぁ、なんかそういう趣味もあるって知識があるな」

「確かにありますね。ですが、私も嫌いではありませんよ」


 エイトたちの方が、緊張感はない。

 ちょっとした観光気分だ。

 体に余計な力が入っていないという部分では良いかもしれないけど、もう少し真面目に取り組んで欲しい。


 ……まぁ、いつも通りっちゃ、いつも通りだけど。


 そんな周囲の様子を見ていると、自然と俺も脱力してしまう。


⦅マスター。左に跳んで下さい⦆


 え? と一瞬判断が遅れて、反応が鈍る。

 右にある壁が突然崩れ、魔物が飛び出してきた。


「ちぇい!」


 が、魔物が俺に何かする前に、エイトが飛び膝蹴りで倒した。


「気を付けて下さい、ご主人様」

「気が抜けちまってたのか? 駄目だぜ、主」

「どこから現れるかわかりませんからね。充分に気を付けて下さい、アキミチ様」


 エイトたちから注意を受けて、アドルさんたちもその通りだと頷きを返す。

 いや、確かにそうだけど……なんだろう。

 理不尽っ! と叫びたい。


 でも、今のは完全に俺のミス。

 セミナスさんの言葉に即座に反応出来なかった俺が悪い。


 ……それにしても、さっきのは本当に危なかった。

 エイトに感謝だな。


⦅きちんと間に合うように予測した結果です⦆


 ……どゆ事?


⦅マスターの張っていた気が緩々になってしまいましたので、今一度気を張っていただこうかと⦆


 なるほど。セミナスさんの言う通りだ。

 次からは前のようにきちんと反応出来るように、気を引き締めて行こう。


 そうして廃城まで進んでいくが、これ以降は特に何も起こらなかった。

 ほんと、気を引き締めたらコレだよ。


 気が付けば、廃城に辿り着いていた。


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